7.意外性
葉一の働くBAR柳は【完全紹介制】
基本的にオーナーの柳会長からの紹介が無ければ、店内に立ち入る事すらできない。
外に漏れる心配がない機密性の高いBARでどのような話が繰り広げられるのか
会長が昔からの付き合いだというマジシャンを連れてきた。
そして秘書課の4名の女性。
要は日頃の秘書課への慰労のために、会長がマジシャンに出張を頼んで即席マジックバーができたというわけだ。
マジシャンの横に並んでカウンターの内側に立っている葉一も一緒に観るのだが、タネは全く分からない。
そんな中でもマジシャンはキレよく切り返す。
「すごい器用ですねぇ。」と言われれば
「恋は不器用なんですけどね。」とさらっと返す。
「ホントですかぁ?逆に上手そう。」と言われても
「いやぁ並んでるときに小指が触れ合っても『あ、ごめん』って言うくらい不器用ですよ。」
女性陣はうそだぁと言いながらもきゃあきゃあ盛り上がっている。
「え~どうやってるんですかぁ。」と言われれば
「めっちゃ頑張ってます。」とこれまたさらりと返す。
マジックよりもあまりの切り返しのスムーズさに驚嘆する葉一。
マジックに夢中に見入る女性陣に、少し休憩しましょうと飲み物をすすめるマジシャン。
熱が冷めず女性陣は会長を含めて盛り上がる。
涼しい顔で休憩をするマジシャンに葉一は尋ねてみた。
「まるで定型文のようなスムーズな切り返しですね。」
マジシャンはすました顔で「もちろん定型文ですよ。」と解説してくれた。
「不器用と答える時でも40代以上には『日本で2番目に不器用です。と答えます。」
ん?1番は?
「当然誰もが『1番は?』と聞きます。」
聞くね。確かに。
「それで『高倉健」と答えれば必ず反応があります。」
なるほど。相手に応じて分岐も用意しておくと。
ただコミュニケーションのやりとりではないような気もする。
「それって楽しいんですか?むしろルーチンワークみたいな気もするんですが。」
マジシャンは急に振り向き葉一の肩をガッシリとつかむ。
「そーなんだよ。まさにそこ。『意外性』がないんだよ。」
力説を始めるマジシャン。
薮から蛇を突き出すのが葉一の特技なのか。
そうであればバーテンの資質の一つと言えるのだが。
どうも『引き出す』より『踏んでしまう』感じは否めない。
「だから、『そーくるかぁ。」って想定の上を行かれるとドキドキするんだよ。」
と言われても今一つピンと来ない。
「例えば?」
うーんと天井を眺めつつ思い出したのか苦笑いを浮かべる。
「前に20代の男女のお客さんがいらしたんだ。で、女性のお客さんにカードを選んでもらう時に『では彼女さんここから1枚選んで下さい。』って言った時になんて言われたと思う?」
想定外とかあるの?それ。
「『彼女じゃありません!』って言われたんだよ。」
えー。そこ?
「とっさに返しが思い浮かばないし、一緒の男性は物悲しい顔してるしまさにカオス。」
だがマジシャンの顔は恍惚
「声がけの代名詞でと説明してもまた『では彼氏さん』って言ったら『彼氏じゃないです。』だよ。どれだけ認めたくないんだっての。」
「結局マジックは最後までやり遂げたけど、終始ドキドキしてたよ。」
でもねと葉一の目を直視する。
「すっげードキドキしたんだよ。分かるかな?次はどうくる?どうくる?ってドキドキ。驚かせる仕事なのにすっかりやられちゃった。」
この店には変なヤツしか来ないのか。
休憩を終えマジックに戻る後ろ姿を眺めつつ、自分にも変な性癖ついたらやだなぁと苦笑する葉一であった。
椿( ´・ω・)ノ どういう男女だったんでしょうね?
会長( ´Д`)y━・~~そりゃ男100女0って感じだろ。
マジシャン(*^▽^*)でも後日付き合いましたってまた2人で来ましたよ。
椿・会長( ̄▽ ̄;)「「マジか!」」
マジシャン(≧∇≦)どこまでも意外性ある2人でホント素晴らしい。
椿・会長( ̄▽ ̄;)「「・・・・」」