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幼馴染でセフレのあの子はボクが先に好きだったのに!  作者: 星の内海
第四章 太陽みたいに明るい未来
49/60

愛欲

 ご飯を食べた後は、いつものようにリビングのソファに座ってテレビを観た。

 あまり面白そうな番組がやっていなかったので、Utubeアプリを立ち上げスズが好きな配信者のアーカイブを流す。画面の光が、部屋の隅の影を曖昧にした。


 ボクはスズにぴったりくっつき、彼女の肩に頭を軽く乗せる。スズの体温と、髪からほのかに漂う香りを楽しむ。


「ユニパに行った時さ、マリちゃんに『お互いの推しVがお互いに似てる』って指摘されてちょっと焦った」


「あ~、言われてみたらこの子アンタにちょっと雰囲気近いかも」


 画面の右下でしゃべっているLive2Dのイラストに、スズがそう感想を漏らす。流石にボクが画面の女の子みたいに可愛いはずないけど、雰囲気が似ていると言われれば、そうなのかもしれない。


 実況されているのはホラーゲーム。昔は死ぬほど苦手だったけれど、こうして見ると意外と見られる。

 ボクは、マリちゃんがいつか言っていた『自分より怖がっている人がいたら案外平気』という言葉を実感していた。このV、めっちゃ怖がりなんだもの。リアクションがいいので、ホラーシーンよりもそちらに気を取られる。


「ねえ、スズ」


「なあに?」


「今日、泊っていい?」


「……いいわよ」


 ボクらの合言葉。

 セフレ時代から続けてきた、セックスしたい、という意思表示。二人っきりの時にこれを言うのも久しぶりだった。


 スズに、今すぐ抱かれたかった。単純に、文化祭の準備やら何やらでご無沙汰だったこともある。けどそれ以上に、マリちゃんが離れていったという事実を飲み込んだ今、寂しさを今すぐにでも埋めたかった。同時に、スズが自分だけのものになったことを証明したいという欲も芽生えていた。

 ボクはスズに寄り掛かったまま、抱き着くように手を回す。


「スズ」


「うん」


「もっと甘えていいよ?」


「うん?」


 戸惑うように、スズはボクの顔を見た。


「だってスズ、マリちゃんにフラれてさ、本当はもっとショックだったんじゃないの」


「だからフったんだってば。何回言わせるのよ」


「スズ」


 今はそういうのいいから、と言う代わりに、スズを抱きしめる力を強めた。ボクの心臓の鼓動が、彼女の体に伝わるのを感じる。


「わかってるよ。ボクに気を使ってわざと気丈にふるまってたことくらい。なんだかんだ言ったって、恋人と別れるのが、辛くないわけないじゃんか」


「――ッ」


 バッ、と顔を背けるスズの頬を捕まえて、もう一度こっちを向かせる。涙は見えなかったが、耳の先が真っ赤に染まっていた。


「これからは、そういう隠し事なし」


「……カッコつけさせてよ、もう」


 頬を染めるスズの唇に、そっと自分の唇を重ねる。

 柔らかい感触と、じんわり広がる温かさを、時間をかけて味わった。


 唇を離すと、スズがローテーブルの上のリモコンに手を伸ばそうとする。

 ボクはその手首を掴んで、自分の胸へと引き寄せた。


「ちょっと、推しに見られてるみたいで嫌なんだけど」


「『離れないように努力』してくれるんでしょ? 推しの声が聞こえてても、ボクから目を離さないでよ」


「……ったく、重い女」


「嫌い?」


「大好き」


 スズは服の上から、僕の胸の感触を確かめるようにそっとなでる。右胸に触れながら、心臓の鼓動を確かめるように、左胸に耳を押し当てた。その仕草に、彼女の不安と愛情が凝縮されている気がした。


「甘えていいのよね、ネコ」


「うん」


「良かった」とスズはにっこりと笑って、ボクの体から離れると――。


「じゃあ、今からアンタを全身全霊でブチ犯すから」


 いきなりガシッ、と、ボクの両手首を掴んだ。その瞳の奥には、先ほどの弱々しさはなく、ギラギラとした熱情が宿っていた。


「――へっ?」


 ボクの想定していた「甘え方」とは、あまりにもかけ離れた宣言だった。


「アンタの言う通り、マリと別れて辛い気持ちとか、もっとうまく立ち回れたらとか、そういう私の中で渦巻いてるもやもやした感情、今から全部アンタにぶつけるから。だから――ちゃんと受け止めて?」


 いや、そういう甘え方は想定外――!

