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幼馴染でセフレのあの子はボクが先に好きだったのに!  作者: 星の内海
第一章 幼馴染でセフレのあの子はボクが先に好きだったのに!
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女三人寄れば文殊の知恵も姦しい

「数学ってさあ……なんで急に五人に分身したの? 五等分の数学なの? でも私、数Aちゃんとか数Bちゃんとは友達になれる気がしないわ。来年出会う数Ⅲちゃんもきっとすごく気難しくて怖い子なんだわ」


 スズちゃんがまたよくわからないことを言っている。


「あ~、大学は絶対文系がいいわ……。スーガク一族とかいう連中と関わることのない人生を選ぶわ……」


 言いながら、スズちゃんは教科書と真っ白なノートを前にペンをくるくる弄っていた。


 ボクがスズちゃんのキープちゃんになってからしばらく経ち、季節は夏本番が近づく、7月半ば。

 梅雨のじめじめした暑さが明けて、太陽の熱線がアスファルトをじりじり焦がし、蚊も蝉も焼き殺す暴力的な暑さが訪れ始めていた。

 この時期といえば、夏休みを楽しみに待っている高校生に最後に立ちはだかる関門、期末テストが迫っている。

 部活動もお休み期間なので、ボクとスズちゃん、そしてのんちゃんの三人は、スズちゃんの家でお勉強会をやることになった。

 スズちゃんの部屋で折りたたみ式のこたつテーブルを広げ、三人向かい合って分からない箇所をお互い教え合うつもりで勉強していたのだが……。


「でも、共通テストに数学はあるよね」


「うえぇ……まだしばらくはコイツらと戦わなきゃいけないのか……」


 ボクの言葉に、スズちゃんがうなだれる。


「まあ、わかんないところは明日まとめて先生に聞けばいいじゃん」


 と、のんちゃんが解けない問題に付箋を貼りながら言う。

 三人とも学力は平均レベルだ。三人寄れば文殊の知恵なんていうけれど、わからない人が三人集まってもわからないものはわからない。


「はぁ……煮詰まってきたし、休憩しましょ。お茶入れてくるわ」


 そう言って、スズちゃんは部屋を出て台所に向かった。

 のんちゃんも教科書を閉じ、ぐ、っと伸びをした。


「そういえばネコっち、あれからスズっちとはどうなったん? 元気になったってことは良いほうに転がったんだろうけど」


「うん。おかげさまでキープちゃんになったよ」


「……ごめんもっかい言ってくれる?」


 おおう、当然のことながら、のんちゃんがすごく怪訝そうな顔をしている。


「キープちゃん。愛人。セカンドパートナー」


「えぇ……ネコっちがそれでいいならいいんだけど……」


「まあ、ボクは満足してるよ。後輩ちゃんにライバル宣言もされたし」


「えっバレてんの?」


 ああ、のんちゃんがすごくドン引きしていくのが表情の変化で伝わってくる。多分セフレのことも伝えたらもっと引くんだろうな。


「いや、バレてはいないと思う……多分」


 そういえば、あれ以来特に茉莉也ちゃんとは何事もない。

 関係がバレたのか、それとも何か別の要因でライバル認定されてしまったのかも、結局わからずじまいだ。


「はぁ……奪い取れって言っちゃったあーしのせいかこれ」


 話しているうち、スズちゃんが氷と麦茶が入ったコップ三つと、スナック菓子の入ったお皿をお盆に乗せて戻ってきた。


「ただいまー。何の話してたの?」


「ボクがスズちゃんのキープちゃんになった話をしていたよ」


 ボクの言葉に、スズちゃんは腕をがたがた振るわせる。お盆の上の麦茶が飛沫を立て、スナック菓子が躍っている。


「は!? ちょ、な、何言っちゃってくれちゃってんの」


「のんちゃんだからいいかなって」


「……まあ、のんならいいか」


 納得したのか、スズちゃんはお盆をひっくり返すことなくちゃぶ台の上に置き、コップをボクらの前に並べ始めた。


「いや何その信頼感。重いんだけど」


 ため息とともに、のんちゃんは肩を落とした。




―――




「そういえば二人って夏休みの予定あるの?」


 スナック菓子を口に放り込みながら、スズちゃんが定番の質問を繰り出した。


「あーしは平日ほとんどバイトかな。スズっちは彼女とかキープちゃんとかと予定あんの?」


 キープちゃんはよして……と言いつつ、スズちゃんが答える。


「実はまだ何にも決めてないのよ。茉莉也とは『テスト終わったらどこ行くか決めましょう』って。だから先にアンタたちとの予定を決めておこうかなって思うわけよ。三人でどこか行きたくない?」


