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幼馴染でセフレのあの子はボクが先に好きだったのに!  作者: 星の内海
第二章 あるオタギャルの恋について
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パパと娘と 前編

 さっき聞いたことはいったん忘れて、私たちは夕食のお店を探すことにした。

 地下の飲食店街で食べてもいいが、先輩たちとまた鉢合わせする可能性がある。繁華街の方に出るべきだろう。

「マリ、何食べたい?」

 私はマリの方を見ながら店を探そうとスマホを取り出す。

「あ、電源切ってた」

 スマホに視線を移すと、ディスプレイは真っ黒だった。どうやら映画鑑賞後、スマホを起動するのを忘れていたらしい。電源ボタンを長押しし、画面が明るくなるのを待つ。

 表示された画面を見ると、メッセージアプリに大量の履歴が残っていることに気づいた。

「あれ、ネコからだわ。何かしら」

 アプリを開くと、大量のアプリ通話の着信記録。

 そして『スズ、このメッセージ見たらすぐ帰って来て!!』というメッセージ。

 あとは『早く!』『帰って来て~』と書かれたよく知らないアニメキャラのスタンプ爆撃。

「ンん? なにこれ」

「スズ先輩、どうしたんですか?」

 と、マリが不思議そうに私の顔を見上げて覗き込んでくる。

「わかんないけど、ネコが早く帰って来いって。ごめんけど、家まで来てくれる? 晩御飯はウチで食べましょ」

「わかりました。いいですよ」

「それじゃあ、帰えろっか」

 私が手を差し出すと、マリは喜んで腕に飛びついてきた。

 うーん可愛いやつめ。

 私はそのままマリと腕を組んで家路についた。




 ―――




「あ、スズ! やっと帰ってきた!」

 マンションの前で、ネコが待っていた。

「ネコ、どうしたのよ」

「良いから~! 大変なんだって! 早く行こう! ほら、マリちゃんも」

 と、ネコは両手で私たちを引っ張って、いっしょにエレベーターに押し込むようにして乗り込む。

「一体何だって言うの……?」


 私たちの家のある階につくなり、ネコはしゅたたっと自分の家の前に駆けていく。

 そして大急ぎでカギを開けてドアを開き、「帰ってきたよ!」と中に向かって声をかけた。

 そうして、ドアを開けたまましばらくそこで待っている。

「どうしたのよそんなに慌てて」

 私はいまだに状況が理解できず、マリと一緒に廊下を歩いていくと、ネコの家からスラっと背の高い男性が出てきた。

 その姿を一目見て、私は一瞬呼吸を忘れた。

 無造作なショートスタイルの髪。穏やかで、優しさをたたえた瞳。スッと通った鼻筋は若かりし頃の面影を残しつつ、口元はどこか柔和な雰囲気を醸し出していた。

「鈴音。おかえり」

 そう言って、その人はにっこりと笑みを浮かべた。

「パ……」

 私は思わず、荷物をその場に落として駆けだした。

「パパ!」

「鈴音!」

 パパは飛び込んでくる私を迎えようと両腕を大きく広げた。

「パパ~!」

「鈴音~!」


「帰ってくるなら連絡くらい入れろや!!」

「ぐえーっ!」

 私はパパのみぞおちに迷わず渾身のヤクザキックを叩き込み、「「ええーっ!!」」と前後から同時にマリとネコの驚愕の声が響いた。


「ぐう……元気そうで何よりだ、鈴音……」

 パパは胸を押さえてうずくまり、脂汗をかきながらも嬉しそうな声を上げる。

「パパこそ、元気だったの?」

 私が手を差し出すと、パパはひじの辺りを掴んでゆっくりと立ち上がった。

「ああ、おかげさまで、元気に働かせてもらっているよ」

 と、パパは私の後ろに視線を向けた。

「やあ、キミが茉莉也さんだね。鈴音の父、法月良賢(リョウケン)といいます。娘がいつもお世話になっています」

 と、パパは何事もなかったように服を掃い、いい笑顔で右手を差し出した。

