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イチリン  作者: 火炙
5/8

5 先輩!


 古(清音のお尻触っちゃった....いや、あれは不可抗力。不可抗力だ....)

 一「どったの?イヨリン?」

 古「へっ?い、いや、なんでもっ」


 「サリュ!来ましたわよ!」


 朝も九時。満面の笑みを浮かべた美華条が、何でも屋花形の扉を開く。

初めから客じゃないと分かっていた花形は、大したリアクションも取らず軽く手を振っただけだった。

薄いリアクションにムッとほっぺを膨らせながらも、応接用のソファに腰を降ろした。


 「あら?おすずの姿が見えませんわね」

 「あー、あの子ならアルバイト中だよ」


 「バイト?なんのです?」

 「たまに入る犬の散歩の代行だよ。何かやってみたいって言うから簡単そうなのをやってもらってるんだ」


 「大丈夫なんですの?また攫われたりでもしたら....」

 「そこは大丈夫。十分に一回連絡を入れる様に言ってあるから」


 大丈夫では無くない?と思う美華条が突っ込みを入れようとしたその時、花形の携帯に着信が入る。

もちろんそれは一葉からのものであったが、その内容は二人の想定していないものだった。


 「ほら、噂をすれば....って、えぇ!?」

 「ほーら、言わんこっちゃないですわ。何て来ましたの?」


 「檎悟(きんご)と一緒だって....」

 「檎悟....」


 「「えええええええ!!」」


 檎悟とは誰か。ですわね?少し説明いたしますわ。

初登場は第二話。悪の組織に追われるおすずを逃がすために車を出した強面の警官ですわ。

出てきたのは最近だが、記憶にはない。ですか?これは更新の遅さが原因と認識しています。

大変申し訳ございません。それでは話を戻しますわね。




 花形に連絡が入る数分前のこと。

一葉は商店街に居た。依頼主から預かった、白黒の綺麗な毛並みのボーダーコリーを連れて、まったりとした平和な時間を過ごしていた。平日の朝方ということもあってか通勤通学大勢の人が行きかう中、一人の人物が目についた。

その人物は、存在感を放つというか、アウトラインが強く、何より見覚えのある人物なだけに一葉はソレが誰なのかすぐに分かった。


 「あ!檎悟さんだ!こんにちはー!」


 ビクッとした様子で辺りをキョロキョロと見回し、一葉を発見すると、口元で人差し指を立てながら小走りで一葉に近づいた。


 「何をしている。こんなところで」

 「お手伝い!」


 「そうか....偉いな。ではまた―」

 「あっ、ちょっと待ってね。花さんに連絡しなきゃ」


 檎悟さんと一緒にいるよー!>


  <えぇ!?ちょっとなんで、えっ、はぁ!?


