憧れのスローライフ
「試してなかったな」
「サーチとか、消費が少ないものからにしましょうよ」
わからないから、メルリアの言う通り、サーチ魔法を使う。せっかくなら、役に立つものがいい。水、水源を探そう。
体の中心から、魔力を練る。魔力を手に移動させて、念じればするりと、魔法は発動して淡い光を枯れた大地の上で照らした。
「サーチは、大丈夫そうですね」
メルリアは安心したように、胸を撫で下ろす。俺は、違和感に首を傾げた。身体中が熱い。今までの魔力どころじゃないみたいな。
「魔力が、いつもより増えてるような……」
「えっ?」
「ちょっと水源掘るから、下がっててくれ」
今なら、なんでもできそうな気がする。身体は老いてるはずなのに。掘るなら、土の操作が良いだろうが、それよりももっと大きい魔法を使ってみたい。
ワクワクとする胸を止められず、創作魔法を発動する。ほとんど使用して来なかったが、俺の転生特典というものだ。あまり、使い勝手のいい魔法じゃなかったから、封印していた。魔力効率が著しく悪い。
シャベルを十個ほど想像して、作り出す。そして、勝手に掘ってくれるように念じれば、シャベルが地面に突き立てられた。
「な、んですかそれ」
驚いた顔のメルリアを放っておけば、どんどん深く地面が抉れていく。カンっと硬い音がしたかと思えば、ぷしゅうっと水が勢いよく吹き出した。
防ぐ暇もなく、俺とメルリアはびしゃびしゃに濡れていく。そこら中に撒き散らかされた水。硬い地面に吸収され、黒い色を落としている。
「あったかい……?」
「温泉、じゃないか!」
最高だ!
俺はなんて、ツイてるんだ。スローライフと言えば、入り放題の温泉! それが勝手に湧き出るなんて!
テンションが上がって、出て来た水源に走り寄ってしまった。思ったよりも軽い身体に、老化の呪いを疑いたくなる。全員があれだけ、神妙な顔をしていたからドッキリってことはないだろうけど。メルリアに至っては、介護するとついて来たくらいだし。
温泉に触れれば程よいあたたかさで、整えればそのまま浸かれるぞ、これ。本当にラッキーだな。
今なら俺、建物とかも創造魔法で建てれるんじゃ……いや、魔力が足りなくて、できなかったゴーレムすらできるんじゃないか?
しゃがみ込んで地面に触れれば、程よい硬さだ。作物を植えるには、カチカチだが、ゴーレムを作るには良いぞ。
念じれば、小さいゴーレムが三体ほどポコンッと産まれる。俺の方にビッと敬礼してから、湧き出てる温泉の周りに岩を積み始めた。温泉はゴーレムに任せるとして、生活用水をどうするか、だ。
もう一度、「生活に使える水」と指定してサーチを起動すれば、井戸の上で光がフラフラと揺れている。先ほどは、出て来なかったのに? 疑問に思いながらも、井戸を動かせば、ギイという音と共に、水が上がってくる。
温泉が沸いたことで、近くの止まっていた水脈が動き始めたんだろうか。まぁどっちだって良い。これで、掃除も、洗濯も始められる。メルリアに洗濯を頼もうと近づけば、目の前の温泉を見上げたままぽかんと固まっていた。
「メルリア?」
「ルパートさんって、一体……」
「どうした?」
俺の声にパッと顔を上げて、俺の肩を掴む。ブンブンと揺さぶりながら、メルリアはぱちぱちと瞬きを繰り返しながら問い詰めて来た。
「今までそんな素ぶりなかったですよね!?」
想像魔法や、ゴーレムだろうか。まぁ普通は、使えない。俺だってこの現状がわからない。だから、説明はできない。
「わからない」
「老化の呪いの影響ってことですか……? 意味わかんない」
「まぁ、いいじゃないか。水だって出るようになったし」
「あ、洗濯! しなきゃ!」