「スズっち、あーしのこともキープちゃんの一人としてカウントしてないよね?」


 のんちゃんはさっきからスズちゃんに辛らつだ。仕方ないけど。


「してないわよ! 友達! 純粋に友達三人で遊びたいだけよ」


「あ、それじゃあ、ユニオンパーク行かない? 今度Vチューバーとコラボするよ。この子、スズちゃんの推しでしょ」


 ボクはスマホでコラボ特設サイトを開き、スズちゃんに見せる。


「へぇ~。あんたの推しもいるじゃない。これはアリね」


「ユニパかぁ~」


 のんちゃんはスズちゃんからスマホを受け取り、画面を見る。


「あーしはパスかな~。実は今度家族と行く予定あって。Vもちょっとわかんないし」


「そっか、残念」


 と、のんちゃんからスマホが帰ってくる。


「っていうかスズっちと遊ぶなら、あーしはカラオケ行きたいんだけど」


「あー、そうだね。いつもボクとのんちゃんの二人だし」


「カラオケね、いいわよ。いつにする?」


 スズちゃんは自分のスマホを取り出し、カレンダーのアプリを開いた。


「平日と、夏休み最初の土日以外なら空いてるよ」


と、のんちゃん。


「じゃあ26にしましょ。この三人で行くなら安心だわ~。気楽に人の知らない曲歌えるもの」


「スズっちって何歌うの?」


 のんちゃんの問いに、スズちゃんはUTubeのお気に入りリストを見せながら答える。


「これ。さっき言ってた推しのVのオリ曲とか、あとはホラー映画のエンディングテーマとかね」


「へぇ~。あとで聞こ。あーし覚えるから勝負しようぜ」


「もちろん良いわよ~。っと、そういえばさっきのユニパコラボ、期間あまり長くないしユニパはその前の木曜日がいいわね」


「オッケー。お母さんに頼んでチケット買っておくよ」


 ボクの言葉に、スズちゃんは笑顔で頷いて、話を続ける。


「8月とかどうする? カラオケ以外にも遊びに行きたいんだけど」


「あ、ボク服見たいんだよね。この前のんちゃんのおしゃれ私服観てから、ちょっと自分のを何とかしなきゃと思うようになってきてて」


「いいわね、私も新しい服買わないと」


「じゃ、あーしが二人まとめて服の面倒見てやりますか。10日でいい?」


 のんちゃんが提案し。ボクら二人が頷く。


「じゃあ、その代わりにさ、二人にお願いがあるんだけど」


 一転、神妙な顔つきになって、のんちゃんが言う。


「さっき言ってた最初の日曜日さ……日本橋にプロアイのコラボカフェ行くんだけど」


 プロアイとは、『プロフェッショナルアイドル』というのんちゃんが好きなソシャゲと、それを原作とするアニメシリーズだ。


「実は()イッターのフォロワーと一緒に行くことになってさ」


「へー、オフ会ってやつ?」


と、スズちゃん


「うん。でもあーしネットの友達とオフで会うの初めてでさ。ホラ、なんか時々危ない人が混じってるって言うじゃん。その人のアカウント見てたら多分普通の人だとは思うんだけど」


