3 信仰の罪
あれから一週間が経った。まだまだ暑いお昼の十五時。花さんとは上手くやれている。こうして、花さんの前で横になってダラダラする事に、なんの抵抗も湧かないくらいに。
「そういやさ、学校って行ってんのかい?」
「え?行ってないよ」
「ふーん。じゃあさ、行きたいとは思はない?」
「えっ、いや........うーん」
これは困ったな。学校に行くなんて考えたこともない。別にいじめられたとかじゃ無いけど、小三から行ってないから、今更どんな顔して行けば良いのかが分からない。
「はははっ、困るかい、まぁ、どっちでも良いけどね~」
興味が無い訳じゃない、........というか制服着たことあったっけ。いや無いな。
......折角だし着てみようかな。押入れの中に放置するのも可哀そうだし。花さんビックリするかなぁ。
「ね、花さん。ちょっと出かけてくる」
「ん?どこに?いつ戻る?」
そう聞くと三十分くらい。と返ってきた。いや、引き留めるべきか?今出ればまだ間に合う....が、まあいいや。あの子を守っているのは私だけじゃねーしな。
つーか、学校について聞くのは不味かったな。気ぃ付けよ。
暑すぎる。日傘を差してるのに、全身を焼かれてるみたい。もう少し遅い時間にしたらよかったな。
溶けそうになっていた私の横に、車が一台停車すると、中から優しそうなお爺ちゃんが話しかけてきた。
「ちょっと良いかのう?ちぃと道を聞きたくて」
「良いですよ!どこ行きたいの?」
優しそうなお爺ちゃんだな。知ってる所なら教えてあげたいな。
「おお、ありがたい。では早速乗ってくれ」
「乗るって....?」
「ハハハっ、ええからええから。乗って案内してくれやな?」
いや、これは違う。道案内なんかじゃない。私の直感がそう言ってる。
車の内には、助手席と運転席にそれぞれ一人。後部座席に二人。その全員がお爺ちゃんだったのが、不思議というか気味が悪いというか。
とにかく中には入りたくなかった。のに、強い力で腕を掴まれた。それで、グイって
「ちょっと....ヤダ!痛い!離してよ!」
がんばって暴れてみたけど、全然ダメ。歳の割に力が強すぎる。しわしわでゴツゴツした手の感触が、とにかく気持ち悪くて。怖くて。涙が出てきた。そしたら
「ちょっと!!ちょーーーっと!!あなた方!一体何をしてますの!?」
向こうの方から大きな声が聞こえてきた。中に居て姿は見えないけど、良く通る大きな声で、なんだか分からないけど助かりそうって思えた。
「キャッ!ちょっと!何しますの!降ろしなさい!え、ちょちょちょっと、ホントに。あの子だけで良いはずですわ!ね?ナイショに」
近づいてくるはずなのに、声が小さくなっていく。さっきまで騒いでた人が、私の隣にポイ捨てされると、そのまま車が出発した。
この人は何をしに来たのだろう。
出発してから三十分くらいは経ったかな。なんかずっと喋ってる。この人。
「あなた方!わたくしをどうするおつもりですの!まさか!殺すなんて言い出しませんわよね!?」
縛られてるのに元気いっぱいみたいで、ちょっとおもしろい。でも、流石に爺達も我慢出来なかったみたいで、口にタオルを詰められてた。なぜか私にも。
それからどれくらい経ったかは分からない。だいたい一時間とか。それ以上かも。
車が止まって私たちは爺二人に担がれながら、車から降ろされた。そこは森みたい、というか森。視界の中には木しかなくて、脳の処理が追い付かなかった。
「こっからは車で行けん。歩け」
私たちは降ろされた。歩かないとダメらしい。縛ってた紐が解かれたけど、行きたくないし、逃げ出したい。
「はぁ!?なんですの!?なんなんですの!?どこに向かってるのかしりませんが、ここまで無理矢理連れてきたのなら、最後まで運ぶのが筋ってもんですわ!さぁ運びなさい!!」
爺達に食って掛かってたけど、うち一人が鉈を取り出したら黙っちゃった。
「フンっ。ちょうど体がなまってましたの。さ、いきますわよ」
私の手を掴んで、スタスタ歩き始めた。そこから少し話した。手をつないで、ひそひそと。
「あなた、災難が続きますわね。でも、安心なさい。あなたには、わたくしがついてますわ!」
「声抑えて、声」
「失礼。ではでは、早速あなたの質問にお答えいたしますわ」
「?してないけど....」