 抗議しようとした口を、乱暴に唇でふさがれ、そのままソファに押し倒された。

 服がずらされ、ブラの隙間から滑り込んできたスズの手が、先ほどより強い力でボクの胸の感触を楽しみ始める。

 唇はこじ開けられ、舌が与えてくる刺激がボクの脳内を蹂躙する。


「んっ、あ――」


 同時に、胸の先端を指先で軽く弾かれる。


 ダメだ、こうなったスズはもう止まらない。

 ボクはもうあだ名の通りネコとして、タチ様が与えてくれる快楽に身を委ねる以外、もうどうしようもない。

 あっという間に服と下着が剥ぎ取られ、スズの唇が頬から肩、首筋、胸、お腹と全身に熱く降り注ぐ。


 やがてスズの唇は、ボクのいちばん敏感な部分へと降りていく……。


「って待って待って! そこ舐めるなら先にお風呂入らせて! せめてシャワー!」


 ボクはスズの顔を太ももで挟んで阻止。ソファに手をついて起き上がろうとする。


「今さら気にする仲でもないでしょ」


 スズは両手を使ってボクの太ももをこじ開けようとする。負けじと全力で抵抗。いくらボクが非力でも、腕の力と脚の力では脚のほうが圧倒的に強いハズだ。


「ったく……」


「――ッあっ!」


 スズが、ボクの太ももの内側、柔らかい皮膚に容赦なく歯を立てた。

 ぐぐぐ、と皮膚に食い込んでくる熱い感触が痛みと快楽を呼んで、ボクの脚の力が弱まっていく。

 その隙にスズは両肘を使ってボクの両足を強引にこじ開けた。


「あ、うぁ……」


「観念なさい。ネコ。甘えていいって言ったのはアンタよ」


「ボクの知ってる甘え方と違う……!」


「それじゃ、価値観のアップデートね~」


 そこからは、どんな抵抗も無意味だった。

 ボクはスズの底知れない愛欲と、隠し持っていた鬱屈とした感情の全てを一晩中受け止め、快楽に身悶え狂わされるのだった。




―――




「……朝か」


 カーテンの隙間から差し込む朝日で目を覚ます。

 いつの間にかソファからスズのベッドの上に移動していたみたいで、ボクもスズも裸のまま柔らかいマットレスの上で横たわっていた。


 スズはまだ寝ているようで、艶々とした肌で満足げな表情を浮かべながら寝息を立てている。


 まったく、ひどい目に遭った。

 セーフワードとか決めておくべきだったかもしれない。

 あまりにも盛り上がりすぎて、何度絶頂させられたか数えるのもやめてしまった。

 考えてみれば、ここ数ヶ月で受け二人を満足させるレベルにまで昇華したスズの攻めを、これからは独りで受け止めなくてはならないのだ。もっと体力をつけないとこの先持たないかもしれない。


 まだ火曜日だっていうのに、これじゃ確実に今日の学校に響くだろう。ボクの体は鉛のように重く、全てをベッドに置いていきたい気持ちでいっぱいだった。


「ふぁ……」


 重い体を起こし、頭をかるく掻きながらベッドから降りる。

 台所に行って、水を一杯飲む。乾いた喉が潤う。

 一度顔を洗ってシャキッとしてから戻ろうと洗面所に入ったところで、鏡に映った自分の惨状に気づいたボクは、悲鳴を上げた。


「うわあっ! スズ! スズ〜!!」


「な、なに、どうしたの!?」


 ドタドタドタ、と僕の叫びを聞いて飛び起きたスズが全裸のまま廊下を走って洗面所に飛び込んでくる。


「スズ、こ、これ、どうしよう」


 鏡に写ったボクは、首筋から肩にかけて大量の赤い斑点に覆われていた。

 もしやと思って、洗面所横のお風呂の大鏡を見る。

 ボクの全身は、スズの「甘え」の跡で埋め尽くされていた。


 キスマークは首筋や胸元だけでなく、腰や内股などあらゆる個所に合計で二十七カ所。

 噛み跡は、お腹を中心に、肩口、太ももなど計六カ所。


 とても人前に出られる姿ではない。肌を見せる衣服なんて絶対に無理だ。

 学校に行く以前に、隣にあるボクの家に制服とカバンを取りに行かないといけないのに。

 こんなのお母さんに見られたら大惨事だ。ボクとスズの関係が即バレしてしまう。


「どーすんだよー! こんなのスズの家から出られないじゃん!」


「ごめーん! 調子に乗りすぎましたー!!」


 スズはその場で全裸のまま、頭を床に擦り付けんばかりの勢いで土下座した。その姿は滑稽だが、ボクは笑える状況ではない。

 セフレ時代や、マリちゃんとの3Pではこうならないようお互いに気を付けていたって言うのに、正式に二人っきりの恋人になったとたんこれだ。スズのせいにしたかったけどひたすら快楽に身を委ねてしまった自分のせいでもある。要するに二人ともはしゃぎすぎていたのだ。


 ボクはしばらく鏡を見ながら猛省するしかなかった。


 幸い、スズがタートルネックのインナーを持っていたので、服の下にそれを着て家に帰った。お母さんには「最近寒くなってきたもんね」となんとかバレずに済み、インナーはそのままで制服に着替えて登校することになった。スカートの下にはジャージを履いて、隠蔽工作は完璧……。


「お盛んだねえお二人さん……」


「「うっ」」


 完璧だったはずだけど、のんちゃんには一発でバレた。どうして。

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