 既読、返信の速さが花形の驚きを物語っていた。


 「あ、電話かかってきたよ」

 「....そうか。ではそろそ―」


 「もしもーし。どうしたの?」

 「え、どうして?何があったの?」


 「散歩してたら会っただけだよ。変わる?」

 「いや、大丈夫だ」 「変わって!」


 食い違う二人の意見に、迷いつつも花形派の一葉は持っているスマホを檎悟に渡した。

渋々スマホを受け取った檎悟は、低い声をさらに低くして話し始めた。


 「....おう」

 「よっ。何してんのさ」


 「何だと?俺を呼び出したのは貴様だろう」

 「確かに。けど、すずちゃんと会ってるのは話が違うよね」


 「警官は不都合か?」

 「アンタさ不都合なのは。変な事吹き込まないでよ?」


 「フン。それと会いに来た訳じゃない。声を掛けられたから仕方なくだな....」

 「はいはい。分かった分かった。後は頼んだよ。あ、あと伝言をよろしく」


 花形は言いたいことを好き勝手に言い残すと、通話を終了させた。

一葉にスマホを返すと、伝言を伝える。


 「美華条がチーズケーキを買ってきてくれたそうだ。水守(みずも)のデパートの物のらしいぞ」

 「えっ!ホント!?ヤッターー!!」


 「よかったな。ではまた」

 「?来てくれないの?」


 「犬の散歩くらい一人で出来るだろう?」

 「そっか....うん!またねー!」


 そう言う一葉の笑顔に檎悟は違和感を感じた。何かを押し殺し、無理矢理作った笑顔に見えたからだ。


 ....なんだ。俺が悪いのか。なぜそんな顔をする。

犯罪被害に会った少女をあしらうことは警官としてどうなんだ?いや違うな。警官としてではない。大人として。一人の人間として。


 散歩を再開した一葉を追い、横に並び立った。


 「今日だけだ」

 「やったーー!」




 「で?で?なんて言ってましたの?」

 「たまたま出くわしたみたい。まぁ、あの人が一緒なら安心だよ」


 一葉の身柄が絶対的に安全となり、二人が安心出来た所で美華条が話題を変える。


 「ところで、おすずは何故あの時レイピアを編んだのでしょうか。聞きました?」


 それは一葉が陣崎と対峙した時の事。自身の為に傷つき、自身のせいで死ぬかもしれない美華条の為に立ち上がり、戦う事を決意した一葉が無意識のうちに編み上げた武器。それこそがレイピアだった。


 「んお?聞いては無いけど、心当たりはあるんだよね」

 「ほぉ。聞きましょう」


 「あの子さ、”中年少女パール・パープル”ってアニメが大好きらしくてさ。特に主人公のパールパープルが推しみたいで」

 「中年少女?なんですのその地獄のようなタイトルは」


 「”三十年後の魔法少女”ってコンセプトらしい。で、そのパールパープルが使うメイン武器がレイピアなんだ」

 「そこから....えっそんなとこから!?」


 「たぶんね。主人公がよくやってる、左手を後ろに回して、切っ先を地面に向けるよく分からない構えとかも、どうせ陣崎相手にやったんだろうねぇ」

 「えらく詳しいような........見ましたの?中年少女」


 「予告編だけだよ。さすがにあんなのに金払う気にはなれないよ」

 「へー。ちなみにどこで見れるかわかります?」


 「確か、bアニメストアとか言ったかな」


 美華条がスッとスマホの画面を見せる。それはbアニメストアの画面だった。


 「お?もしかして見れるの?」

 「えぇ。見れますわ」


 検索欄にアニメのタイトル入れ、早速一話の再生ボタンを押した二人は、OPを見終わってすぐ動画を停止してしまった。


 「こんなの見てるのか。あの子」

 「OPだけで汚ぇ乳首が三度もコンニチハしてましたわね」




 二人が不適切アニメを視聴してる頃、一葉は檎悟に買ってもらったアイスを片手に日陰で休憩をしていた。


 「それでね!敵の幹部に対してパープルがこう言うんだ『かわいい子だ。もし降伏するなら飼ってあげても良いわよ♪』って!いつか私も言いたいなぁって!」

 「いや....やめた方が良いと思うぞ」


 「ちなみに、今年の十一月から第十期始まるから見てね!」

 「そんなにやってるのか」


 一葉の頬についたアイスをタオルで拭うと、預かっていた犬のリードを手渡し散歩を再開した。

アニメには全く縁がない檎悟にとって、一葉が話す内容は未知の領域の物だったが、目を輝かせて楽しそうに話す五十以上歳の離れた子供の話を遮ることは出来なかった。


 公共の場でするには、少々下品な話題で盛り上がる二人に、後ろから一人の青年が声を掛けた。


 「あ、あのーちょっといいですか?」


 大人しく控えめな声に二人が振り返ると、想像通りの青年がそこに居た。

良く言えば陰キャ。悪く言えば....いや、やめておこう。


 「あ、やっぱり!清音だよな!」

 「........あーーーー!!!イヨリンだぁーー!!」


 イヨリンと呼ばれるこの人物。本名を古古伊(ここい) (より)と言う。一葉とは小学生時代からの付き合いで、一つ上の先輩でありながら同学年のように接する程に仲が良かった。

