四分の三
「蒼井さん、岡垣先生に連絡は?」
取り合えず、私から責任の所在を転嫁する必要があった。
(どう考えても、学生の私が手に負える話じゃない!)
「岩崎さんが今、呼びに行ってます。そろそろ戻って来ると思うんですけど……」
それを聞いて安心したのも束の間。私は大どんでん返しを喰らう。
否、私だけでなく、居合わせた全員が揃って耳を疑った。
教室に駆け込んできた委員長の第一声は、不意を突くレベルを超えていたのだ。
「岡垣先生、今、手が離せないから直ぐは無理って!」
「ハァ?」
その場に居たXX染色体保有者の声が揃った。
(手が離せない状況って何ですか? 誰かが屋上で今から飛び降りでもしそうなんですか?)
私は慌てて岩崎さんに駆け寄った。そんなことは当然で、改めて聞く必要もない質問を大っぴらにする躊躇いがそうさせた。
「状況は伝えてる、よね?」
そう呟いた私に、黙って頷く委員長。
そして、こう付け加えた。
「個人的な問題だろうから放っておいて大丈夫って……」
(いやいや、そんな訳ないでしょ! 個人的問題? 何すかソレ?)
「無いわ! さすがにそれは無い!」
いつしか私の副音声は、口を衝いて主音声と切り替わっていた。
「あと、冬月先生が来てたら言伝るようにって……」
「何?」
「月曜日からの授業に専念して下さいって……」
頭に来た!
「ちょっと、今にも岡垣先生呼んでみるし、みんなも待ってて!」
額に手を当てがいながら、怒りに震えて出鱈目な啖呵を噛んだ。
勇んで教室の扉を開いた私に、それは障壁となって現れた。
もう一人の学級委員と出会したのだ。
互いに譲り合う進路が重なり、結果として教室を出られない。
「久利生くん、そのまま! 冬月先生止めて!」
委員長の指示に『???』で答える少年。
当然だ、彼は何の経緯も知らない。
ただ、「早く!」と矢継ぎ早の声に、刹那で鳩尾にタックルを咬ます程、果敢だとは……。
(思いもしなかった)