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イチリン  作者: 火炙
7/8

6 星見式自衛論

 イヨリンが退院してから一週間が経ちました。左太ももに開いた穴も塞がって、後遺症も無いそうです。

鬼刹(きせつ)という人の事も聞きました。怖い人だとは思いますが、トラウマになってないようで良かったです。


 お見舞いには檎悟(きんご)さんの他に真石(まいし)さんも来ていました。二人ともイヨリンママには驚いていました。

やっぱり初見ではそんなリアクションになりますよね。ママリンは凄い人なので。


 まず、二メートルよりちょっと高いくらいなんです。ママリンの背が。そして腰元まで伸びた”色の無い”さらさらでツヤツヤの綺麗な髪。私の目には白色に見えるけど、本人は色が無いだけだって。


 そして、私は今イヨリンと公園に向かっています。

花さんに『頼君を連れて公園においで。私は先に行ってるから』と言われたので。


 公園が見えてきました。カバの遊具の上に花さんが座っていて、ジャングルジムの頂上で横になっている夢さんとお話をしている様子でした。こっちに気が付くと手を振ってくれたので、私は振り返しました。


 「お、来たね!頼君もすっかり元気になったね。良かった良かった」

 「いやぁ....支えて下さった皆さんのお陰ですよ....」


 さすがイヨリン。そんなセリフ私には言えないや....


 「うん。雑談はさておき、今日は大事な話があるんだ」

 「大事な話....ですか?」


 大事な話ってなんだろう。

というか、大事な話なら部屋とか事務所とかでしたら良いのに。


 「うん。二人は自分が置かれている状況をなんとなく理解は出来てるかな?」

 「僕は....鬼刹って言う鬼に襲われました」


 「だね。すずちゃんは?」

 「私は、正体の分からない変な人達に追っかけ回されてる。かな?」


 「そうだね。二人とも良く分かってるね。うん....」


 花さんの何か言いたそうな顔。言いづらい事なのかな?

夢さんの方は呆れてるみたい。喧嘩でもしたのかな。


 「まず、私らが二人の側に居て、常に守り続ける。とかは残念だけど出来ないの。もちろん努力はするけど、まぁ無茶っちゃ無茶なの」

 「そう....なんですか?」


 「そうなの。だから、二人には自衛をする力を付けて欲しいなって。何人かの大人で話し合ったの」


 花さんの言い分は正しいと思います。でも、戦えるだけの―


 「力を付けるのは無理。って思ってるでしょ?これが違うんだなぁ~」

 「あれ、心読まれた?」


 「フフっ。私が二人に学んでほしいのは、あくまで自衛。戦う事じゃないんだ」

 「というと?」


 もし私たちが襲われた時、敵を打倒し勝利することでは無くて、あくまでどうしようもなくなった時に逃げる為の時間を稼ぐための動きを教えたい。と言う事らしいです。


 正直、私にはどっちも同じような感じがします。

でも自分を守れるような力も欲しいと思います。もう痛いのも苦しいのも嫌なので。


 「違うでしょ。咲」


 夢さんのちょっとイラっとしたような声が聞こえると、花さんもゲって顔をして渋々と話を聞かせてくれました。


 「そう。自衛の力はすずちゃんだけ。頼君は違うんだ」

 「えっ僕?」


 私はまだ逃げる余地があるらしいです。けど、イヨリンは逃げ場が無いそうです。

言われてみれば、止まった時間の中で一体どこに逃げるのが正解なのか私も分かりません。


 「残念だけど頼君は戦えるようにならないとダメなんだ」

 「えっ、え~~、どうしてなんです?」


 イヨリンすっごく嫌そう。気持ちは分かるし、その顔ちょっと好きです。


 「すずちゃんの場合は、私を呼んでくれればなんとか出来る。けど、頼君は違う。なんせ止まった時間の中を動けるのは君だけだから」

 「うっ、確かに....」


 「うん。とりあえず、頼君の最終目標は”鬼刹の撃退”かな」

 「そんなの....無理ですよ!あの人めちゃめちゃ強いんですよ!?」


 「そこは大丈夫。私に任せといて」

 「えっ....?」


 イヨリンの気持ちもなんとなく分かるんです。だって、花さんって強そうに見えないんです。

小柄な笑顔の似合う可愛い人って感じがして、戦ってる姿が想像出来ないんです。


 「んーーっと、えー、そうだな........まぁ、私を信じてよ」


 散々考えてそれだけ。花さんってこういうの苦手なのかな?


