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幼馴染でセフレのあの子はボクが先に好きだったのに!  作者: 星の内海
第二章 あるオタギャルの恋について
10/60

猫は毬と戯れる 後編

「はぁ~……怖かった~……」

 マリちゃんはペットボトルの水を一気に半分飲み干した。

「いいリアクションだったよ、マリちゃん」

 フライングコースターから降りた後、ボクとマリちゃんは近くの休憩所で一息入れることにした。

「っていうか、吊り下げ式なのは外からも見えてたでしょ」

「そこまで注目してませんでしたよ……あぁ……降りてもまだ浮遊感が……」

「慣れておいたほうがいいよ~、スズあれめっちゃ好きだから、毎回乗ることになると思うし」

「うぅ……覚えておきます……」

 さて、とスマホの画面の時計を見る。

 エクスプレスパス残り二枚のうち、『スプラッシュリバーライド』は14時から入場可能なので、まだ1時間40分ほどある。

 アプリでアトラクションの待ち時間を表示し、その間に並べるアトラクションを決めておこう。

 待ち時間はあくまで目安なので、実際10~15分は猶予があったりする。

「じゃあ次はおとなしめのやつ乗る? 『レーンシューティング』が1時間20分待ちだから丁度いいよ」

「あぁ……それなら遊んだことあります。行きましょう」


 そうして、ボクらは『レーンシューティング』の列に並び始めた。

「そういえばこのアトラクション、最後に得点がランキング形式で表示されるんですよね」

 マリちゃんがスマホでアトラクションの内容を確認しながら言った。

「そうそう。すごいガチ勢がいて、一日中これにしか乗らずひたすらスコアアタックしてるんだって」

「とんでもないですね……よっぽどハマったってことなんでしょうけど」

「そうだ、マリちゃん。せっかくだしスコアで勝負する? ランキングで上の方が勝ち」

「いいですよ、なにか賭けます?」

 そうだなあ……とボクは少し考える。

 折角だし、ボクらの関係性にふさわしい賞品がいい。

「じゃあ、今度の旅行の移動中にスズの隣に座る権利を賭けよう」

「むっ――いいですよ。わかりました」

 マリちゃんは口をまっすぐ結び、真剣なまなざしになる。

「ちなみにマリちゃん、このアトラクションの経験は?」

「昔一度だけあります」

「ボクも一回だ。スズと来る時は絶叫系ばかりだからね」

「じゃあ初めてネコ先輩と対等な勝負ができるってことですね」

 マリちゃんの目に火が灯り、メラメラと燃え上がっている。

「フフフ……負けないよ、マリちゃん」

「私こそ、先輩の隣にいるべきは私だと証明してみせます」

 ボクとマリちゃんの視線がぶつかり、火花が散った。

 そして、ボクらは二人同時にスマホを確認し、アトラクションの攻略情報をほぼ同時に検索し始めた。



 ―――



 レーンシューティングは、その名の通りレール上を動く乗り物に乗って、備え付けのレーザーガンでターゲットを狙うシンプルなシューティングゲームだ。

 弾切れの概念があるため、リロードをするタイミングが重要らしい。

 ・コースを覚えること。

 ・パワーアップアイテムを必ず取ること。

 ・ターゲットが大量に湧くエリアに差し掛かる直前に必ずリロードをすること。

 この三つを心がければキミもランキング入りを目指せる!

 ……と、さっきまで熟読していた攻略ブログに書いてあった。

 検索してもあんまりヒットしないので、マリちゃんも同じサイトを読んでいただろう。

 やがて、ボクらの順番が回ってくる。

 ライドは二人乗りだが、左右どちらでも難易度や得点効率は変わらないらしい。


「では、行きますよネコ先輩!」

「ああ、負けないよマリちゃん!」


 ボクらはライドのシートに座り、ほぼ同時にレーザーガンを手に取った。

 ライドが動き、洞窟をイメージしたコースの中を進み始める。手始めにコウモリの姿を模したターゲットが現れた。

 ボクらはほぼ同時に引き金を引く。

(やるな、マリちゃん)

 同じサイトを見ていただけあって、この後のステージ構成も頭に叩き込んでいるだろう。

 ボクらは次々に現れるコウモリを打ち落としていく。

 まだ残弾があるが、次のエリアに移る直前にリロード。

 エリアに入ってすぐ襲い掛かってくるガイコツの人形にヘッドショットを決めれば、一発で高得点だ。

(ウッ、当たらない)

 ガイコツ人形は左右に大きく動く。頭をなかなか狙えない。

 ならば、と胸を狙う。素人は頭よりも胸の中心を狙うべし、そうすればどこかに当たる――と、国民的アニメに出てくるヒゲのガンマンが言っていた。

 マリちゃんはどうだろうか、隣を気にしている余裕はない。エイムが結構シビアなので、自分の得点に集中しないと負けてしまう。

 そんな調子でいくつかのエリアを抜け、ついに最終ステージ、ドラゴンの待つエリアだ。

 ここでは宝箱を打つことで、弾数無限の連射モードになる。

 ボクとマリちゃんは、同時に宝箱を打ち抜いた。

「うおおおおおおおおおお!」

「いっけええええええええ!」

 あとは、ひたすらドラゴンの頭を打つだけだ。


「終わった! 得点は」

 最終エリアを抜け、大画面にリザルトが表示される。果たして、結果は――!?