大人しめ、控えめでありながら友情だの、絆だの恥ずかしげもなく口にできる熱いモノを内に秘めた、今時珍しい青年である。


 「....フム。そうか、それで伊頼(いより)君は」

 「あっ、待ってください。”ここい より”です。”ここ いより”では無いです」


 「そうか。すまない」

 「あはは。そのくだり久しぶりに見た気がする~」


 「あの、ところでそちらの方は....」

 「この人はね、檎悟さん。お巡りさんだよ」


 「お巡りさっ....何かしたのか?ハッ....!まさか、犬泥棒か!?」

 「あはははは。違うよっ!散歩の代行だよ」


 現在、花形と同居をしていて、これは仕事の手伝いだと話すと、古古伊は驚きの表情を作った。


 「つまり、その犬を返したら花形さんの所に帰るんだよな?」

 「そうだけど....どうしたの?」


 「ちょうど僕も”何でも屋花形”に行くとこだったんだ」


 そう言う古古伊に少し驚いた様な表情を浮かべながら、俺もだと檎悟が言うと三人は顔を見合わせ、プッと吹き出した。


 商店街で起きた小さな奇跡。久しぶりに再会した二人はどちらも花形に用があるとのことで、一葉は二人を引き連れ、話しをしながら散歩を再開した。


 古古伊と檎悟、両名初対面ながらも似た何かを感じたらしく、意外に話が盛り上がった。

そしてそのどちらとも仲のいい一葉。三人の和気藹々とした雰囲気の中で、珍しく緩んでいた檎悟の表情が突如として厳しい物になった。

まるで修羅の様な。警戒心に満ち満ちた面持ちに、二人ものっぴきならない何かを感じ取った。


 ....フム。居るな。何か危険な存在が。同行して正解だったか。

狙いは一葉君だろう。無関係の古古伊君を巻き込みたくはないが、一人にするのはかえって危険。

ここは俺一人でも何とかなるだろうが....しかし、こうも頻繁に付け狙われるというのはどうしたものか。


 「まったく....君は大変だな」


 檎悟の憐みの様な同情の様な感情の混ざった声が、二人の気を引き締める。

何かが起きている。それも、想像よりも恐ろしい命にかかわるような事が。しかし古古伊にはそれが分からない。

一葉の家庭事情はなんとなく把握していても、現状までは知らない為、自分たちが襲われる。などとは夢にも思っていなかった。


 「あの、一体何が....?」


 恐る恐る檎悟に聞いてみるも反応が無い。


 ....あれ?無視?檎悟さん凄い怖い顔して動かないし、清音も....なんなんだよぉ....


 というか、何でピクリとも動かない....ん?このワンコも全く動いていないな。まるで剥製みたいだ。

けど、それはおかしくない?多動症の子供みたいに落ち着きがないのが、普通のワンコだろ?

それに、ワンコとこの二人だけじゃない。周りの人たちも全く動かない。ドッキリかな?


 自分だけが動ける世界に閉じ込められた古古伊は、戸惑いつつも思考を止める事は無かった。

そんな古古伊を強烈な恐怖が襲った。首筋にナイフを当てられるような、背に銃を突きつけられるような、そういう死を直感させる激しく絶大な恐怖に飲み込まれた。


 人生で味わったことの無い強い刺激に、思わず悲鳴を上げそうになるも、なんとか飲み込み恐る恐る振り返るとそこには、二メートルはありそうな大柄な男が立って居た。


 「お前は....なんだ」


 男はとても驚いた様で、古古伊に対し目を丸くし問いかけた。


 「そっちこそ!」


 なんなんだよ!この人は。頭に角?みたいなのが生えてるし何よりもデカいし!もぉ~~~なんでこんなことになるんだよぉ~!