 「じゃあ....一つ質問していいですか?」

 「何かな?頼君」


 「花形さんに鍛えて頂けたら、僕は鬼刹を倒せるようになろのですか?」

 「フフフっ。もちろんさ」


 やっぱり即答....一体その自身はどこから....




 公園に呼び出された理由は私たちに強くなって欲しいから。ということは、このまま運動か何かをするのかな。と思っていました。

実は今、近所のファミレスに居ます。


 「まぁ、まずは昼ご飯にしよっか!」


 そんな花さんの提案で昼食に来た訳ですが、食後に運動が控えてるので少なめにしておきます。

私は、オムライスと唐揚げ。イヨリンはハンバーグ定食を食べていました。

花さんはピザを、夢さんはフライドポテトを食べていました。


 食事中、花さんの携帯が鳴ったので、店の外へ行ったん出ていきました。戻ってきた花さんの顔色が良くない気がして、ふと夢さんの方を見ると、夢さんも気づいていたようです。


 「咲?」

 「ちょっと行ってくるわ。今日は任せた」


 「待てよ。せめて何か言ってけよ」

 「貝ちゃん死んだってよ」


 そんな言葉と、全員分の食事代を置いて、急いでファミレスを飛び出してしまいました。

貝ちゃん。多分、貝罪さんの事なのでしょう。関わり合いはそこまで無いけど、私の事を背負って必死に走ってくれたあの優しい人が....何て言ったら良いのかな。


 「夢さん....」

 「ん、あぁ。気にしなくていいよ」


 そう言われても気になりますよ。


 「あのー、貝ちゃんさんって....?」

 「咲の所の労働者だよ」


 もっと良い言い方がありそうな気もしますが、それよりも気になる事がありました。

夢さんは悲しくないのかな?ということ。いつものスンとした表情を崩さなかったけど。


 「ん?悲しくないのかって?別に」

 「別にって....」


 「アイツ人見知りで、自己開示しないからねぇ....結局最後まで”知らない奴”のままさ」


 言われてみれば、私も名前以外は何も知らない。私を助けてくれた知らない人。

あれ....私....どうして悲しんでるのかな。

でも、花さんの友達なんだし悲しむのは当たり前だよね。

いや、そんな適当な理由で適当な事を言うのはダメな気がする。失礼じゃん。


 なんだろ....なんか変かも....わたしって


 「....い。おーい!清音?」

 「えっ?」


 「大丈夫か?ぼーっとしてたけど」


 お会計を終わらせて、もう帰る所みたいです。夢さんは店の外に居ました。

二人で店を出ると夢さんから驚きの一言が。


 「二人とも、さっきの公園まで、走って戻っておいで」

 「「えっ」」


「歩いて十分弱。走ったら五分程で着くはずだね」


 そう言うと、フワッと飛んで行ってしまいました。イヨリンの方を見ると、すごく驚いた様な顔をしていました。それもそのはず。空を飛べる人なんて珍しいですから。


 イヨリンと話し合って、走って戻ることに決めました。

変に真面目なので、食後なのにやる気に満ち満ちていて、少し面白いです。でも、私の記憶が正しければ、この人体育がすごく苦手だった気がするような....

まぁ、私も走るのは苦手ですが、五分以内に到着できるように頑張ります。



 そして十五分後。


 「まじか」


 「はぁ....あーーっ!つかれた!」

 「ゼェ....ゼェ....無理....かも....」


 「あー、君ら想像以上に体力ないんだね....」


 自分でも驚いています。走り出し最初の一歩でビックリしました。自分の体重の重さに。

踏み込んだ時にドスっとして、足から上の方へと衝撃が伝わった様に感じました。

そうです。あまりにも筋力が無いのです。もちろん体力もありません。


 ちょっと走っただけで、正確にはほぼ走ってはいませんが、足も肺も頭も痛い。

十分間の休憩をくれましたが、正直今は休憩よりも酸素が欲しいです。


 それに、汗がダラダラと出て、止まる気配がありません。

白いシャツがぴっちり張り付いて気持ち悪いです....


