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幼馴染でセフレのあの子はボクが先に好きだったのに!  作者: 星の内海
第三章 幼馴染のアイツはオレが先に好きだったのに!
29/60

クランの女王

 とにかく、映画を撮るには事前の準備が大切!


 ――ということを、ボクはこの二週間で嫌ってほど思い知った。


 スズの脚本が完成しても、すぐに撮影開始! とはならない。

 まずは脚本を全員で読み、内容や構成を検討し、推敲を重ねる脚本会議を行う。

 決定稿が出来た後はキャスティング。基本的には部員内からの立候補だけど、一応簡単なオーディションを行って、演技力やキャラクターのイメージに合うかを確認する。


 監督は絵コンテを描き、俳優は脚本の読み合わせ。撮影に使用する衣装や、小道具の作成も並行して行う。

 さらにカメラワークなどを確認するリハーサルを行い、本格的な撮影に備えるのだ。


 クランクイン当日の今日。ボクらは空き教室に机や椅子を並べなおして、セットを作った。

 撮影が始まるまでの時間、各々セリフを読み合わせたりして、コンセントレーションを高めている。


「大丈夫、僕が必ずミサキのことを守ってみせる」


 主人公のアカネ役、谷頭真魚。

 真魚ちゃんは映研の役者担当を自称していただけあって、演技力は文句なしだった。

 お姉さんから文句が出たりすることも特になく、すんなりと主演に決定。


「うん……お願いね、アカネちゃん……」


 ヒロインのミサキ役、如月茉莉也。

 オドオドした感じのキャラクターで、普段のマリちゃんとはちょっと違った印象ではある。

『どうせやるなら目立つ役がいいです!』と、彼女自ら志願した。他は幽霊役しか残っていないんだけど。

 演技は最初真魚ちゃんに比べるとかなりたどたどしかったが、脚本が出来てから結構自主練していたらしく、今日はちょっとこなれてきている。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……げほっ、げほっ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 脚本 兼 幽霊役、法月鈴音。

 鈴音は脚本でありながら主人公とヒロインの両方のオーディションに挑戦したが、演技が棒過ぎてあえなくどっちも不合格。

 結局セリフのない幽霊役に決まった。

 髪の長さもあって、衣装を着て、ウィッグをつけて顔を隠すとなかなか雰囲気が出せている。


「あの、法月さん。幽霊っぽい声とかは別撮りで構いませんから」


「そうなの!?」


 カメラマン、桂樹晶子。

 さっきカメラ見せてもらったけど、なんかすごいいいヤツっぽかった。

 桂樹さん、映研のその日の活動が終わったと思ったらすぐに帰っちゃうし、全然話す機会がないんだけど、鑑賞会や脚本会議を通じて、とにかく『撮る』ことに並々ならぬ情熱を捧げている人だということは分かった。

 彼女のことは由比先輩も信頼しているみたいで、意見が出れば積極的に取り入れるようにしていた。


「監督が言ってたでしょ。幽霊が大口開けて変な声出そうと必死にしてたら怖くなくなるって」


 助監督は、ボクこと桜木祢子。

 助監といえば聞こえはいいけど、現場での雑用は全てボクがやることになる。

 雑用……雑用か。大変だとは思うけど、他に出来ることもない。

 でもそう考えると、もしかして最初に妹のことを『雑用』と紹介した由比先輩は、やることが多くて大変な助監督を助っ人じゃなくて部員にやらせようとしていたのかもしれない。


「みんな……そろそろ始めましょう」


 監督、谷頭由比。

 映画研究会の頼れる部長……いや、女王(クイーン)だ。

 オカ研では占いで有名だったらしいけど、この人が今回撮る映画について、何かを占おうとしたことは――少なくともボクの見ていた限りでは――一度も無かった。

 そういう切り分けが出来るんだろう。この二週間でボクは彼女のことをすっかり尊敬してしまっていた。


 なんでも、父親が海外では有名な映画プロデューサーらしい。高校生離れした映画知識はそのせいか。

 観たばかりの映画を即座に考察、分析して解説してくれるなんて、ボクには天才の所業としか思えない。


 っていうか真魚ちゃん、キミの実家結構すごいんだな……。


 こうして、映研部員三名、助っ人三名による映画はついにクランクインとなった。


 タイトルは『鏡の中』

 主人公のアカネは、いじめられっ子のミサキを救うため、いじめっ子グループと度胸試しの勝負を行う。

 勝負の内容は、アカネとミサキの二人で深夜の学校に忍び込み、深夜零時丁度に、被服実習室にある大鏡の写真を撮ること。


 その学校には『被服実習室の大鏡を深夜零時丁度に見ると、未来の自分の姿が見える』という噂があり、その真偽の確認も兼ねた勝負だった。


 だが学校に侵入したアカネとミサキを、赤い女の幽霊が妨害する。

 追い詰められたアカネは、自分が幽霊を引き付けてミサキに写真を撮らせることに成功。

 何とか赤い幽霊を振り切った二人は、命からがら夜の校舎から逃げ出した。

 翌日、夜の冒険を経て仲を深めた二人。ミサキは以前よりも明るく元気になったようだ。撮ったはずの写真は真っ黒だったが、いじめっ子たちも何故か学校に来ておらず、二人は平和な日常を手に入れた。


