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三分の一

 まずは、事の顛末を伝えよう。


 この話は事件でも何でもない!


 部室の忘れ物をキャプテンが預かっていた、と言う……割と何処にでもある普通の話なのだ。それが事件に発展した理由は単純で、忘れ物が『男子の持ち物として相応しく無かった』から……。


 ただ、それだけの理由。


 それだけの理由で『事件でも何でもないことを事件にした』という事件なのだ!


 忘れ物()持ち主(発端)は、小椋圭太(おぐらけいた)

 二組のムードメーカーで、陸上部期待の投擲(とうてき)選手だ。


 小椋くんが練習熱心なことは部内でも周知の事実で、手のマメを潰した程度なら彼は平気で続ける。それはユニフォームとの摩擦で乳首から出血したとしても……何一つ変わらなかった。


 痛みに無頓着、お構いなし(ドM)に突き進む。


 しかし、軽度の損傷でも放置しておくと命取りになることがある。


 実際、小椋くんは傷口が化膿して炎症を引き起こしていた。夏の計測会を前に、症状は練習に支障をきたすほど酷くなり、吉田先生(顧問)に相談。医師の診断を仰いで、治療と練習を並行する条件としてスポーツブラの着用が処方されたのだ。


 競技スポーツの世界では通例(あるある)と言えど、悩める思春期少年にはキツイお仕置き。当然、それは公表されず、顧問と担任教師、キャプテンの三者で情報共有された。


 これで粗方の条件は整えられた。


 あとは、陸上部キャプテンの宮野大介が部室でそれを拾い、教室で捕縛されれば現在に至る。


 部室にスポーツブラが放置されていることに気付いた宮野くんは、それを自身のバッグに詰め込んだ。彼は誰にもバレないよう細心の注意を払って、奇跡的にそれを成し遂げた。


 理由はひとつ、変に騒がれて小椋くんの立場が危うくなるのを防ぐためだ。


 ただ、冷静になって振り返ると、自分が何の確証も持たず、それを隠匿したことに気付いた。不安に駆られた宮野くんは一人、放課後の教室へ向かった。こっそり確認している姿が、運悪く別の方向に作用してしまう。


 教室に入ってきた更科さんに目撃されてしまうのだ。


 斯くして、事件は発生するのだが、その因子は『らしい』とか『らしくない』といった先入観。この時点では、私と蒼井さんが薄っすらその可能性に気付き始めている。


 そして、それを導いているのが久利生楓だ。

 実は『じゃない方』じゃなかった、学級委員の久利生楓だ。


(悔しいので二回、言いました)


 彼は、スポーツブラ(物証)と私の(つたな)い状況説明だけで、おそらく答えに辿り着いた。

 例のフレーズを携え、まもなく現れるであろう厨二(岡垣)先生の登場を待たずに……。


(ホント、何者なんだよ。君は……)

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