5.バイオハザード1
葉一の働くBAR柳は【完全紹介制】
基本的にオーナーの柳会長からの紹介が無ければ、店内に立ち入る事すらできない。
外に漏れる心配がない機密性の高いBARでどのような話が繰り広げられるのか
葉一が店外の扉を拭いていると、時城さんが腰をかがめた時城さんが身体を引きずるように出勤してきた。
明らかに元気がない。
「おはようございます。二日酔いですか?」
振り向いた顔に生気はない。
「いやそーゆーわけじゃないんだけど。」
鍵を開けつつつぶやく
「クチビルが……柔らかかったんだ。」
へ?
葉一はかろうじて
「話聞きますんで、手が空いたら寄って下さいね。」
と言うのが精一杯だった。
閉まりかけるドアから「ありがと。」と聞こえた気がした。
準備を終えた頃、椿がゾンビのように入ってきた。
「おつかれさまです。あからさまに元気ないですね。とりあえず何にしましょう。」
椿はカウンターに突っ伏して顔を横向ける。
「しらすー」
サントリーの白洲の事だ。
ジャパニーズモルトとして『響』や『山崎』と同様に根強い人気もあるが、人気が出過ぎて最近は品薄になっている。
「白州のハイボールでよろしいですね。」
「んー。」
さてどうしたものか。
「椿さんらしくないですね。いつもの元気はどうしたんですか?」」
「んー。」
めんどくせー。
椿さんはAB型だったな。
確かAB型のテンション低い時の対処法は「放置」だったよな。自己解決するからあまり構わない方がいいだったか。
うろ覚えの血液型性格診断に頼るしかなかった葉一だが、学会では既に否定されている事を葉一は知らない。
だがそれが効を奏したのか椿がボソボソと話し出した。
「さっきすぐそこのデパートに寄ってたの。」
やっとスタートしてくれた。
「急に冷えたのかお腹の調子が悪くなってお手洗いに行ったのね。」
ふむ。
「そしてトイレのシャワーを止めようとしたら止まらないの。何度ボタン押しても。」
「センサーを身体で遮ってたんですか?」
葉一が薮をつついて蛇を出す。
「このスレンダーなボディのどこがセンサーを遮るとでも?」
結果、椿のマシンガントークが始まるのであった。
「もちろんそれも考えて身体を動かしたわよ。」
両手を頭上に伸ばしくねくねとする姿はまさに薮から出てきた蛇
「だけど止まらない。しかもリモコンの電池入れ直してボタン色々押してたら、勢いが最強になったまま他のボタンまで効かなくなったの」
それは…
「開発されそうな勢いでシャワーが突撃してくるのよ。ホント地獄。」
コメントが難しいですあねさん。
「主電源切ろうと探したけど便器の後ろだし、コードをいくら引っ張っても反応しない。」
「着座センサーとかあるんじゃないんですか?」
かろうじてコメントした葉一を椿が目だけでぎろりとにらむ。
「反応しなければ?」
それは…吹き出し続けるわけで…
「乙女の白ブラウスの背中に縦一文字に水の跡よ。斜めに立ったら袈裟掛け。恥ずかしすぎてムリ。」
笑っちゃダメだ笑っちゃダメだ。
「手でカバーするのもふいてないからヤダし、トイレットペーパーでカバーしてペーパーが水圧で散らばってもヤダ。」
「だんだん水温が下がってきておしりはジンジンしびれてくるしもう泣きそうよ。私は一生ここでおしり洗われるのかしら。そう思った時に。」
「さらに掃除の人がやってきたの。」
「ボタン連打したり他の手を探してる間もしゃわしゃわしゃわしゃわと響く水の音。」
「そしてついに。」
もしかして
「ドアがノックされたの。」
でしょうね。
「もうヤケよ。背中に袈裟斬りの武士女とでもヒップウォッシャーとでも何とでも呼べばいいわ!とリモコンをガンって叩いて立ち上がったら。」
「なぜか止まってるのよ。もう何かバカにされてるみたいで腹立って。」
「おしりはしびれて歩きにくいし掃除のおばさんには変な目で見られるしもう最悪。」
しなしなとしおれるように崩れながら言う。
「そーゆーわけでこの怒りを誰かに受け止めて欲しくてここに来たわけ。」
バーテンには守秘義務がある。抱えていられない辛さを分け合うのも仕事のうちだ。
そうして心を軽くされたお客様をお見送りする。これダンディ。
「それは辛かったですね。デパートには伝えておいたのですか?」
「葉一君。」
「はい?」
「仲間は多い方がいいと思わないかい?」
最低だ。この女。
匿名で電話入れておいた方がいいと思いつつ
さてどう言えば良いのかと悩む葉一であった。
会長( ´・ω・)ノ で?
葉一( ̄▽ ̄;)オネェっぽい声で女子便所ボタン効かないわぁ〜って言っときました
椿( ´Д`)y━・~~ ちっ
Σ( ̄。 ̄ノ)ノ会長
Σ( ̄。 ̄ノ)ノ葉一