 「まぁ、アレだな。(こう)(ぼう)だの前にまずは体作りだね」

 「体作りですか?」


 「そ。古古伊君は体力と筋力。一葉は同二つに加えて、体重を増やさないとね」

 「えーー太りたくなーい」


 「何言ってんのさ。君痩せすぎなんだよ」

 「僕もそう思います」


 そうなのかな?最近のアイドルとかモデルさんもこれくらいだし、細いほうがモテるって聞いたけど嘘をつかれたのかな。

それに、たまに脱衣所の鏡で自分の体を見ますが、正直ちょっとイイと思うのです。


 「二人とも、筋トレとかいいから、まずは二十分程度のウォーキングから始めようか。可能なら毎日。気持ち大股気味、やや速足で。良いね?」

 「「はーい」」


 「よし。ここからは事務所に戻って座学だよ。”抵抗する”という判断の付け方を教えるから」




 私たちは事務所に帰ってきました。ここまで体が弱いとは想定してなかったみたいです。

サッとシャワーを浴びて汗を流すと、まずは冷たいお茶で乾杯。

一息ついた所で、夢さんの授業が始まりました。


 「抵抗した方が良い時と、そうじゃない時がある。それをどう見分けるか、それを話すよ。ちなみに事前に内容を考えるとかしてないから、もしかしたら分かりにくいかも」

 「....えぇ?」


 「今からザっと話すから、適当に聞いてくれな」



 ”襲われる”と言っても大体二種類ある。一つは、その場で殺害される物。一つはすぐには殺害されない物。抵抗すべきは”前者”である事を留意して貰いたい。

....ん?ああ、要するに覚えといてって事ね。


 前者は通り魔的な殺人や、殺し屋によるものが多い。後者は、強姦や誘拐が一般的だね。

うん?逆じゃないかって?いや、合ってるんだな。これが。

というか、本来は両方抵抗すべきではあるんだけどね。訳はこれから話すよ。


 大事なポイントは自身の行く末が決まっているかどうか。

前者は決まっている。当然”死”さ。だからこそ抵抗しなければならない。

後者は違う。逆らわなければ”命は”助かる。心身共に深い傷は負うだろうけどね。


 そして、ここからが大事だよ。

もしレイプされそうになったら、暴れずに大人しくしてくれ。

もし攫われそうになったら、抵抗せず静かにしててくれ。

あと、分かってると思うけど、この話に性別は関係ないよ。男の子だってレイプされる時もあるからね。

特に一葉(キミ)。君が女の子である以上、その可能性はかなり高いと思って欲しい。


 レイプに関しては、加害者はただ絶頂(イキ)たいだけ。要求に従って、大人しくしていれば過剰な暴力や最悪の事態を防ぐことが出来る。

誘拐もそう。抵抗さえしなければ、キツイ拘束を受けることは無い。

大切なのは相手にとって”都合の良い”動きをすること。


 うん。分かるよ。僕は変なことを言っている。その意見も怪訝な表情もごもっとも。

これは、この話の要点であり、僕らがトレーニングを強要する理由でもあるんだ。

良いかい?僕らが行くまで命を繋いでおいて欲しいんだ。


 譲れないものがあるのは分かる。プライドがあるのも分かる。でも、大切なのは命だよ。

例え、癪に障る事を言われたり、嘲笑られたりしても我慢。言い返してはいけない。

大人しく従順で居る事。静かで都合の良い存在になること。良いね?



 「さて、何か質問は?」


 それは私にとって衝撃的な内容でした。まるで、犯罪被害に会う事が前提のような。被害に会わないための動きが聞けると思っていましたが、なんというか....びっくりです。