 「質問を変えよう。お前はなぜ動ける」

 「なぜって....知らないよ!」


 知らない....か。恐らく花思(セラフ)だろうな。しかし、止まった時の中を動けるとはな。どの類の力か気にはなる。

仮に、”花思を無効にする力”だとすれば世界が変わる。この星に巣食う癌を始末できる。何であれこの男の力は調べておく必要があるな。


 「悪いが....」


 男が古古伊に向かい手を伸ばすと、古古伊は二人の前に両手を広げて立ちふさがった。


 「ダメだ!それはさせない....っ!」


 なんだ?まさか俺からその二人を守っているのか。面白い。

震えた腕で何ができる。この悪鬼を退けられるか。青い顔は汗に濡れ、痩せた足は今にも倒れそうではないか。打ち勝つことが不可能など言うまでもない。

だが、その心意気は素晴らしい。力だけではない、この青年自体に興味が湧いてきた。


 「そうか。守って見せろ」


 男はソっと握った拳を前に出した。手の中の物を見せる様にゆっくりと手を開く。

直後、古古伊の弱弱しい構えに何かが衝突した。


 「あぐっ」


 吹き飛ばされた古古伊は固まる一葉にぶつかった。

一葉が倒れる前に、肩と尻に手を差し込み地面との激突を防いだ。


 痛っっっ!なんだよ今の....腕が折れそうだ。なんだ?殴られた?違う。蹴られた?それも違う。

体当たりでも無い。でもあの車に轢かれたようなアノ衝撃は....僕は何をされたんだ。


 一葉をそっと寝かすと再び立ち上がるが、起きざまにまた同じ攻撃を受ける。

二度目ということもあり、そこまで大きく吹き飛ばされはしないものの、ガードが間に合わず顔面に直撃し、痛みと共に鼻から出血する事態に陥った。


 「うぐうっ」


 まただ。丸っきり同じ攻撃だと断言できる。アイツは動かずに攻撃してきた。どうやって?

それさえ分かれば....いや、僕は反撃できるほど強くないぞ!?ダメだ、冷静になれ。

僕はアイツを前に何が出来る。いや、この状況で出来ることを探した方が良いか。


 「立てるか?」


 髪をかき上げながら余裕をみせる男を見て古古伊は何かに気付いた。


 くっそ....ホントに不味い。というか、なんで髪を直してるんだ?その場から動いていないはずだ。

待てよ、僕の髪は?....あれっ!?オールバックみたいになってる!?


 通常であれば常に視界の中でうろうろしているはずの長い前髪が見当たらない。たったそれだけの違和感から古古伊はある答えを導き出した。


 どうして前髪が上に....?これは何をされた証拠だ?

物理攻撃とは違う。でも吹き飛ばされた。そしてヘアスタイルを乱された。....そうか!分かった!


 「アンタのその力”風”でしょ?」

 「ご名答。それで?どう立ち回る」


 知らないよ!どうすればいいんだよ。喧嘩なんてドラマや映画はおろか創作ですら見ないのに。おまけに体育の成績は2だぞ!?風を受けないためには詰めるしかないけど....

というか、攻撃ってどうやるんだ!?殴る?殴り方なんか習ってないけど!?どこを狙えば良いんだ?いや、こうなったらやるしかない。僕しか居ないんだ!


 駆け出した古古伊を前に、男は腕を組み動こうとしない。それどころか笑みを浮かべ、相も変わらず余裕を見せている。


 なーんで笑ってるのさ。こっちはこんなに余裕がないのに。

とにかく。身長的にも顔を狙うのは良くないな。もちろん届かない訳じゃない。ただ、背伸びとジャンプは同時に出来ないってだけ。


 ここは腹を狙おう。恐らくアイツは動かない。舐めているのか、誘っているのか。どちらにしても必ず一発は当たる。........うーー、でもやっぱり怖いな。


 「たあっっっっ!!」


 古古伊の拳は確かに男の腹筋を打った。しかしダメージを負ったのは男では無かった。


 硬ってぇ~~!手がビリビリする。なんなんだ。どうしろってんだ!