 と、のんちゃんはそのフォロワーのアカウントを見せてくれた。

 掲載している写真で人物を特定できそうな情報は手くらいしか映っていないが、典型的なオタク女子っぽいアカウントだ。


「それで、良かったらその日一緒に日本橋来てさ、その人に会うとこを遠巻きに見守っててくれない? そんでもし危なそうな人だったら通報してほしいんよ」


「へー。探偵みたいで楽しそう。いいよー。スズちゃんは?」


「もちろん行くわよ。安心しなさい。のんのことは私が守ってあげる。もし汚いおっさんが現れたら速攻ぶっとばしてやるわ!」


「いや、通報してね……」


 と、ジト目になるのんちゃん。

 次々と埋まっていく予定に、ボクらはとってもウキウキしていた。が、


「まあアレだけどね。テストで補修食らったら今の予定半分は消滅するけどね」


 というのんちゃんの一言を皮切りに、三人とも無言で休憩を切り上げ、粛々と勉強の続きを始めるのであった。



 ―――



「そういえばさ、スズっちはずっとここで一人暮らししてんの?」


 勉強会もお開きとなり、もう一度麦茶で一服しているとき、のんちゃんがそう切り出した。


「うん。中学んときからね。パパもママも海外だから」


「へぇ……やっぱ寂しい?」


「そりゃ少しはね。でもネコも、おばさま――ネコのお母さんもいるし。夕飯はネコがいつも一緒に食べてくれるし。時々あっちの家にいって三人で食べたりもするのよ。パパとママもどっちかはツキイチで帰国するし」


「へぇ……でも飯以外の家事とか大変じゃない?」


「パパの書斎とか両親の寝室とかはずっと開かずの間だからちょっと中が怖いけど……でも慣れたものよ。掃除も洗濯もお任せあれ」


 と、スズちゃんはどこか得意げだ。


「スズちゃん、最近料理も始めたよね。ボクのために」


「そうそう……ってまたのんの誤解を招くようなこと言わないでよ」


「ああうん、二人の仲の良さはもう十分わかったよ」


 ごちそうさま、とでもいうように、のんちゃんは手を合わせた。


「そんで、スズっちとネコっちのご両親ってどんな仕事してるの? ベンチャー企業って言ってたけど」


「実はねー、悪魔祓い師として世界中の悪鬼悪霊と戦っているのよ」


「……そうなんだ。すごいね……」


「そこはツッコンでよのん!」


 可愛そうなものを見るような目になったのんちゃんに、スズちゃんは慌てて訂正する。


「そういう風に中学の時までは言われてたの! おかげで私はそのころ『私は最強の霊能者の両親の血を引いているんだ……私はいつかきっとそれ以上の霊能力者に覚醒する日が来るんだ……!』とかガチで思ってたんだから。ホラーにハマったのもそのせいだし」


「おおうリアル中二病」


「でも本当はビブリオ・ディテクティブなんだって」と、スズちゃん。


「ビブ……何? 結局中二病?」


 のんちゃんが眉をひそめる。


「ビブリオ・ディテクティブ。本の探偵だよ。コレクターからの依頼を受けて希少価値の高い本を世界中飛び回って探すんだって」


「へぇ~。知らない世界だ」


 ボクの言葉に、のんちゃんが目を丸くする。


「最近はそれだけじゃ稼げないからって古物商も始めたらしいけどね。まあやってることは同じで、世界中飛び回って珍しい品物を探してるの。自分の足で探してくれるからお金持ちな顧客からの信頼度が高いんだってさ」


「へぇ~。かっこいいじゃん」


「そう、すごくかっこいい自慢の両親よ」と、スズちゃんは得意げだ。


 でもボクは知ってる。スズちゃんは内心すごく我慢しているんだってことを。

 だって――。




 ―――




「うわ、スズちゃんこれ……痕すごいよ。歯形くっきり」


 のんちゃんが帰った後、ボクは今日も()()()した。

 お風呂の中の大きな鏡で自分の体を確認すると、お腹の右側にスズちゃんの噛み跡がはっきりと残ってしまっていた。


「う。ごめん……」


 浴槽の中で申し訳なさそうにしているスズちゃん。


「のんちゃんみたいにお腹出さないから、わかんないけどね~」


 ――ご両親の話をした日、スズちゃんの攻めは普段より5割増しで激しくなる。


 自分で『指だけ』って言ってたのに、今日はそれを忘れるほどだ。


(まあ、これも役得だよね……)


 ボクはお腹に残った噛み跡を、そっと撫でた。

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