 だが、誰もいないはずの被服実習室の大鏡には、助けを求めるミサキの姿。

 再び現れた赤い幽霊は悲しげな表情でそれを見つめる――。


 というのが大まかなあらすじだ。

 ようするに、大鏡の噂はフェイクで、赤い女は実は二人を鏡から遠ざけようとしていた良い霊。ミサキは写真を撮った瞬間鏡の中にいた何かと入れ替わられてしまった。というなかなか後味の悪いバットエンドなストーリー。


 脚本会議でもネックになっていたのは、鏡の中にいる人間をどう撮影するかだったが、それは由比先輩が解決してしまった。

 何と実家の倉庫にあったという大きなマジックミラーを持ってきたのだ。これをみんなで装飾して、撮影用の小道具として作り替えた。


「これなら、鏡の向こう側から撮ることでミサキちゃんになり替わろうとする怪異からの視点が撮れるし、裏返してうしろに黒い幕を張れば、鏡の世界にとらわれたミサキちゃんを演出できるわ」


 とのこと。撮影中は被服実習室の倉庫に置かせてもらえるよう顧問の先生がお願いしてくれたらしい。

 すごいな映研顧問。この二週間で一回も会ったことないけど。


 映画のメイン部分は夜だが、学校から夜の撮影許可が下りている日は一週間先だ。

 それまでは冒頭やラスト付近のシーンを撮影することになる。


 早速、真魚ちゃんとマリちゃんが先ほどまで練習していた冒頭のシーンの撮影となった。

 アカネちゃんがいじめっ子集団からの挑戦を受け入れたことを、ミサキちゃんに語るシーンだ。


「大丈夫、僕が必ずミサキのことを守ってみせる」


「うん……お願いね、アカネちゃん……」


 頼もしい主人公の真魚……じゃなくてミサキちゃんが、どこか不安そうな、いじめられっ子のアカネちゃんの手を取って勇気づける場面。


 おお、なんていうか……顔近くね? この話百合ものだっけ? 視聴者視点なら、女の子二人いるだけでいくらでも百合を見いだせるんだけど。

 監督の演出意図あってのことなのか、真魚ちゃんがせっかくの機会だからってイケイケドンドンしているのか。

 役者であることに拘りがありそうだから、真魚ちゃんはそこに私情をはさんだりしないと思いたいけど……。


 スズはどうだろう。嫉妬してたりしないかな。

 そう思って彼女のいるほうを振り向くと、スズは監督の隣で二人の演技を熱心に見入っていた。

 嫉妬どころか、なんだかすごくいい顔をしている。興奮しているような、高揚しているような。


 そういえば、スズが嫉妬するところって見たことないかも。


「カーット!」


 監督――由比先輩の声が響く。


「今のシーン、もう一回撮っていいかしら。真魚、あんまりガって行くと如月さんが緊張しちゃう。ちょっと抑えなさい」


「わかったよねーちゃ……カントク」


 監督の要望に応えようとする役者としての矜持だろうか。意外にも真魚ちゃんは従順だ。


 その後も、同じシーンを何テイクか撮った後、別のシーンに移る。

 今度は終盤のシーン。ちょっと明るくなったミサキ(本当は偽物)が、アカネちゃんと仲睦まじい姿を見せる日常シーン。

 初見だとほっこりするかもしれないけど、この後のオチで視聴者の感情をひっくり返すための大事なシーン。


「一緒に帰ろっ、アカネ」


 そう言って、アカネちゃんの手を取るミサキちゃん。

 ちょっと快活そうな様子は、普段のマリちゃんみたいだ。


 このシーンも何テイクか撮って、いったん休憩。


 それにしても、なんていうか……。

 脚本を書いたのはスズだけど、この状況、真魚ちゃんに得すぎないか? 色んな意味で。

 そういえば……由比先輩って、真魚ちゃんがマリちゃんに好意を抱いていること、知っているのか?

 っていうか、オカ研の部長なら、スズとマリちゃんの関係は知っているはずだよな。あれ?


 ちょっと待って? ボクらのこと、どこまで知っているんだ、この人。


「スズせんぱ~い」


 マリちゃんが、スズのもとへ駆け寄って、飛びつく。


「どうでした? 私のミサキちゃん、スズ先輩の思った通りにできましたか?」


「バッチリだったわよマリ~。ハリウッドスターもびっくりね。可愛いからハグしちゃお」


「えへへぇ~」


 いつもよりテンション高めなスズとマリちゃん。周りに部員しかいないせいか、外でこんないちゃつくの珍しい。

 そんな二人を真魚ちゃんが苦々しげに見つめる。

 そうだよこの形が正しい在り方だよ、なんでいつも真魚ちゃんの嫉妬の視線を向けられてるのがボクなんだよ。


 ふと、由比先輩を見る。これまで見せたことのない表情に、面喰ってしまう。

 ……あれ笑ってね? 嫉妬する真魚ちゃんのこと見てニヤニヤしてないかあの人。

 あんな顔、初めて見たんですけど?


