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幼馴染でセフレのあの子はボクが先に好きだったのに!  作者: 星の内海
第一章 幼馴染でセフレのあの子はボクが先に好きだったのに!
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幼馴染兼セフレのあの子がBSS

「でさー、その後輩ちゃんが言うわけよ。『法月先輩ってホラー映画レビューの天才ですね! 人の感想を聞いてこんなに観に行きたくなったの初めてです!』って。ホント、何でも褒めてくれるからめちゃめちゃ気分いいわぁ~」


「あーはいはい。ヨカッタネー」


 例の14回目の告白失敗の日から一週間と少し過ぎた日の放課後、ボクたちは教室で帰る準備をしながら、他愛もない雑談に興じていた。

 その後輩のことがよほど気に入ったのか、スズちゃんは事あるごとに彼女の話をするようになった。

 ボクらが適当に相槌を打ってもスズちゃんは嬉しそうにしている。幸せボケか。


 スズちゃんが幸せそうなのはいいけど、その後輩のことはだんだんと気になってきた。

 喉の奥に何か黒いものがたまっていく感じ……ようするに嫉妬なんだけど、そんなことでスズちゃんの幸せに水を差すのはもっと嫌だった。

 話を聞く限り、相手はスズちゃんの好みとは全然違うし……2年になって、懐いてくれる後輩ができて、浮かれているってところだろう。


「そうだスズっち、今日部活ないんだよね? 久しぶりにあーしらとカラオケ行かん?」


 と、のんちゃんが軽く手を挙げて提案する。


「ごめーん、実はこの後用事があってさあ」


 スズちゃんは少し申し訳なさそうにしながら、かつ若干ニヤニヤしながら答えた。


「その後輩とペアでブログの記事担当することになってさあ。ちょっと『怖い絵画展』に行って来る。レビューを書こうと思って」


「あー、あそこの美術館でやってる展覧会? スズちゃんってホントにホラー好きだね」


 ボクだったらそれやってる間は絶対その建物に近づきたくないけど……と心の中でつぶやく。

 ボクら三人はみんなオタク気質があるけれど、三人とも好きなジャンルはバラバラだ。オカ研の副部長やってるだけあって、スズちゃんは筋金入りのホラーオタク。ボクがそんなに得意じゃないことを知っているからか、部屋の中のそれっぽいグッズは見えないところに隠してくれているが、たまに隙間からはみ出してきて、そのたびにボクは悲鳴を上げることになる。