俺の肩からパッと手を離して、大きなタライに水を張り始める。俺も部屋の掃除でもしよう、と持ち運び用のバケツを広げて水を溜めた。適当なハギレはたくさん持って来たし、必要なものはあるだろう。
前世で使ってた、ホコリを絡めとるようなモップがあれば一番楽だけど……いや、創造魔法でわんちゃん、いけるんじゃ? ハギレを手に試しに想像してみれば、ポンポンのように布が裂かれたモップのようなものが出来上がった。
うん、そう、万能では、ないよな。
バケツとモップで最低限の掃除をすれば、あっという間に日が暮れていく。キッチンと各個室を掃除した、だけなのにだ。
庭で洗濯をしていたメルリアの方はと言えば、手際よく、ロープに布団を掛けていた。そよそよとした風が吹いてるのは、メルリアの魔法だろう。
「あ、魔法も使ったので乾きますよ!」
「ごはん、は、俺は考えてなかったんだが、メルリアは?」
「カマドに火をつけてもらえたら作りますよ! 数日分の野菜とお肉は、買って来てるので」
メルリアが居なければ、何も食べずに寝るところだった。頷いて、キッチンに戻る。ピカピカとまではいかないものの、キレイになったと思う。
「キレイになりましたね!」
「お、おう」
素直に褒められて、少しこそばゆい。つい目線を逸らしてしまえば、メルリアはカバンから取り出した野菜を切り始める。
「火をつける時、呼んでくれ。代わりに布団乾かしてくる」
「ルパートさんのその全部できちゃうの、普通じゃないですからね」
メルリアの言葉に、ははっと渇いた笑い声だけが出た。普通の人はどれか一つの属性を極めるので、精一杯らしい。まぁ、これも転生者特典というものだろう。
メルリアだって回復魔法と風魔法を使えるじゃないかと、言いたくなったけど。メルリアは、本来こんなところにいるべき人間じゃないから当たり前だ。
同じパーティーにいる時から、優秀で、いろんなパーティーからも、神殿からも、診療所からも引き抜きの声が掛かっていた。
庭に戻って布団に風を当てる。少しずつ傾いていく陽に、充実感を感じた。まだ、初日だが、スローライフって感じだ。老化の呪いも、思ったよりもしんどくないし。最高な日だな、呪いに掛かってる俺が言うことじゃないかもしれないが。
「ギャアオオオオ」
とモンスターの声が響いてること以外は、完璧な一日だ。あまり聞き覚えのない声だが、夜に近づいてるから鳴いてるんだろうか。
暮れていく陽を眺めていれば、時間が経っていたらしい。布団は完璧に乾き切っているし、メルリアが火のお願いをしに来ていた。カマドに火を灯してから、布団を全て二階に運ぶ。太陽の匂いがする布団に釣られそうになるが、メルリアの作ってくれたご飯が先だ。それに、温泉にも浸かりたい。
キッチンに戻れば、スープとサラダ。それとパンが用意されていた。二人で食卓について、食べ始める。
「スローライフって具体的にどうするんですか」
「まずは、野菜を育てようかと思う」
「じゃあ、種を買わないとですね」
「果樹とかの種もあれば良いんだがな」
呟けば、メルリアは「いいですね!」と目をキラキラと輝かせた。すぐには、食べられないぞ、果樹は何年も掛かるんだから。
それでも、期待してるメルリアには、何も言えずスープを口に運ぶ。久しぶりの人の手料理は、美味しかった。
* * *
食材の補充と、種を買いにメルリアと農村に来た。ありがちな、シーンにこんな田舎町で遭遇するとは思わなかったが。小柄な女の子が、冒険者に追いかけ回されていた。
そこにら俺が運よく登場し、ぶつかってしまったというわけだ。メルリアが疑い深そうにこっちを見てるが、俺からぶつかりに行ってないのは、見てたくせに。