ずっとそうだった
「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」
そんな言葉は聞き飽きた。
ずっとずっとそう言われて育ってきた。
末っ子は重宝されるとはこのことか。
飽きた言葉に飽きた対応。
いつまで続ければいいのかな。
◇◆◇
私は今日引っ越しをした。
新しい家は一軒家。
でも私は前のアパートの方がよかった。
私は何もない部屋に寝転んで思っていた。
アパートを出る時に少し寝坊したから私は今、前の学校のセーラー服を着ている。
羽織るだけでいいから楽なんだよね。
着替えるのもめんどくさい。
荷解きをする気も起きない。
でもしないといけない。
私は仕方なく起き上がってダンボールを確認した。
「あ、このダンボールはリビングのやつだ」
私のものが入ったダンボールではなく、リビングに置くものが入ったダンボールが私の部屋にあった。
どこかで入れ替わってしまったのだろう。
私はリビングに行った。
「お母さん、このダンボールリビングのやつ。私のやつと混ざってない?」
私はお母さんに聞いた。
お母さんは振り向いて私からダンボールを受け取った。
「どこかで混ざってしまったのかしらね。さっき丁度、梓のダンボールを見つけたの」
お母さんが指を指した方には確かに私のダンボールがあった。
印があるから分かる。
でも、なぜかそのダンボールは開いていた。
私はダンボールに駆け寄って中身を見た。
ない……。
「お母さん、ノート知らない?」
このダンボールの一番上に置いておいたノートがなくなっていた。
お母さんは首を傾げて「うーん」と唸った後、信じられない言葉を発した。
「ああ、あの可愛らしいノートね!あれなら蓮華が気に入ったみたいだったからあげたわよ」
蓮華というのは今二歳の私の妹。
「……んで?」
「え?」
「何で本人の同意なくあげるの?」
私が聞くと、お母さんは少し困ったような顔をした。
私の方がよっぽど困ってるのに。
よっぽど嫌な思いしてるのに。
「ほら、蓮華って一度欲しがったものはあまり離したがらないじゃない。返してもらおうと思ったんだけど、そうこうしてる内によだれがついちゃって……」
「だから蓮華にあげたの?」
私は怒りを抑えるために拳を強く握りしめた。
信じられない。
お母さんは少しムッとしてそっぽを向いた。
「別にいいじゃない。ノートの一冊や二冊。また買ってあげるからいじけるのはやめなさい」
いじけてるんじゃない。
怒ってるんだ。
手のひらに爪が食い込む。
「…………」
私はダンボールを持って二階に上がった。
そして、再び一階に降りてきて玄関に向かった。
靴紐が解けているから、段差に座って結びなおす。
靴紐を結んでいるとお母さんがやってきた。
歩き方から怒っている。
「荷解きは?」
「帰ってからやる。気分転換に行ってくる」
私はお母さんの目を見ずに言った。
お母さんはため息をついた。
「なに?不貞腐れてるわけ?」
「別に」
「ノート一冊くらいいいじゃない」
私はそのお母さんの言葉に反応した。
私は振り向いた。
お母さんは明らかに不機嫌そうな顔で私を見下ろしていた。
私は立ち上がって、怒りを抑えて言い放った。
「本当に何も分かってないね」
私はそのまま家を出た。
ドアを閉めてため息をつくと、目の前にある家から男の子が出てきていた。
同い年かな?
男の子は私を見るなり硬直した。
しばらくすると我に帰ったのか、猛ダッシュで私の家の門のところまで来た。
「ねぇ、君がここに新しく住む人?」
「え?あ、はい……」
「俺、結崎華月!苗字は結ぶに宮崎の崎、名前は難しい方の華に月で華月!呼び捨てでいいよ!君は?」
「あ、梓。一条梓。苗字は漢数字の一に条約の条、木辺に辛い」
私の名前を伝えると、華月は首を傾げた。
梓って漢字はあんまり見かけないし、しっくりこないのも分かる。
私は胸ポケットに入れていた学生証を取り出して、華月に見せた。
「ああ、花の名前か!お互い花が入ってるな!」
この人フレンドリーだな。
私は門を開けて外に出た。
「それより、梓。お前中一なの?」
「はい」
「じゃあ敬語いらないな!同じ中学に通う者同士仲良くしようぜ!」
華月は私の両手を上下させた。
強引……。
「どっか行くの?」
「え?うーん、決めてない。家から出たいっていうことしか考えてなかったから」
「じゃあ、俺が案内してやるよ!」
「え?いいの?」
私が聞くと、華月は笑顔で頷いた。
でも、用事があったんじゃないのかな?