「しゃーない。んじゃまた二人で行こうよネコっち」


「オッケー。今期の百合アニメソング全制覇しよ」


 こうして、ボクとのんちゃんはまた放課後をカラオケで過ごすことになった。




 ―――




「あれ、ネコっち、あそこにいるのスズっちじゃね?」


 カラオケからの帰り道、のんちゃんが道路の反対側にスズちゃんを見つけた。


「ホントだ。一緒に居るのが例の後輩かな」


 例の『怖い絵画展』の帰りだろうか。

 ホラー展覧会の帰りだろうに、二人は心底楽しそうに笑い合っていた。

 ふと、後輩の手が、スズちゃんの手に伸びていくのが見えた。


「……ッ」


 いやなものを見た、と感じてしまう。


 ボクのお腹の中に、また真っ黒で重いものがズシンと落ちてくる。

 後輩の子が、手を繋ごうと伸ばしてくるのを、スズちゃんが自然に受け入れた。

 たまらず目をそらす。いやだ。どうしよう。このままだと横断歩道を渡ってくる二人に鉢合わせてしまう。


「あー……ネコっち、あーし喉乾いたわ。ちょっとマクド酔ってかね」


「う、うん。行こうのんちゃん」


 気を使ってくれたのか、ぼくはのんちゃんの誘いに飛び乗り、すぐさま来た道を引き返した。


「ネコっちはさあ……」


「な、なに……? のんちゃん」


「……いや、なんでもない。ネコっちも何か飲むならオゴるよ?」


「いいよ。自分で出すよ」


 ボクは早足になってのんちゃんの前を歩く。

 後ろが気になって仕方なかったが、意地でも向きたくなかった。




 ―――




「スズちゃん、今日泊まるから」


「え、今日も? 最近頻度多くない?」


 その日の夜、いつものようにスズちゃんに夕食を届けたボクは、その流れですぐさま宣言した。


「いいじゃん。スズちゃんだって嫌じゃないんでしょ」


「それもそうだけど……とりあえず先にご飯食べてからね」


「わかってるよ」


 スズちゃんは不思議そうな顔をボクに向ける。

 ボクの気も知らないで……! いや、秘密にしていることなんだけど……!


 何にせよ、大丈夫だ。こうしてスズちゃんが僕を抱いてくれているうちは何にも問題ない。


 ご飯を食べ終わった後、すぐさまボクはスズちゃんにしなだれかかった。


「あの、食べたばっかりだし、片付けとか」


「いいから……今日は今すぐしたい」


 もはやムードもくそもない。はたから見たボクは発情期のサルだろう。

 いや猫か。二重の意味でネコだし……ってそんなことはどうでもよくて。


「はぁ……エロネコめ……」


 そういって、スズちゃんはボクを押し倒そうとするが……


「……ごめん、やっぱりもうちょっとお腹落ち着いてからでいい?」


「……じゃあ、やっぱり先に片付けよっか」


 先走りすぎた。

 いくらなんでも食後すぐはお腹がキツい。


 その後しばらく気まずい空気が流れるが、一応ちゃんと()()

 その日は珍しくボクの方から、スズちゃんの体中に――もちろん服を着たら見えない範囲で――強めに痕を残した。


 しばらくはお泊りの頻度を増やそう。とにかく、スズちゃんとのセックスフレンドが成立している間は大丈夫だ。

 スズちゃんの裸も知らないような相手に嫉妬する必要は全くない。

 何も問題ない。

 何も。

 ……問題ないと思っていたんだけど……。




 ―――




「えー、皆様お集まりいただきありがとうございます。法月鈴音……不肖の身ではありますがこの度なんと……彼女が! できました!」


 それから二日後の放課後。

 テッテレー、と、テレビならそんな効果音がついたであろう笑顔で、彼女は堂々と宣言した。

 ボクはあんぐりを口を開けて、真っ白な頭で彼女を見ていた。

 嘘だろこいつ。一昨日ボクとヤったばっかだぞ。


「おー、やるじゃんスズっち、おめでとう」


 パチパチパチ……と、何も知らないのんちゃんが拍手している。


「相手はやっぱり例の後輩ちゃん?」


「そうなのよ。実は昨日の部活終わりについに告白されちゃってさぁ~~」


「でもスズっちの好みって包容力のあるお姉さんじゃなかったっけ?」


「そうなのよ~~ やっぱり人に()()()()となるとあんまり好みとか関係なくなってくるんだな~~って、自分でもびっくりしてて~~」


 スズちゃんが心底嬉しそうにニタニタニタニタ笑っている。

 うそだろ、昨日ご飯食べたときはボクに何も話してくれなかったぞ。

 確かにちょっといつもより帰りが三時間も遅かったので心配していたけれど。

 なんてこった、ここまで認識の差があったとは。


 あるいは昨日誘っていれば流石に拒否されて、その流れで報告してくれたのかもしれないが……。

 何を友達(二人)が集まったところで高らかに宣言しとるんだ。

 せ、セフレには先になんか一言こう……あるだろ! ないのか!? なかったぞ!?