「ノン。あなたはこう思ったはず。『この優雅で!清楚で!瀟洒な!凛としたお嬢様はどこのどなたなんですの!?!?』と」
「声声」
「失礼。わたくし、美華条 美香と申しますわ。美華条様で構いませんわよ~♪」
気持ちよさそうな顔をしてる。なんなんだろう。
「えっと....私が知りたいのはミカさんの正体というか....」
「はぁん?正体?あなた、もっと具体的に物を言えですわ」
「うーんと、えーと、ん~~ミカさんはさ、なんなの?」
「なんなの、と聞かれましても。咲さんの協力者ですわ」
協力者なら安心できる。きっと、この人も強いんだろうな。
そんなこんなで、ミカさんと話しながら歩いてると、村が見えてきた。
初めて見るはずなのに、どこか既視感が。”村 画像”と検索すると出てきそうな、普通の外観をしていた。
「待て、こっちだ」
爺の鉈が指す方向には、道の無い森が広がっていた。
「はぁ?どうせあの小汚い集落にいくのでしょう?でしたらこのまま」
「行けと言ったら行かんか」
わしゃわしゃと葉を掻き分けながら進むこと数分。ボロボロの小屋の様なものが見えてきた。
近づくにつれ、小屋がより汚くなっていく。細かい汚れとか、ツタが伸びてたり。うえっ虫もいる。
「ここだ。入って待ってろ」
嫌だよ。とか言うと殺されちゃうから、素直に従っておく。戸は建付けがすごく悪くて開かなかったから、ミカさんに開けてもらった。
「なにこれ」
「座敷牢に使われとったモンを改造した。今では罪人を入れとる」
座敷牢。ミカさんが言うにはキツネツキ?を閉じ込めておく場所なんだって。
キツネツキってなんなんだろう。キツツキみたいにかわいいのかな。
「大人しくまってろ」
そう言われると、私たちは牢内に蹴飛ばされた。
「最悪ですわ、ほんっとに!畳も牢の木も腐って酷い臭いですし、灯はおろか、窓の一つも無い!なんなんですの!ホントにぃ!!」
キレ散らかすミカさんの横で、私は不安を感じていた。
「ミカさん....?なんとかできるんだよね?」
「はん?何のことですの?わたくしはなんとも出来ませんわよ?」
「えっ、でも花さんの協力者さんなんでしょ!?」
「いや、まぁ?それはそうですが、協力者の中には強くない人もいますのよ?」
そんなの聞いてた話と違う。
じゃあ私たちはどうなるのさ!
「でも!ちょっとは戦えるんでしょ!?お嬢様なんだし!」
「フフ、落ち着きなさいな。座敷牢に入ったからといって、基地外になる必要はありませんのよ?」
フフ。じゃないよ!なんでそんなに余裕なの!
「それに、お嬢様だから強い。というのは暴論が過ぎますわ。エミリーさんや、神月さんのような例外も居ますが、普通お嬢様というのは戦えない、優雅で可憐な生き物なんですの」
「誰?その人たち」
「わたくしのお嬢様仲間ですわ」
ミカさんと話してると落ち着いてきた。そして気づいた落ち着いてる場合じゃない。
けど、どうしようもない。何もできない。諦めるしかないのかも。
「ところであなた、持っている物全てお出しなさい」
「どうして?」
「脱出するためですわ!」
諦めてたのは私だけだったみたい。でも
「ごめん。攫われたときに落としちゃった」
「ノン、謝る必要はありませんわ。むしろそれで結構」
私を励ましてくれたミカさんは、太陽のような笑顔を浮かべていた。
けど、それで結構な訳が無い。と思ってたけど
「恐らくもう気づいてますわね、あの人なら」
「あの人?」
「咲さんですわ!」
美華条の予想通り、花形は既に一葉の捜索に乗り出していた。
三十分で帰ると言い残した一葉ちゃんが、戻らない。二時間も。ホントに不味い。夢と蠢を招集したは良いものの、一向に見つからない。
そんな折、私の携帯に、蠢から着信が入った。
「蠢!見つかったか!?」
「うわ、うっせぇ。当人じゃねえけど、あいつのバッグっぽいのが落ちてた。持ってくわ」
「いや、待て!動かすな!そっち行くから待ってて!」
もしそれが一葉ちゃんのなら、最悪の想定はした方がいいかもな。夢にも一報入れておこう。
「うわ、これ清音ちゃんのだ。間違いない。最悪だ」
「ハッ、完全に攫われたな」
「そっか、じゃ分担しよっか」
星見の提案に全員が賛同すると、三人は小型の通信機を身に着け、花形を残し散会した。
それはそれとして、ここはなんだ。何がある?