 男は、引き攣った顔で自身を見上げる古古伊に対し、軽いデコピンを放った。

先刻の風程とは言わないまでも、走り詰めた分だけ弾き飛ばされてしまった。額には血が滲みやがて流れ落ちてきた。


 痛ったッッッ!頭が割れそうだ。それに視界がチカチカする。にしても、なんでこの程度の出血で済んでるんだ。

デコピン一発でこれだもんな。分かってた。分かってたけど、改めて思い知らされた。アイツには勝てない。


 「そういえば、お前は一葉清音の何だ」

 「....?友達だけど」


 「フッ。恋人か何かかと思っていたが違ったか」

 「ななな、違うよっ!///そんなんじゃない!」


 「では、お前は”ただの”友達の為に死ねると言うのか」

 「ただのじゃない。こんな僕に。地味でつまらない僕なんかと友達になってくれた良い奴なんだ。好きとかじゃないけど、大切な人なんだ」


 「ほう」

 「死ねるかって聞いたよね。もちろん死にたくは無いけど、それで清音が助かるなら僕は死んだって良いと思ってる」


 「熱いな」


 友人を助けるためならば命は惜しくない。その心意気は態度でも示した。こいつは生かす価値がある。

このような場所で、このような人間と出会えるとは俺も運が良いものだ。

しかし、一葉清音に関係する人間である以上コイツもいずれ....安全な場に置いてやろう。


 その時、どこからともなく老人の様な声が聞こえてきた。


 「若、そろそろ」

 「そうか。分かった」


 男が人差し指を立てると、そこに渦巻くように風が集まり、やがて小さな塊のようなものが出来上がった。指を古古伊の腿に向けると、風の球を打ち出した。


 「イ゛ッ゛ッ゛ッ゛!」


 打ち出された球は、腿を貫通し地面に衝突すると消えてしまった。古古伊の腿には文字通りの風穴が開き、あまりの激痛に倒れこんでしまう。


 「よく頑張ったな。俺は鬼刹(きせつ)。お前たちに殺される者だ」


 鬼刹の言葉は先ほどまでとは違う、優しさや古古伊を思う気持ちが混じった優しい声をしていた。


 帰った....?もしかして勝ったのか?僕が?........マジか。

っていうか、最後のアレなんだよ!?散々ボコって、風穴開けて何がよく頑張っただよ。情緒どうなってるんだよ。


........あーークッソ。にしても痛いな。  


 追いかけようにも、痛みで立ち上がることが出来ず、その場で鬼刹の背を眺める事しかできなかった。

うつ伏せで倒れる古古伊のすぐ目元。地を歩く小さな蟻が映る。


 あっ....




 檎悟の目に映ったのは、重傷を負った古古伊となぜか横になっている一葉だった。


 「大丈夫か。何があった?」


 檎悟は古古伊に駆け寄るや、周囲の状況を素早く確認し、一葉に指示を送った。

動揺することなく、手際よく行動する様はまさに冷静沈着そのもの。


 「一葉君、花形を呼んでくれ。俺は救急と警察を呼ぶ」


 ここまで僅か三秒程度。一葉が自分が寝ている事に疑問を持ち、体を起こした直後に指示が飛んできた。

何事かと周囲に目をやると、そこには大量に血を流す友人の姿が。


 「ええええっ!?!?イヨリン!?」




 「あら?電話鳴ってますわよ」

 「んお、すずちゃんだ。はいはいどしたの」


 『助けて!!イヨリンが....とにかく早く!場所は....んーっと、位置情報送るから!』


 矢継ぎ早に伝えると、返事も聞かずに電話を切った。


 「....聞こえた?」

 「ええ。また何かに巻き込まれたご様子で」


 「行ってくるね」

 「ごゆっくり」




 周囲への警戒を強める檎悟、横たわる古古伊の頭を膝に乗せ介抱する一葉。周りには野次馬が集まり通報する者、カメラを向ける者。その中から一人こちらに駆け寄ってくる者がいた。花形咲だ。


 「おおっ!?どういう状況!?」

 「来たな。残念だが俺にも分からん」


 花形が合流したタイミングで救急車のサイレンが聞こえ始めた。

救急車が到着すると、付き添いとして檎悟が乗り込みそのまま病院へと向かった。


 「大丈夫かい?」

 「うん。大丈夫だけど....」


 「イヨリンさん?って子なら大丈夫。檎悟(おじさん)と一緒だから安全だよ」


 今にも泣きそうな一葉を慰めると、花形はスマホを取り出し、異神を呼び出した。


 「すずちゃん。蠢君を呼んだから来たら一緒にうちに帰って店を閉めて。いい?」

 「分かった」


 「うんうん。ミカ嬢と一緒に待っててね。あっ、人が来ても開けちゃダメだよ」

 「うん」


 程なくして現場に異神蠢が到着した。


 「オイ。咲。なぜ俺なんだ。うちに連れ帰るくらいお前がやれよ」

 「私はここに残ってやることがあんの。な?警護頼んだぜ」


 愚痴文句を垂れ流し続ける異神をなだめると花形は群衆の中に消えていった。

残された二人も事務所に向かい歩き始めた。




 ドンドンドンっと事務所の戸を叩く音が聞こえ、美華条が扉を開けると異神と一葉の二人が居た。


 「うわっ、出ましたわね」

 「あァ?うわってなんだようわって」


 「一体何がありましたの?」

 「知らねーよ。俺はただの警護だ」


 ほーーん。警護ですか。ソレが必要になるような事が起きたと考えるのが妥当でしょう。可能性は低いですが、ここも襲撃に会うということもゼロとは言えませんわね。ならば....