 コイツはボクとのセックスなんかは食後の運動くらいにしか思っていなかったというのか。

 いやそもそもセフレってそういうのもなのかもしれないけど……。


 ボクが呆然しているのに全く気付かず、スズちゃんは上機嫌で、


「じゃあ私は愛しの後輩ちゃんと会いに部活行くわね~。二人ともまた明日~」


 と、教室を去っていった。


「……ネコっち、ネコっち生きてる?」


「……ウン……」


「えーと、カラオケ、カラオケ行こうか」


「……イカナイ……」


「あ、ちょっと――」


 その日ボクは珍しくのんちゃんの誘いを断り、すぐさま家に帰った。

 帰り道のことは全く覚えていない。気づいたら自室のベッドの上で眠っていた。

 目を覚ましてしばらくして、ワンチャン夢だったんじゃないかと思ったが、どうあがいても現実だったので、涙が出てきた。


 真っ白だった心に、どす黒いどろどろが一気に流れ込んでくるのを感じた。嫉妬とか失望とか怒りとか、そういう名前の付いた感情が全部まぜこぜになって溢れてきて吐きそうだ。


 叫んでもよかったけど、そこはお母さんを心配させたくない気持ちがギリギリ勝った。

 でもその日は体調が悪いといってそのままベッドの上で布団をかぶり続け、スズちゃんの晩御飯はお母さんに持っていってもらった。


 次の日は学校を休んだ。


 その次の日も休もうかと思ったけど、お母さんを心配させるのが嫌だったので無理やり登校することにした。



 ―――



 スズちゃんより早く家を出て、先に教室に入り、顔を組んだ腕に伏せて寝たふりをした。

 登校してきたのんちゃんが何か言いたそうだったが、結局何も言わず、自分の席についた。

 そのうち幸せボケの浮かれポンチが上機嫌で登校してきた。


「おはよう~。ネコったらどうしたの? 先に家を出るなんて。元気になったんならいいけど、ちょっと心配したのよ?」


「……」


「? ネコ~?」


 スズちゃんがボクの頭を撫でてくる。嬉しいけど嬉しくない。そっとしておいてほしい。


「ん……大丈夫だよ。ちょっと風邪ひいただけだし……」


 仕方なしに顔をあげる。


「そう。顔色悪いしまだ体調悪そうよ、保健室連れて行きましょうか?」


「……いいよ、ヤバくなったら自分で行く」


「そう? 無理するんじゃないわよ」


 そう言い残して、スズちゃんは自分の席に着き、今度は隣の席ののんちゃんと話を始めた。

 きっとまた、例の後輩――彼女の話だろう。

 ボクは見えないように、自分の膝に爪を立てた。


 結局、その日の授業は何一つ頭に入ってこなかった。


 放課後、スズちゃんが部活に行く前に三人で駄弁ったけど、なにを離したのかまるで頭に残っていなかった。

 スズちゃんが何かとても大事な話をしていたような気がするけれど、それを覚えているだけの余裕なんてあるはずもない。


 そうだ、夜を待とう。

 晩御飯の間は少なくともスズちゃんを独占できるんだから、それで良しとしよう。



 ―――



「祢子ー! 体調大丈夫なら、鈴音ちゃんの家にご飯持って行ってあげて」


「はーい」


 夜。ボクがスズにご飯を持っていくいつもの時間がついにやってきた。


「ってあれ? 何か多くない?」


 タッパーの量がいつもより多い。どうしたんだろう。

 つい多めに作っちゃって~というやつだろうか。


「何言ってるのよ。鈴音ちゃんの家、お友達が来ているんでしょう?」


「エッ」


 思考がフリーズする。

 お友達? 来ている? 今? 誰が? のんちゃん? そんな約束したっけ?