事務所から、ゆっくり歩いたとして十分そこいら。三十分で帰ってこれるなら、この辺りに目的地があるはず。
いや、あの子の目的と拉致は関係がないな。でも、気になる....
「夢お前は上からの捜索、蠢は聞き込み。私は防犯カメラを確認してみる」
「待て、咲。祈り屋にも協力を要請した方が良い」
「....ん?なして?」
「奴の居る汚染区は人が寄り付かん。罪人が逃げ込むには都合が良すぎる」
「そういうことか。連絡してみる」
蠢の提案も一理ある。あの区域は深刻な薬剤汚染の影響でゴーストタウンと化している。
それに、枯死動人が徘徊しているせいで、警察が近づけない。そんな状況が犯罪の巣窟化に拍車をかけている。
もし、そんなところに攫われたのだとしたら、犯人の意図しない死傷が発生しかねない。
早速電話を掛けると、千羽の面倒くさそうな声が聞こえた
「ンだよ....こんな時間に」
「人を探してる。そっちに居るかも」
「ハァ~~~~」
「仕事ってことで良い!礼なら何でもする!だから頼む!」
「あ~....ンじゃよ、アタシ近々ヤってなくてよ、溜まってんだ」
ハッ、構わないときたか。たかだか最近拾ったガキのために、体を売れるのか。アホだな。
だが、そこが良い。手は貸してやる。そのかわり、しっかり使わせてもらうがな。
「で、どんな風貌なんだよ」
「あぁ、えっとな、小さくてかわいい子だ!」
「あ?ふざけてんのか」
「あー、黒薄症っぽい細くて薄い子だよ!とにかく頼むな!」
特徴を伝え終えると通話を切り、自身の仕事に向かった。
一方牢内では、脱出計画を練ろうと意気込んでいた美華条だが、自身も携帯しか持っておらず、肝心の電波も圏外と、心が半分折れかけていた。
そんな時、扉が不快な音を立てて開き、部屋全体に松明の光が差し込む。
暗闇に慣れてしまっていた二人の目にはそれが、異様に明るく見え、複数人の人が入ってきた。という情報しか得られなかった。
しかし目が慣れ、視界が戻るとそこには、先ほどの爺達が、妙な畳まれた布を持っていた。
「着替えろ」
爺共が投げてきた物を広げてみると、ほぼ透明の浴衣....かな?和服みたいな物だった。
着ろったって、スケスケじゃんか。ミカさんは着替えた方が良いって言ってるし、そうするけど。
「ちょっと、あなた!なに見てますの!あっち見ろですわ!」
「ええから。はよせんか」
「だーかーらー!これは読者へのサービスであって、あなたへのサービスではありませんの!」
「チっ、やかましい....」
爺共が向こう見てる内に私たちはちゃっちゃと着替えた。
「ミカさん紐締めて」
「はいはい、ちょっとお待ちなさいな」
「なんか変な服だね。なにも着てないみたい」
「こんなの、何も着てないのと同じですわ」
着替え終えると、二人は牢から解放された。態度にも表情にも不満が滲んでいる美華条の前に、爺が立ちふさがる。
「なんですの?まだ何かご不満が?」
爺は美華条の襟元をそれぞれ両手で持つと、左右に引き、胸元を露出させた。
「ほわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?ちょ、な、なななにしますの!?おバカ!」
顔を真っ赤に染めしゃがみ込む。
「それじゃイカン、下着は脱げ」
「お黙りなさい!わたくしはともかく、この子はまだ十四歳なんですのよ!?訳も話さず無理強いとはあんまりじゃありませんの!?」
「そうか、訳を話さなんだ従うのか」
「........んん?いや、そうではなくて」
クソジジイ達は話し始めた。けど、私には何を言ってるかまるで分からなかった。
なので、ミカさんに翻訳を頼みました。
いいですか?ここ、落無村には守り神が居るそうです。その名を”オオロジサマ”と。サマが敬称なのか、名前なのかは定かではありませんわ。
大変温厚なようで、この村が三百年も無事なのは、全てソイツのおかげだそうな。
で す が、十年ほど前、生贄が欲しいと言い始めた。それも美しい子を一年に二人。
残念ながら、村にはもう生贄に出来るような子がいない。だから、わたくし達を攫った。
その御方が生贄をお求めになった時はそれはそれは驚いたそうな。
ですが、オオロジサマの御力で、何百年も守って頂いて来た以上!この松村正男!なんでもしますわ!
