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幼馴染でセフレのあの子はボクが先に好きだったのに!  作者: 星の内海
第二章 あるオタギャルの恋について
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オタギャルは恋を知らない

「ねえスズっち……女の子同士の恋愛って大変?」

「…………それ私に聞く?」


 リヒトさんとのオフ会から一週間が過ぎた。

 私こと、野々宮清美の夏休みはバイト三昧の毎日だが、今日は鈴音ちゃん、祢子ちゃんと三人でカラオケで遊ぼうと約束していた日だ。

 フリータイムで朝から気の向くままに歌い、お腹がすいたので推し声優の曲を流しながらピザを食べている。

 祢子ちゃんがトイレに行ったタイミングで、私は最近抱くようになった疑問を鈴音ちゃんにぶつけてみたのだが、やはりというか、彼女には困った顔をされてしまった。

「二人も彼女がいたらきっと男でも大変よ……」

 と、鈴音ちゃんが項垂れる。

「聞いてよのん。昨日ユニパの埋め合わせに三人で遊びに行ったんだけどさあ」

「へー、三人で」

「なんか知らないうちにあの二人めちゃめちゃ仲良くなってて……お互いにパフェ食べさせ合ったりすんのよ、私の目の前で」

「へー、仲良いじゃん」

「かと思えば私に食べさせてくるのよ。二人同時に」

「へー、仲良いじゃん」

「そりゃギスギスされるよりはいいんだけど……」

 鈴音ちゃんはテーブルの上に腕を組んで、その上に顎を乗せる。

「……私としてはね、最終的にはどっちかを選ばなきゃ……って思いがあるのよ。でも最近の二人はなんか『二人とも平等に愛してね』みたいなスタンスらしくて」

「へー、うらやましー」

「良い思いはしてるんだけど、これはこれでいろいろ大変なのよ。めっちゃ気ィ使うし、二人同時だと夜の方は体力と手首が持たないし」

 と、鈴音ちゃんは自分の右手首をプラプラさせる。

「へー。…………ん? 夜?」

 適当に相槌を打って聞き流すつもりだったが、聞き捨てならない言葉が飛び込んできた。

「え? ヤってんの? 三人で?」

「あっ」

 鈴音ちゃんが慌てて口を押える。

 彼女はきょろきょろ周囲を見回した後、マイクを鈍器のように手に取った。

 キーン、とハウリング音が響く。

「ごめん、ちょっと記憶消させて、のん」

「ちょっ――自爆したくせにお前」


「ただいまー」


 と、いいタイミングで祢子ちゃんが帰ってきた。


「え、何? どういう状況?」

 マイクを振りかぶったまま硬直する鈴音ちゃんを見て、祢子ちゃんは首をかしげる。

「……ちょっとロックな歌い方について研究したくて」

 と、鈴音ちゃんはマイクを置いて座りなおした。

「ふうん?」

 と、祢子ちゃんは特にそれ以上追及することなく、当然のように鈴音ちゃんの隣にぴったりくっつく様に座る。

 そして机の上にあるポテトを一つ手に取り、そのまま鈴音ちゃんの口元にもっていった。

「あーん」

 鈴音ちゃんは口を開けてそのポテトに食いつく。コイツら私の前でもお構い無しにイチャつくようになったな。

 傍から見ると大型犬を餌付けしているようにも見えてくるけど。


 ともかく、助かった。

 殴ろうとしてきたのは流石に冗談だと思うけど。


「で、何だっけ、のん。例のリヒトさんに惚れちゃった話だっけ」

「そんなこと言ってないけど!?」

 油断していたらいきなり鈴音ちゃんが核心をついてきたので、私の心臓は跳ね上がった。

 確かにリヒトさんのことが気になっているから女性同士の恋愛について聞こうとしたのだけど。


「リヒトさん? って、先週のんちゃんがオフ会であった人?」

 と、祢子ちゃんが鈴音ちゃんに尋ねる。

「そうそう。例の高身長イケメン女子大学生」

「あー、かっこよかったもんねあの人」

「待って二人、勝手に話を進めないで」

 私は右手で顔を押さえながら、左手を前に突き出してスズネコ二人の会話を制止する。