 「あの....いいですか?」

 「ん。構わないよ」


 「どうやって、助けを呼べば良いですか?」


 確かに。それは私も気になっていました。


 「連絡をくれるのが一番かな。例えば位置情報を送る。とか、通話を繋いで現場の音声を聞かせてくれるとか。それが出来なくても、異変を感じれば僕らは勝手に動くから」


 なんというか........多分、イヨリンも私と同じことを考えてる気がします。

この人は信用できるのかな。って。


 「コイツはホントに信用出来んのかー?とか考えてるでしょ」

 「えっ、いや、そんなことは―」


 「ハハっ、良いって。僕はいい。ただ、咲の事は信じてあげて」

 「花形さんですか?」


 「そう。アイツは君たちの味方で居てくれる。何があっても」

 「....わかりました」


 夢さんも花さんも、凄く不思議な人だと思う。私たちの知らない所で、私たちの人生に大きく関わっているような。

私以上に私の事を知っているような。もちろん、そんな事無いだろうけど、そんな感じがする。


 でも私は信用してみます。夢さんも花さんも。




 一方の花形は、貝罪が入院していた病院へと向かっていた。

たまたま出会った、暗殺(しごと)帰りの異神(いがみ)(しゅん)を拾い、現場へと向かう。


 「あっそ。死んだの」

 「そーなの。しかも他殺みたいで....貝ちゃん....早すぎるよ....」


 「ハッ、汚ぇおっさんが()えただけだろ」

 「はぁ....相も変わらずだね。君は」


 二人が向かっている黒又病院は、風気(ふいき)市唯一の病院であり、花形が贔屓にしている場所である。古古伊や一葉。赭蘭(せいらん)冷蘭(れいらん)が担ぎ込まれた場でもある。


 到着した病院前には複数の警察車両に警察官。その誰もがせわしなく駆け回っており、その様子は通常の殺人現場とは一線を画すようだった。

三階、右から四つ目の窓がブルーシートで覆われていた。それは、外からでも見える程に現場が凄惨である。ということを想起させる。


 あーあ、ホントだったんだ。本当に死んじゃったんだ。

貝ちゃんが何したってのさ。初対面の女の子を守る為に、体を張って戦ったイイ男が何でこんな目に....


 嫌だねぇ....自分が嫌になる。君が狙われるなんて、想像もしていなかった。

こういう時、そっちに行けないってのが悔やまれるよ。


 自責の念に駆られる花形の綺麗なうなじを異神の冷たい手が捉える。


 「ひゃあっっ!?」


 油断しきっていた花形は、急な冷間に体を小さく跳ねさせた。


 「なにぼけっとしてんだよ」


 その体以上に冷たい視線を向ける異神。


 二人は気を取り直し、病室へと向かった。

花形の顔パスで、警官達の間を縫うように目的地に向け歩を進める。

徐々に増える警官の数が、事件現場への接近を物語っている。


 そして、病室前にたどり着いた花形は異質な雰囲気を感じ取る。

腐敗臭とは違う死体の臭い。血香とは違う死の香り。

室内に入った花形はそんな臭いに当てられた。それは無理もない。ただでさえ不快なものを、それが仲間のモノであれば尚の事。


 室内には四つのベッドが並んでおり、貝罪は左奥のベッドに横たわっていた。

胸の中心辺り。ちょうど心臓があった場所に、拳一つ分の穴が開いていた。穴は見事に貫通しており、覗き込めば血で真っ赤になったシーツが見える。


 「咲。見ろ」


 異神の方に視線を向けると、そこには花形ですら見たことの無い光景が。

病室右奥、貝罪のちょうど真反対側の窓ガラスに心臓が張り付いていた。


 「うっわ....あれ貝ちゃんのじゃね....?」

 「だろうな。それにしても初めてだ。こんな景色は」


 異神が感心しながらも近づき観察すると、ある点に目を引かれた。


 ....そうか。ククク....全く、(おもしろ)い事をする。どう納得しようか。己をどう默らせようか。

二分にした片割れを張り付けていた。では無かったか。見るに、丸々一つを埋め込んだか?

心臓にもガラスにも傷は見当たらない。どうやった。


 考え込む異神の肩に手を掛け、ふいに問いを掛ける。


 「最短最速で説明するとしたら?」

 「....転送に失敗した」


 「お、良い視点だね」

 「お前は?」


 「どーだろうねぇ。分かんないかな」


 おどけてみせる花形に若干の苛立ちを覚えながらも、話題を貝罪の遺体へと変える。


 「で、問題は”どうやって抜いた”かだ。何か分かったか?」

 「んーそこだよねぇ....どうやったんだろ」


 傷口がボロボロで、サイズがちょうど腕ぐらい。素手での犯行なのは確定として、貝ちゃんだって弱くない。襲われれば抵抗はするし、出来る。なのにそれをした形跡が無い。


 顔見知りの犯行か不意打ちか。不意を付ける程隙あったっけな。

あーダメダメ。身内事だからこそ冷静に。先入観を捨てて考え直そう。


 胸に腕を突っ込んで心臓を引っこ抜く。それ自体は誰にでも出来る事。

ただ、窓の件は説明が付かない。アレのせいで犯人候補リストが埋まらない。

考察の中心を殺人から窓の方に移してみよう。蠢君の転送という案も悪く無い考えだと思う。

ただ、それだと窓ガラスに埋めた意味が分からない。失敗したってのも分かるけど、だとしたら”本来はどこに送るつもりだったのか”という新しい疑問が出てくる訳さ。


 ここで浮かび上がってくる一つの漢字がある。それは『透』。なぜかって?理由は二つある。

一つは”透明化”を疑ったから。それが出来たら当人にも、院内の人間にも気づかれる事なく犯行に及ぶことが出来ると言う訳さ。えっ?窓ガラス?まぁまぁ....ね?


