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伊勢志摩の夜

 私こと法月鈴音の人生において、両親に愛されていないなどと思ったことは、一度もない。

 パパもママも、私たち家族のため、そして一緒に起業した友人の夫婦のために、世界中の富豪達と渡り合い、身を粉にして商売をしている。

 私はそんな両親を誇りに思っているし、出来る限り彼らに迷惑をかけないよう”いい子”を心がけてきた。

 普通ならグレてもおかしくない境遇に思われるかもしれないけれど、私はちゃんと愛情を感じている。

 両親からの愛情も、隣の家にいる幼馴染や、そのお母様の愛情も。

『だから、私はグレたりしません。両親に構ってほしくて非行に走るなんてことありえません。』

 と、かつてはそう思っていた。


 今になって思う。

 私ってわりと悪いことしてるな。結構両親に申し訳ないことしてるな――と。


 今日は念願の伊勢志摩旅行の日だ。

 あさイチで電車に乗って、昼間はビーチで海水浴。

 夜は旅館で海鮮と、露天風呂を楽しむ。

 両親が結構な額を出してくれたので、それなりに豪華な旅になっている。普段家にいない分、こういう時は贅沢をさせてくれる。

 それなりに裕福な家庭で良かった、と心の底から感謝をささげる。


 感謝しつつ、その一方で、これから両親に言えないようなことをすることにほんのちょっと罪悪感があった。


『スズ~!』

『先輩ー!』

 昼間は海の中から手を振って、私を泳ぎに誘っていた二人が――。

「スズ……」

「せんぱぁい……」

 今は旅館の布団の上で、私のことを誘惑している。


 三つくっ付けた布団の真ん中に陣取り、私を迎える二人。

 気崩れた浴衣と、上気した肌に、紅潮した頬。シャンプーの香り。

 私は二人の間に吸い込まれていく。


 ――思えば、交際関係を解消していたはずのネコと肉体関係を持ったのがそもそもの始まりだった。

 もう私に愛情はないと思っていたの祢子に、興味本位でちょっとした悪戯をした。

 彼女は私を受け入れ、私たちはお互いの性欲を満たすための関係となった。


 性欲というと大げさかもしれない。

 私はただ人のぬくもりに触れたかっただけだ。


 私は今の両親の愛情に満足できず、誰かにそれ以上のことを求めていたのだと、今ならわかる。


 恋人になる前の後輩に手を出してしまったのもそうだし、今こうして3人で行為に及ぶことが当たり前になったのもそう。


 あるいは、本当は底なしの性欲を持っていて、両親を言い訳にそれを満たそうとしているだけかも?


 まあ……どちらでもいい。

 今は私の胸を満たすこの淫靡な香りに浸っていられればいい。


 恋人が二人いることについて後ろめたさを感じない日はない。

 それも、二人との愛の行為に耽っている時は忘れらる。

 片方に口づけをすれば、もう片方が縋ってくる。それがとてもいじらしくて、二人とも抱きしめてしまいたくなる。


 平等に愛することは難しいけれど、そう努めるのが私の義務だ。

 肉体的な疲労はあるけれど、二人分を背負う責任だと思う。


 この関係がずっと続けばいいのにと思ってしまうけれど、いつまでもこんな関係が続くはずないことは理解している。


 どちらかが離れるにせよ、私に引き留める権利はない。

 あるいは両方か。

 一人になったとしたら、それはそれで私の責任だ。


 だから少なくとも今は――。

 今だけは二人に目いっぱい愛情を注ごうと思う。



 基本的に二人とも受けだ。ネコはネコだしマリちゃんもそう。

 一度だけ私が受けになったことがある。初めて三人で行為をすることになった日だ。

 正直言うと悪くはなかったけど、やっぱりタチしてるほうが性に合ってる。

 こっちのほうが相手の可愛いところを堪能できるからね。

 それに同時に相手をしていると、二人の差が見えてくるのも楽しい。

 例えばネコは、これまで私の家でしてきた時のクセなのか、声を極力抑える。一方のマリは感じるままに嬌声を上げる。たまに大きくなりすぎることがあって、そういう時は口をふさぎながらするのだが、そうすると決まってネコが嫉妬してくる。多分わざとやってるんだろうな。受け2人の間にも静かな攻防があるのだ。



 1回ずつ果てた後、二人とも、すっかり疲れて眠ってしまった。

 昼間あんなに遊んでいたのだから当然だ。女性同士の行為は終わりはないというが、流石に疲労感には勝てない。

 私は二人の頬を交互に撫でると、着衣を整えて、布団をかけてやる。

 こんな時間も好きだな、と思う。

 二人の間に体を滑り込ませ、自身も布団をかぶり、目を閉じる。


 いつまでも続かないと思っているけれど、

 今はただ、この関係に酔いしれていたい。

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