私は華月に手を引かれてどこかの公園に連れて行かれた。
「あ〜!華月遅い!五分遅刻!」
公園のベンチで三人ほどで固まって喋っていた女子の一人が、華月を見て声を上げた。
やっぱり用事あるんじゃん。
「何やってたんだよ、華月」
「わりぃわりぃ、前の家に人が引っ越してきたから挨拶してた」
「それって、その後ろにいる子?」
女の子は私に指を指した。
私は華月の背中に少し隠れた。
「その制服、第一中の制服じゃん」
「え?そうなの?」
「逆に何で知らねぇんだよ」
男子がツッコミを入れた。
楽しそうだな。
私は盛り上がりに乗じてその場を立ち去った。
◇◆◇
ああいう場は好かない。
しかし、やけに視線を感じると思ったら第一中の制服を着ているからか。
第一中学校とは、由緒正しき中学校として知られている。
偏差値もそこそこ高く、中高一貫という絶対に受験しないと入れない中学だ。
そんな学校に入った私を、両親はすごく褒めてくれた。
だけど、蓮華が走り回る音が隣人や下の階の人達にストレスを与えてしまったらしいから引っ越すことになった。
私はせっかく入学した中学を転校する羽目になった。
近くに親戚の家があったらそのまま在学できたけど、残念ながらいなかったため転校することになった。
私は一体何のために受験したのだろう。
「はぁ、それもこれも蓮華が落ち着きがないせいだ」
こんなことを言ったって、何も変わらないのに。
「あー!梓いた!!」
華月の声が聞こえて振り向くと、華月の友達と華月がいた。
追ってきたのか……。
「案内の申し出くらいは素直に受けなさいよ。ここがどこか分かってるの?複雑な」
「説菜、言い方」
「うるさいな。口調がキツいのはよく分かってるでしょ?」
華月以外の二人が喧嘩を始めた。
これ大丈夫なの?
「ほっといていいよ。あの二人はいつもああだから。二人とも自己紹介して」
「吉田説菜。名前は語呂合わせでつけられた。よろしく」
「吉田誠也。よろしく〜」
あれ?
どっちも吉田?
「俺と説菜は兄弟なんだ〜。俺が兄。説菜が妹」
「私、あんたが兄とか認めてないから!」
「いや、戸籍上そうだから。逃げられませ〜ん」
「そういうところが嫌いなんだよ!誠也のバーカ!」
喧嘩するほど仲がいい……?
兄弟か。
喧嘩できるほど仲がいいのは羨ましいな。
「ほら、街を案内してあげるんだろ?喧嘩してないで一緒に案内してあげようぜ」
華月が言った。
二人は華月のことをギロリと睨んだけど、私をチラッと見て咳払いをした。
「お見苦しいものをお見せして……。さ、行こうか」
「う、うん」
◇◆◇
「ここは商店街。最近八百屋のおじさんがギックリ腰やっちゃって病院行ったりするから木曜日に行くのがおすすめ」
「あっちには少し大きな公園と河川敷があって、毎年夏に花火大会があるんだ。穴場があるから夏になったら行こうね」
「こっちは駄菓子屋、他より品揃えがいいし安い。コスパを選ぶならここだなあそこだな」
こんな感じでザッと近くのお店などを紹介してもらった。
帰る頃にはすっかり夕方になっていた。
「それじゃあ、またね〜」
誠也と説菜と別れて、私と華月は家に向かった。
何度か誠也と説菜が喧嘩とかもしたけど、割とスムーズに紹介された。
「楽しかったな!」
華月は眩しいくらいの笑顔で言った。
私は素直に楽しいと思えたから頷いた。
「あいつらはいつもあんな感じだから気にすんな。それじゃあな〜!」
家に着いたから、華月は手を振りながら家に入っていった。
華月は元気だな。
私も家のドアを開けて中に入った。
みなさんこんにちは春咲菜花です!二連続の妹差別物です(笑)!「愛されぬ少女」と違うところは、まだ梓が愛されているところですね。マ〜ジで書き出すと止まらねぇっす(笑)もう下書きが全部済んでいるので、今日中に全部投稿できると思います!お楽しみに!