 「なんでもいい。俺は仕事をした。ここまでだ」

 「お待ちなさいよ。あなたの仕事はまだ終わってませんわよ」

 「は?」


 異神が引き受けた警護と言うのは、一葉を守る事であって一緒に帰ると言う意味では無い。花形が戻るまで一葉の身の安全を確保し続けないと、仕事を完了したとは言えない。というのが美華条の主張だった。

お互いの意見をぶつけ合った結果、異神を引き留める事に成功した。


 美華条は一葉の耳元で、


 「あの人と話すのは初めてでしょう?何か聞きたいことがあったら聞いても構いませんのよ?」

 「えっ何でも?」


 何かを期待しているのか、ニヤついた美華条がそう囁くと一葉は異神に近寄り質問をした。


 「ねぇねぇ、蠢さん」

 「なんだよ」


 「なんでコスプレしてるの?」

 「あっ」  「なに....?」


 けして和やかとは言えずとも、悪くはなかった空気が凍り付いた。

表情が曇る異神と笑いを堪える余り、バカみたいな表情になる美華条。


 少し青みを感じる白いミディアムヘアの上には、学生帽に似た帽子が乗っており、アレンジの効いた着崩した学生服とマント。大正浪漫と言えば聞こえは良いが、分からない者にとってはただのコスプレ。


 言いたい事が山ほどあるのか、口元がワナワナと踊り回っていたが、それも落ち着き静かに口を開いた。


 「ククク....いや、いい。構わない。面倒だ」

 「???」


 「なにい―」

 一葉の唇に人差し指を添えると、キッと睨みつけた。


 「お前のようなガキに理解の出来る世界ではない。故にこれ以上の言及も認めん」


蛇に睨まれたカエルを回収すると、小声でコソコソと話しかけた。


 「気にしない気にしない。ただの厨二激イタコスプレ野郎ですわ」

 「聞こえているぞ!クソゴミが!」

 「キャッ♪怒った❤怒った❤」


 「チッ。そこの雌豚はあとで殺すとして。清音、あの場で何があった」

 「あっ、それわたくしも気になりますわ」




 某県某所、鬼刹の前には高貴な装いの青年が一人。


 「――と云う訳で回収は断念した」

 「ナイス!ナイスだ鬼刹君っ!それは非常にナイスだッッ!」


 あまりのテンションの高さに言葉を失う鬼刹をよそに、ベラベラと話し続ける。


 「そうか!そんなナイスな青年を放っておくのは勿体ない!ナイスな青年はこの計画に加える!良いぞ良いぞ!ナイスな展開だッ!」

 「待て、余計なことをしたら綻びが生じ―」


 「鬼刹君!ナイスな働きをありがとう。帰って休むと良い」

 「....あぁ。そうさせてもらう」


 追い出される形で部屋を出ると、そこには背の曲がった小柄な老人が居た。


 「古古伊頼。齢十五、花思は無」

 「そうか。御苦労」


 老人は小さく頭を下げると、鬼刹に背を向け立ち去った。


 花思はナシか。その報告は想定外だ。止まった時間の中で俺とヤリあっておいて無能力だと?それはありえない。

ますます興味が湧いてきた。古古伊頼、お前の事がもっと知りたい。お前は一体何なんだ。




 翌日、花形と星見は事務所の屋上で話し込んでいた。


 「止まった時間の中で風を使う鬼とヤった....どーにもなぁ」

 「でもそれなら辻褄が合うっつーか、納得できるっつーか、要するに私は嘘だとは思わない」


 「なら余計にやるしかないんじゃないか?この前から悩んでたやつ」

 「ん、すずちゃんを鍛えるってやつなぁ....乗り気はしないけど、事情が事情だしなぁ」


 「本人が強くなるってのが一番じゃないか?」

 「ん~いやぁ~でもなぁ~~」


 「ふにゃふにゃすんなよ。で、問題の二人は?」

 「すずちゃんは古古伊君のお見舞い。帰ってきたら話してみるよ....」


 星見は花形のため息だけが聞こえる静かな屋上を後にした。

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