「ア゛ッ」


 自分でも信じられないくらい汚い声が出る。思い出す。うわの空で聞き流してしまった放課後の会話を思い出す。

スズちゃんは確か……。


『今日、彼女が家に泊まりに来るから』




 ―――




「ネコ~~待ってたわよ。ほらあがってあがって」


 促されるままに、ボクはスズちゃんの家に上がり込む。

 重い。三人分の夕食が異常に重い。


「ほら、紹介するわね。この子が私の彼女。如月茉莉也ちゃん」


「初めまして、桜木先輩。マリヤです。よろしくお願いします」


 後輩ちゃん。茉莉也ちゃんは、以前見かけた通りの。そしてスズちゃんの話に合った通りの、小柄で、かわいらしく礼儀正しい子だった。

 彼女は丁寧にお辞儀して、ボクを見て、にっこり笑いかけてくる。


「桜木祢子です。よろしく……」


 そこそこに会釈して、持ってきた三人分の料理をリビングのテーブルに運ぶ。

 スズちゃんと茉莉也ちゃんは協力して食卓の準備を始めた。


 いや、なんやねんこの状況。

 なんで元カノと今カノと三人で飯食わなあかんねん。


 むろん理屈は分かる。

 スズちゃんの家のご飯はうちの親が作る取り決めだ。

 スズちゃんはボクの母さんには性的指向をカミングアウトしてないので『恋人』ではなく『お友達』を呼ぶと伝えた。

 『お友達同士』なら、ボクがいつも通りスズちゃんちで夕食を食べるのが自然な流れというものだ。

 だんだん思い出してきたが、スズちゃんはお母さんに『今晩友達が泊まりに来るから晩御飯いらないです』と言ったそうだ。ところがおせっかいな僕のお母さんは『それなら三人分作って祢子に持っていかせるわ』と返し、すったもんだあって結局スズちゃんは断り切れなかった流れだ。口八丁でいくらでもごまかすこともできたと思うが、無駄な心配を賭けたくなかったんだろう。


 そういうところはスズちゃんらしい。


 悪い意味で。


 だって結果的に、今、ボクはスズちゃんの『お友達』として今カノと食卓を囲んでいる。

 おかしい。わかるけど明らかにおかしい。


 それとも、おかしいと思ってるのはボクだけか。


 ――いや、そうなのかもしれない。スズちゃんにしてみれば、きっと大事な『一番の親友』を彼女に紹介したかっただけで……。


「わ、桜木先輩のお母さま、お料理上手ですね~」


「そうかな、嬉しいよ……ありがとうね」


 とにかく、顔面に笑顔を張り付けてその場を乗り切ることに決めた。

 茉莉也ちゃんが色々と私やお母さんのことを褒め殺してくる。スズちゃんからボクの話をよく聞かされていたらしいが、今の僕にはその誉め言葉もぜんぶ右から左に抜けていくし、料理は砂を噛むようだった。


 折角の牛のしぐれ煮なのに。スズちゃんの好物を一緒に食べているのに。

 一刻も早くこの時間が終わってほしい。


 何事もないように、『お友達』としてこの局面を最後まで乗り切るべし。

 それだけを第一に考え、ボクは必死に会話を取り繕った。


 晩御飯の時間。

 ボクとスズちゃんが二人っきりでいる約束された安寧の時間さえ、こんなにあっさり奪われてしまうなんて。




 ―――




 何とか無事に切り上げて、ボクは自分の部屋に戻った。

 スズちゃんと茉莉也ちゃんは、これからオカ研のブログの更新記事の作成に取り掛かるのだという。

 こないだの『怖い絵画展』のレビュー記事だそうだ。

『ボクは怖いの苦手だから失礼するよ~』とかなんとか言って、とっとと抜け出した。


「記事……書くだけ……だよね……?」


 窓の傍で耳を澄ませる。

 何も聞こえるはずがないのに、すごく遠くから二人が談笑する声が聞こえてくる気がする。

 もし、もしこの声が嬌声に変わったらボクはきっと耐えられない。

 ボクとスズちゃんがいつも抱き合ってたソファで、ぽっと出の後輩が今抱かれているかも……なんて、いやな妄想が膨らんで破裂しそうだ。

 ボクは腹の中を重くて黒いものでぐるぐるさせながら、

 その日はベッドに入らず、一晩中部屋の窓の傍で聞き耳を立てていた。

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