 Player1……ランキング圏外

 Player2……ランキング圏外


「「…………」」


 ボクらは無言でライドを下り、トボトボと次のアトラクションに向かっていった。




 ―――




「はーっ、楽しかったですね~!」

 言いながら、マリちゃんが思いっきり伸びをする。

 ボクらはその後、急流すべりである『スプラッシュリバーライド』と、後ろ向きコースターの『バックドリフト』を楽しみ、エクスプレスパス最後のアトラクションに向かっていた。

 周囲は日が落ちはじめ、空がオレンジ色に染まっている。

「良い時間だし、次のが終わったらお土産でも見ようか」

「はい、良いですね」

 と、マリちゃんが笑顔で答える。

 だがボクは内心、ザワザワしていた。

 何故ならば、エクスプレスパス最後の一枚のアトラクションは『スプラッタホラーハウス』だ。

 正直に言うとボクはホラーが大の苦手。それでも買ったのは、コラボエリアのパス付きはこれしか残っていなかったから。

 もし横にいるのがただの友達なら、一人で行ってもらうか、諦めてほかのアトラクションに行くことを提案しただろう。

 だが、一緒に居るのは僕にとっては恋のライバル。しかもスズと同じオカルト研究部の部員。ライバルに弱みを見せるわけにはいかない……。腹をくくるしかないのだ。

 やがて、ホラーハウスの前にたどり着く。

 おどろおどろしい装飾に息をのむ。冷や汗が出てくる。

 そのままエクスプレスパス専用レーンに向かうと、マリちゃんがおずおずと話しかけてきた。

「あの、ネコ先輩。手を握ってもらってもいいですか? 実はちょっと、このアトラクション苦手で」

「え? ああ、いいけど……」

 ボクは困惑しつつ、マリちゃんが伸ばしてくる手を握った。

 いやいやそんなはずないだろう、と思う。

 だって彼女はオカルト研究部の部員で、スズにもホラー映画を布教されていることを以前話していた。

 そんな彼女がホラーが苦手だなんて言うだろうか。考えうる可能性は一つ。


 そう、彼女はボクが内心怖がっていることに気づいているのだ。


 だが、ボクが自分から言い出せないのを見かねて、手をつないでくれたのだ。

 ボクのプライドを傷つけないように嘘までついて。

 その優しさに、ちょっと泣きそうになる。

 この後輩は――なんて大きな人間なんだろう。

 もしきっと彼女と別の形で出会っていれば、ボクはスズちゃんの次に彼女のことが大好きになっただろう。

 本当に、良い恋人を持ったよ。スズちゃんは。


 ――なんてことを考えていると、マリちゃんの手からじっとり汗がにじみ出てきていた。


(あれ……?)

 と、彼女の横顔を見る。

「あの、センパイ、スズ先輩の幼馴染ですもんね、こういうの平気ですよね。本当にお願いしますね……?」

 マリちゃんの体が小刻みに震える。顔色は蒼白になり、額には汗がぽつぽつ浮かび、目はぐるぐると落ち着かない。

(あれ、これって……)