 もしかして、あれか? その嫉妬に歪む表情が見たかったのよとか言い出すタイプか由比先輩は。

 え、だとしたらちょっと真魚ちゃん可哀想だけど……。大丈夫かこの姉妹。

 真魚ちゃんが初めて会ったときに言ってた『先輩しか頼れる人がいない』って言葉がどんどん重みを増してきたぞ。




 ―――




「ああ、やっぱり貴女が法月さんの二号ちゃんだったのね」


 撮影が終わって、その日は解散。

 由比先輩は一人で部室に残って、撮影した映像をノートPCに移して確認していた。

 ちょっとやり残したことがあるから、とスズ達を先に返して部室に残った僕は、今日感じた違和感についてそれとなく由比先輩に聞いてみる。

 すると、ボクが問い詰めるまでもなく、あっさり白状してくれた。


「じゃあ、知ってるんですね。スズとマリちゃんが付き合ってること」


「知ってるも何も、オカ研では有名なカップルよ」


「じゃあ真魚ちゃんのことも?」


 由比先輩は当然、とでもいうように、人差し指をぴんと立てた。


「姉として、妹の背中は押してあげたいとは常に思っているわ。たとえ崖から落ちるほうでもね。何かきっかけがないとこのまま片思いをズルズルズルズル引きずっていきそうだし、あの子」


 そう言った先輩の顔は、なんだか優しさというか、慈愛に満ちているようだ。彼女の回答もこの表情も、ボクにとって意外なものだった。


「先輩は、映画に関しては私情を挟まない人だと思ってました」


「あら、嬉しい。でも買い被りよ。だって、この映画の企画自体が私の私情から始まったもの」


 先輩は、パソコンに流れていた撮影動画を一時停止した。

 映っているのはアカネちゃんを演じる真魚ちゃんのドアップのシーン。


「私、卒業したらお父様のいるカリフォルニアに留学するの。日本にいる間は、出来るだけ妹といい思い出が作りたいな、って。そう思ったから、今回映画上映の許可を取り付けたの」


 由比先輩は画面を見ながら照れ臭そうに笑った。

 ……あれ? いや、この人、真魚ちゃんのことめっちゃ好きじゃん!

 どこが妹を雑に扱う嫌な姉だよ。妹を溺愛しているシスコンじゃねぇか。


「それにしても意外なのは貴女ね。貴女としては真魚に如月さんを寝取ってもらったほうが得なんじゃないの?」


「普通はそう思いますよね。普通は」


「……そう、貴女は普通じゃないのね。ごめんなさい」


 由比先輩はクスッと笑って、それ以上の追及はしてこなかった。


「でも私はお膳立てをしただけ。どう転ぶかは真魚次第。私としては、諦めるならスッパリ諦めてほしいの。叶わない恋を引きずり続けるのは、とても苦しいから」


 以前、のんちゃんがボクにしたアドバイスと真逆だな、と思った。

 きっとどちらが正解で、どちらが間違っているということではないんだろう。

 恋人がいる人を好きになった時の向き合い方は人それぞれ。きっと本人の経験なんかも反映されている。

 由比先輩も、叶わない恋の経験があるのかもしれない。


「あとあの子が嫉妬でから回ってる姿は滑稽で面白いし」


 ……さっきはシスコンじゃんとか思ったけど、やっぱりとてもひどい姉かもしれない。

 あの時のニヤケ顔はそういうことですよね由比先輩。


「私情ありありだけど、とても良い映画が撮れると思ってるわ。法月さんは良い脚本(ホン)を書いてきてくれたし、如月さんは画面映えする可愛さだし」


 それに、と、由比先輩は拳を軽く握って、ボクの胸の上の方にぽん、と当てる。


「私、ホラーが苦手なのに熱心に食いついてきてくれた貴女のことを一番買ってるのよ。助監督は大変だけど、貴女ならできると思う。もしあなたが来てくれなかったら、助監は無理やり真魚にやらせる予定だった」


「あ、ありがとうございます」


 ……どうしよう。なんか、すごく嬉しい言葉を貰った気がする。

 帰宅部だったボクは、”尊敬する先輩”なんて概念とは無縁の存在だった。

 由比先輩に出会って、この人がとてもすごい人だと知って……そして今、その先輩から信頼を寄せられている!

 こ、この高揚感……映画製作へのモチベーションが爆上がりしていくのを感じる。


 これだよこれ! これこそがボクの求めていた普通の青春なんだ!



 こうして、真魚ちゃんのことなんてどうでもよくなったボクは、映画撮影にどんどんのめり込んでいくのだった。

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