「あ、えと、如月茉莉也です。こちらこそ先輩には大変お世話になっておりまして」

 おずおずと茉莉也は握手に応じる。

「実家とはとうに縁を切ったが、お寺の三男坊でね。リョウケンって古い名前で驚いたでしょう」

「そ、そんなことありません。素敵なお名前です!」

 マリの言葉に、パパはうんうんを満足そうにうなずく。

「ああ、いい子そうで良かった。キミが鈴音のステディだね」

「す、ステディ……?」

「恋人って意味よ」

 よくわかってないマリの耳元で囁くと、彼女は一瞬で沸騰して真っ赤になった。

「大丈夫。鈴音からキミとのことは()()()聞いています。よかったらあがってください――と言っても桜木さんのお家だけど――晩御飯、食べ損ねたでしょう? ご一緒にどうですか?」

「は、は、はい。是非よろしくお願いします!」

 茉莉也がお辞儀して、パパは優しく微笑んだ。


「っていうか、どうして急に帰ってきたのよ」

 ネコの家に入るなり、私はパパに疑問をぶつけた。

「実は今日、東京で仕事があってね。ただ早く終わるかわからなくて、明日にはアメリカにとんぼ返りだから会えるかわからなかったんだ。ぬか喜びさせるのは申し訳ないから連絡しなかった。こっちにくる新幹線で連絡すればよかったんだけど、うっかり寝落ちしてしまって……。ごめんよ」

 頭をかきながら謝るパパに、もういいわよ、と言いながら私はネコの家のリビングに入った。

「おばさま、お邪魔します」

「おかえりなさい。鈴音ちゃん。茉莉也ちゃんもいらっしゃい。どうぞ寛いで行って」

 桜木のおばさま――ネコの母、頼子さんは台所に立ち、料理の準備をしていた。

「祢子、皆さん揃ったし、ピザをとってくれる?」

「はーい。みんな座って座って」

 と、ネコがスマホを取り出し、ピザ屋のアプリを開きながら食卓につく。

 ネコが上座に座り、その正面に私、下座にパパ。私はネコと私の間のお誕生日席にマリが座るように促した。

「みんな何食べる? クワトロのやつ注文するから好きなの言ってって」

「私、照り焼きマヨ」

 私は真っ先に手を挙げた。

「じゃあ、パパもそれにしようかな」

「わ、私もそれで……」

 と、パパとマリ。

「3/4照り焼きだったらクワトロの意味ないじゃん……普通に照り焼きピザのLセット頼むね」

 と、ネコはジト目になりながらアプリでの注文を始めた。


「マリ、緊張してる?」

 と、私はマリにそっと囁く。

「は、ひゃい。だいじょうぶれす」

 よほど緊張しているらしい。呂律が回っていない。

 ふと、台所に目を向ける。

 頼子さんはサラダを作るつもりなのだろう。野菜を洗っている。

 今なら水音で、こちらの声は聞こえまい。

「大丈夫よ、パパはその……()()()()()()だから」

「え、と、あの、は、はい」

 ―――まあ、そういうことじゃないか。

 ガチガチになってしまうのも当然だ。マリにとっては何の準備もなく、彼女の父親と食事をすることになってしまったんだから。

「そうだ、茉莉也さん。実はお土産があって」

「え、そんな。あ、ありがとうございます」

 と、パパがマリに小さな小包を手渡し、マリはおっかなびっくり受け取った。

 マリが包みを丁寧にはがすと、中から綺麗な蝶々のストラップが出てきた。

「ハワイで見つけた幸運のお守りです。よろしければどうぞ」

「わ、わ、ありがとうございます」

 マリははじける笑顔をほころばせ、ぺこりと頭を下げた。

「パパにしては良いセンスじゃない。私には何かないの?」

「もちろんあるぞ~」

 と、パパは少し大きな包みを取り出し、私の前に置いた。

「わ、何かな~」

 と、ウキウキしながら封を開けると、中から歯をむき出しにして笑う小さな神様の人形が出てきた。

「ハワイアン・ティキ人形だ!」

「いや落差ァ!」

 私がパパにヘッドロックを決めると、緊張が少しほぐれたらしく、マリも笑った。

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