 もう一つは”透過”。イメージとしては壁や物をすり抜けるアレさ。それならガラスの件は説明が付く。

フフフ....そして殺害の件もさ。ここからは突拍子もない事を言うけど、恐らく下。

つまり、ベッド側からの攻撃。それなら気づけないのも納得出来る。犯人の目撃情報が無いのも納得出来る。


 纏めよう。犯人は壁をすり抜け、誰にも目撃される事無く”下から”貝ちゃんを殺害。

その後、心臓を引き抜いて窓に埋め込んだ。と言うのが私なりの推理。


 「どうかな?蠢君」

 「そんなことよりも咲。これはどうだ?残虐だと思うか?」


 「そんなことって....まぁ、酷いとは思うよ?」

 「あぁ、かなり控え目ではあるが、隠しきれない残虐性が溢れている。そして俺たちは知っている。過度な残虐をトレードマークにしている奴を」


 「....!いや、それは飛躍しすぎだよ。いや....いやぁ....」




 親殺し。

始まりは1990年。新潟県の某所にて発生した凄惨極まる殺人事件。

発見者は地元の小学生。僅か八歳にして、この世の地獄を目撃した。


 現場は少年宅。室内は真っ赤に染まっていた。皮に肉に骨片が散らばっており、人物の特定が不可能な程だった。

当時は、あまりの凄惨さに動物、特に大型の肉食獣の仕業説や、突如として人体が爆ぜたのでは。などと噂されていたが、実際の所は未だ未解決のままである。


 この事件には大きく分けて二つの特徴がある。

一つはその残虐性。もう一つは子を持つ家庭だけが狙われ、必ず”子供だけ”が助かるという事。

二人兄弟、三人兄弟共に、必ず一人だけ。いずれも法則性は確認されていない。


 現場を目撃してしまった一般市民や、現場検証に訪れた警官達は失神や嘔吐など正に地獄の重ね塗りと言った様子だった。また、その後は心的外傷を負ったものや、悪夢にうなされるなど、現場復帰はおろか退職、自殺に追い込まれる程に強いショックを受けることとなった。


 しかし、ここで特筆すべきはその残虐性では無い。証拠が一切残っていないという点だ。

これだけの事をしておきながら、証拠が一切残っていない。完全犯罪と言う言葉が似合う事件だ。それは現在(令和7年12月)でも何一つとして進展が見られない。


 何件もの怪事件を解決に導いてきた花形をもってして『フッ....なんも分かんねぇ』

圧倒的な推理力を持つ警官、檎悟をもって『例えば........呪殺』と言わしめる程だった。


 そして、2019年。浪華(ろっか)県初の親殺しが発生した。

生存者の名は”一葉 清音”




 「違うか?思わないか?”残虐”というシンボルこそ親殺しの特徴。どうだ?そのシンボルはここにある!窓ガラスにある!違うか!?」


 蠢君テンションぶち上がってんじゃん....ホント好きだよねぇ....こういう話。


 「親殺しねぇ....貝ちゃんに家族は居ないはずだけど?」

 「黙れ!分かり切ったことを!まさに今日だ!怪事が動きを見せた!」


 はぁ....よく喋る....この子には不謹慎って概念は無いのかねぇ。

しかし、親殺しとは無関係とも言い切れない。これは蠢君の意見も一理ある。念のために檎悟に話しておこう。もしかしたら、もしかするかもしれないしね。


 と、言う訳で檎悟に話してみたけど、案の定知っていた。私らが到着した時には警察が居たし当たり前か。

そして、ここからは話すことはおろか、考えることも許されない最低な考察。

あの日現れた五つの影。鬼刹(きせつ)と名乗る鬼。これらは清音ちゃんに関する物だろうね。そして次は貝罪と来た。これらの中心には清音ちゃんが居る。あの子には何かがある。


 危険なのはあの子を取り巻く環境か、或いは、当人か。


 蠢「二階の天井から入って三階の貝罪を殺害...?馬鹿じゃないのか?」

 花「仮定の話さ。仮定仮定」

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