人攫いがなんですの!この村の村長として、家族を守る義務がありますの!と
「熱演だね」
「ちなみに、わたくし達はこの後儀式を経て、殺されるそうですわ」
爺の言葉を伝え終えると、美華条は自身の下着に手を掛ける
「わたくしながら、訳していて反吐が出ますわ。ですが、お約束?は守りますわ。こんな所に居るくらいなら、死んだ方がマシですもの」
美華条の冷鋭とした視線が爺に突き刺さる。
一方で、一葉は別の物に目を奪われていた。
....おぉ、これは。お胸は私と同じくらいだけど、お尻、太腿はむっちりしてる。
だけど、ちゃんと細くて引き締まってるんだから、ちょっと憧れちゃうな。
それに白くて、触りたくなるもちすべ肌。ぎゅってしたら、私の体にぴったりフィットしそう。
はっきり言ってえっちだ......
はんっ、いけませんわね。この子は。脂肪が全くありませんもの。憧れない細さですわ。
真っ平で薄っぺらい。『素敵ですわ!その体型を維持なさい!』なんて助言しようものなら、自殺教唆でしょっ引かれそうですわね。
えぇ、ですがムダ毛の無い、雪白のお肌に、綺麗な桃色の乳頭周りには、感じるものがありますわね。
というかこの子、黒目も髪も、灰色ですわね....噂に聞く”黒薄”とは案外気味が悪い物ですのね。
「はぁ、こうなると分かっていたら、ちゃんと毛の処理してきましたのに」
「来なかったのに。じゃないんだ」
「フフっ、それもありますわ」
松村は緊張感の無い二人を連れ小屋の外へ出ると、儀式について説明を始めた。
「ええか、今から....」
「と こ ろ で、オオロジというのは”アレ”のことですの?」
美華条の指す方へ、爺達が一斉に視線を向けるが、そこには何もない。
その隙を逃さず、二人は来た方向に走り出した。
「チッ!追うか!?松さん!?」
「......いや、いい」
「ほっほ~~!おバカですわ~!おたんこなすですわ~~~!」
ミカさん。そういう事は先に言ってよ。心の準備くらいしたかったけど、まぁナイスだよミカさん。
が、走り出したは良いものの、どんどん森が深くなってる気がする。というか、なってる。
私の頭に遭難の四文字がよぎった。
「清音さん、少しお待ちになって!」
「え、どうしたの?」
「車からあの村までの間に、小さな白い花が一つ咲いていたの覚えていらっしゃる?」
正直言うと、覚えていない。あんな状況で足元に咲いてる花なんて見る余裕は無い。けど
「覚えてるよ」
「わたくしは先ほど、その花を左側に見ましたの」
「....?それが?」
「ここに来るときも左側にありましたの。正規ルートであれば、右側にないといけませんのに!」
つまり、本来左に行く分かれ道を右に行った。ってことかな?
でもそれ以上に気になる事が、私にはある。
「....それも大変だけど、私ら今立ち止まってるよね....?」
「えぇ、ですが景色は動いてますわね。ゆっくりと」
「「...........」」
「先ほど指をさしたアレ、ただの陽動じゃありませんの」
「....というと」
「本当に見えましたの。妙ちくりんな光が二つ、恐らく瞳かと」
瞳かと。じゃないよ!なんっ、な......もう!!ちゃんと話してよ!
二人を乗せた”ソレ”は、急速に加速し、木々の間を縫うように縦横無尽に駆けまわる。
「それ早く行ってよ~~~~~~!!!!」
「ほわあぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!」
どうなっちゃうのかな。私たち。




