これからの未来
蓮華はそっと私の隣に座った。
「蓮華、お母さんからお話があるの」
お母さんが言った。
「蓮華は、お姉ちゃんのものを勝手に触っちゃだめよ。お姉ちゃんには、お姉ちゃんの大切なものがあるから」
「……うん」
「もし触りたかったら、ちゃんと『貸して』って言うの。そして、お姉ちゃんが『駄目』って言ったら諦めるの」
蓮華の目から涙が流れた。
反省していたのか。
「ごめんなさい……」
蓮華の小さな声が聞こえた。
私は蓮華の頭を撫でた。
「ありがとう、蓮華。今度は壊さないでね」
「うん!」
蓮華は安心したように笑った。
◇◆◇
学校に着くと、華月がいつものように飛び跳ねながら近づいてきた。
「梓!どうだった?昨日の話し合い!」
「華月、昨日うちに来たんだって?」
「あ……バレた」
華月は照れたように頭を掻いた。
「お母さんに話してくれて、ありがとう」
「いや、でも俺、結構失礼だったかもしんない。いきなり家に行って……」
「そんなことない。華月のおかげで、お母さんと話せたよ」
私は華月に昨日の出来事を話した。
お母さんが謝ってくれたこと、これからは気をつけてくれると言ってくれたこと。
「よかったじゃん!」
華月は嬉しそうに言った。
その顔を見れて、私も少し嬉しかった。
「おはよー」
誠也が挨拶をしながら教室に入ってきた。
私を見るなり席まで飛んできてニヤニヤしだした。
「華月、また梓と仲良く話してる」
「いいじゃねぇか。友達なんだから」
誠也は少し意地悪そうに笑った。
「梓、華月のこと好きになっちゃ駄目だよ?こいつ、すぐ調子に乗るから」
「え?」
私の顔が熱くなった。
「誠也!何言ってんだよ!」
華月も顔を真っ赤にして慌てている。
からかわれるのはあんまり好きじゃないけど、たまにはこういうのもいいかもね。
温かい気持ちが胸に広がった。
もう一人じゃない。
私には私のことを大切に思ってくれる友達がいるから。
◇◆◇
放課後、華月と一緒に帰っていると、家の前に見知らぬ女の子がいた。
「あ、梓ちゃん!」
その子は私を見つけて手を振った。
「え……?」
「覚えてない?私、田中美咲。前の学校で同じクラスだった」
「美咲ちゃん!」
前の学校での親友だった。
一緒にお弁当を食べたり、放課後に図書館に行ったりした。
「会いに来ちゃった。引っ越しの挨拶もちゃんとできなかったから」
美咲ちゃんは小さな袋を差し出した。
「これ、お詫びと引っ越し祝い」
袋の中には、新しいシャーペンが入っていた。 前にくれたのと同じデザイン。
「美咲ちゃん……これ……」
「うん、壊れちゃったって梓のお母さんから連絡があったの。香苗は来れなかったけど、亦二人で買ったの」
お母さんが……。
それに、香苗も美咲もまた同じものを買ってくれたなんて。
「『梓の大切なシャーペンが壊れてしまって、新しいのを買いたいけれど、同じものが見つからない』って。それで、私が買ったお店を教えたの」
「…………」
目元が熱くなった。
お母さんが、私のために。
「でも、私からもプレゼントしたくて、もう一本買ってきちゃった」
「ありがとう……本当に、ありがとう」
私は美咲ちゃんを抱きしめた。
「こちらは?」
美咲ちゃんが華月を見た。
「あ、華月。転校先で仲良くしてもらってるの」
「俺は結崎華月。梓の友達です」
華月が丁寧に自己紹介した。
「よろしくお願いします。梓のこと、よろしく見てやってください」
美咲ちゃんも丁寧にお辞儀した。
一体誰目線なのだろうか。
「こちらこそ」
華月も真面目な顔で答えた。
なんだか、私の大切な人たちが繋がっていくような気がして、嬉しかった。
◇◆◇
家に入ると、お母さんがリビングで蓮華と一緒にお絵かきをしていた。
「おかえり、梓」
「ただいま。美咲ちゃんが来てくれてたよ」
「よかったわね。シャーペンは渡してくれた?」
「うん。お母さん、わざわざ連絡してくれたの?」
「あなたの大切なものを壊してしまった落とし前はつけないとね」
お母さんは当然のように言った。
蓮華が私の方を見た。
「お姉ちゃん、今日はお絵かき一緒にしない?」
「いいよ」
私は蓮華の隣に座った。
「でも、私のペンは貸せないからね。蓮華の色鉛筆で描こう」
「うん!」
蓮華は嬉しそうに自分の色鉛筆を並べた。
私は新しいスケッチブックに花の絵を描き始めた。
蓮華は私の隣で一生懸命に色を塗っている。
「お姉ちゃん、色塗り上手〜!」
お母さんは私たちを見て微笑んでいた。
こんな穏やかな時間は久しぶりだった。
我慢しなくても、みんなで笑っていられる。
◇◆◇
夜、ベッドに入る前に新しいシャーペンを机に置いた。
壊れたシャーペンも、引き出しから出して隣に並べる。
曲がってしまったペン先は直らない。
でも、これも私の大切な思い出。
友達がくれた気持ちは壊れていない。
そして今、新しいシャーペンがある。
美咲ちゃんや香苗の気持ち、お母さんの気持ちが込められているシャーペン。
私は今までは失うことばかり考えていた。
でも本当は得たもののほうが沢山だったんだ。
華月という理解してくれる友達。
誠也や説菜という仲間。
そして、変わろうとしてくれたお母さん。
「もう我慢しなくていいんだ」
私は小さくつぶやいた。
窓の外では月が静かに輝いている。
明日はどんな一日になるだろう。
きっと今までとは違う、新しい一日が始まる。
私はベッドに入って、安らかな気持ちで目を閉じた。
お姉ちゃんだから我慢する日々は終わり。
梓として生きる日々が今日から始まる。
我慢はもうしない。
みなさんこんにちは春咲菜花です!一日で連載小説が完結しました(笑)これは「幽霊少女に救われたい」以来ですね!まぁ、下書きを書いていたので当然ですが……。下書き完成まで二週間くらいかかってしまいましたから(笑)これにて、「お姉ちゃんという呪い」は完結です!ここまで見てくださってありがとうございました!!