「まだ惚れたとは言ってない」

「でも私に女同士の恋愛について聞いたってことは、そういうことじゃないの?」

 と、鈴音ちゃんもポテト一つつまんで、祢子ちゃんに食べさせながら言った。

「……どんな感じか聞きたかっただけ。あーしは彼氏も彼女もいたことないから、好きかどうかもよくわかんないし」

 言って、私はコップの中のメロンソーダを一気に飲み干した。

「相手が好きかどうか、かあ。ボクの後輩はキスしてドキドキするかどうかで確かめてたけど」

「順番が逆でしょ。誰よそのキス魔」

 祢子ちゃんの言葉に、鈴音ちゃんが呆れたような表情を浮かべる、祢子ちゃんはさあね~と目を逸らす。

「じゃあ、体に聞いてみるとかかなあ」

 と、祢子ちゃんがもう一つの方法を提示する。

「体に?」

 と、鈴音ちゃんが首をかしげる。

「そう。まず目を閉じて」

 祢子ちゃんの指示に従って、私と鈴音ちゃんは同時に目を閉じた。

「相手のことを思い浮かべて深呼吸するんだ」

 私はリヒトさんの顔を思い浮かべながら、言われた通り肺の中を空気で満たして、それをゆっくり吐き出す。

「その時胸が甘く疼いたら、その人に恋してるサイン」

 なんとなーく……疼いた……ような? 気がする。

 目を開けると、鈴音ちゃんには何も感じなかったのか、目を半分閉じて口をまっすぐ結んで祢子ちゃんを見ている。

「……これ本当? そもそも甘く疼くって感覚がちょっとピンとこないんだけど」

「ボクのお母さんに聞いたやり方だよ。ボクもスズのこと考えてこれやると吐く息が甘くなる気がするよ」

「んもう、そういうのはいいから」

 鈴音ちゃんはこちらに視線を向ける。

「のんはどうだったの? わかった?」

「うーん。何となく胸の奥が甘くなったような……」

「ほら! きっとそうだって」

 祢子ちゃんは嬉しそうに手を叩いた。

「……でもやっぱ、これだけじゃわかんねーって」

「ほらー」

 と、鈴音ちゃん。

「えー」

 と、祢子ちゃんは不満そうに頬を膨らませる。


「とにかく、今ののんは、その人のことが好きかどうかも曖昧ってワケね」

 と、鈴音ちゃんが急に姿勢を正し、私の方へ向き直った。

 そして、まっすぐな眼差しを私の視線に重ねてくる。

「あのね、のん。もしかしたらすごく嫌な気分になるかもしれないけど、アンタの気持ちが定まっていない今のうちに一つだけ言わせて」

 いつになく真剣な表情の鈴音ちゃんに、私は息を呑んだ。


「アンタがもし異性と交際できるなら、そうしたほうがいいわよ」

「え――?」


 ドクン、と、心臓の音が大きく鳴った。こめかみから汗が一滴流れ落ちるのを感じる。


「本当にその人のことが好きで好きでどうしようもないならそのまま突っ走るしかない。けれどアンタ、前に自分はストレートだとか、ノーマルだとか言ってたでしょう。わざわざ()()()()()()()()()()()()()

「――」


 鈴音ちゃんは、ずっと、私の目を真剣なまなざしで見続けている。

 心臓が早鐘を打って、さっき一瞬感じた甘さは霧散した。

 私は思わず鈴音ちゃんから視線を逸らして祢子ちゃんの方を見た。

 彼女は否定も肯定もしない。神妙な面持ちで俯いている。


「わ、私――」

 視界が真っ白に染まり、なにも言葉が出てこなくなってしまった。

 心のどこかで、二人は無条件で私のことを応援してくれるものだと思っていた。

 でもそうじゃなかった。二人は知ってるんだ。 

 気軽に身内にも話せないような恋愛がどんなものか。


「ごめんね。困らせるつもりはなかった」

 いつの間にか、鈴音ちゃんは私の右隣に座って、肩に手を乗せてくれた。

 祢子ちゃんも、私の左隣に座って、私の手に手を重ねて置いてくれた。

 何も言えない私に、鈴音ちゃんが優しい口調で言った。

「まずは、自分の気持ちを確かめるところから、ね」


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