 ボクが疑問に答えを出す間もなく、すでにエクスプレスパス専用待機列の先頭。

 係員に促されるまま入場し、そして――。


「「いやああああああああああああああああああああ」」


 ――そして、今日一番の絶叫が、ホラーハウスどころかパーク中に響き渡った。




 ―――




「こ、怖かった……」

 近くの休憩所で、ボクはペットボトルの水を飲みほした。

 いまだに動悸がする。あんなもんを今日イチの楽しみにしていたスズの気が知れない。

 マリちゃんも同じように水を飲んで呼吸を整えていた。

「うぅ……ネコ先輩も苦手なら行かなくてよかったじゃないですか……。先に言ってくださいよ……」

 と、マリちゃんが項垂れる。

「ごめん、てっきり君がホラー好きなんだと思ってた……オカ研だし、スズが一緒にホラー映画見たって言ってたし」

「スズ先輩と一緒だから何とか見れるだけですよ……今回みたいなスプラッタは系は特に苦手で」

 言いながら、マリちゃんはハンカチで涙をぬぐっていた。

 マジで泣くほど怖かったので、申告して他のアトラクションに行くべきだったと今死ぬほど後悔している。

 いつの間にか日が落ちていて、あたりはすっかり暗い。

 ふと、周囲のざわめきがひときわ大きくなり、カラフルなライトが点灯し始めた。

「あ、忘れてた、ナイトパレードの時間だ。移動しよう、マリちゃん」

「え、は、はい」


 ボクはマリちゃんの手を引いて、パレードが見れそうな場所まで急いで移動した。




 ―――




「綺麗ですね」

 照明が落ちた闇の中、光り輝くパレードの行進を、マリちゃんがキラキラした瞳で見つめている。

 輝く装飾を付けたダンサーが躍り、フロート車の上ではドラムや楽器の演奏。その横ではパークのオリジナルキャラクターが踊ったり手を振ったり。

 建物の壁はプロジェクションマッピングによって、魔法使いが空を飛んでいくような幻想的な光景が映し出されていた。

「うん……。キレイだ」

 人だかりの合間から、ボクらはじっとそのパレードを見つめていた。


「……今日は、誘ってくださってありがとうございました。ネコ先輩」

 と、マリちゃんがはにかむように笑った。

「それから……今朝は失礼なことを言ってすみません」

「今朝?」

「その……ネコ先輩のほうが有利でずるいとか……いろいろ……」

 そんなことか、と笑みがこぼれる。

「別に気にしてないよ。マリちゃんこそ、いっしょに来てくれてありがとう」

 そう言って、ボクはマリちゃんの手をぎゅっと握った。

「先輩……?」

「うん、今は塗れてないね。さっきは手汗べとべとでめっちゃヤバかったよ」

「――っ、仕方ないじゃないですか! 本当に怖かったんですから!」

 暗い中でもわかるくらい、マリちゃんの顔が真っ赤に染まった。

 ボクは彼女の手を軽く引き、体を寄せる。

「ねえマリちゃん。ボクらはさ……三人一緒がいいかもね」

「――えっ?」

 マリちゃんはキョトンとした目で僕を見る。

「だってさ、ボクら二人で一緒に居ても楽しいんだから」

 これは、ボクの紛れもない本心だ。

 誠実で、可愛い、ボクのライバル。

 普通は恋のライバルなんて目の前から消えてほしいものだと思うんだけど、ボクはやっぱり彼女に好意を持っている。

 恋愛的な好きではもちろんないけれど、友達として大事にしたい。一緒に居てほしい。そんな感情が芽生えていた。

「それは……はい、楽しいですけど……」

 マリちゃんはかぶりを振って答える。

「でも、不純ですよ、そんなの」

「そうだね。でも、選択肢の一つには入れておいてよ」

 そう言って、彼女から体を離す。


 ひときわ大きなフロート車が輝き、音楽も大いに盛り上がる。

 パレードのクライマックスを、ボクはマリちゃんの手を取ったままずっと見つめていた。




 ―――




 パレードが終わり、家族やクラスメイトへのお土産を買ったボクらは帰路についた。

 電車に乗って、最寄り駅につく頃にはすっかり人もまばらだ。

「スズ、熱下がったって」

「はい、私にも連絡来ました」

 ボクらは電車の中で、スズからのメッセージを確認した。

(別にボクが後でいいのに……)

 ほぼ同時に送ってくるあたり、彼女なりの気づかいを感じる。

「じゃあ今日はうちに泊っていきなよ。このままスズのお見舞い行こ」

「ネコ先輩のお家に? 良いんですか……?」

「良いよ。キミも早くスズの顔見たいでしょ。お土産もたくさんあるし」

「はい! じゃあお言葉に甘えます」

 言って、マリちゃんは家族にメッセージを送るためにスマホを取って操作し始めた。


 やがてボクの家の最寄り駅につき、二人で一緒に降りる。

「あの、ネコ先輩」

 ホームで、マリちゃんが先に行こうとするボクを呼び止める。

「どうしたの? マリちゃん」

「失礼します。動かないでくださいね」

 マリちゃんは、ボクの頬に両手を添え、つま先を伸ばす。そして――

 ちゅ。

 ――と、ボクの唇に、マリちゃんは自分の唇を重ねた。

「――!!」

「ン……」

 わずか数秒の出来事だったけど、永遠に感じられた。

「ウン……やっぱり、違うみたいです」

 二人の唇が離れ、マリちゃんはボクの頬に手を添えたまま言う。

「違う――って」

「私、ネコ先輩が好きです。でも、スズ先輩に向ける好きとは違いました。キスしても、スズ先輩とのキスみたいなドキドキは感じなかったから」

「いまボクはすっごいドキドキしてるけどね!」

 ボクはちょっと涙目になって抗議した。

 まさかいきなり、っていうか地元の駅でそんなことをしてくるとは。

 人に見られたらどうするとか考えなかったのかこの子は。

「まったく、いきなり乙女の唇を奪ってそんな事を――」

「別にキスくらい三人で()()時いくらでもしてるじゃないですか」

「そうだけど、ああもう、調子狂うな」

 踵を返して歩き始める僕を、マリちゃんが追いかけてくる。

「ネコ先輩。さっき言ってた三人一緒で――って話」

 ボクは立ち止まり、マリちゃんを振り返る。

「一応、考えておきます」

 そう言って笑う彼女の笑顔は、その後も僕の網膜にずっと焼き付いていたのだった。

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