2.弊害
葉一の働くBAR柳は【完全紹介制】
基本的にオーナーの柳会長からの紹介が無ければ、店内に立ち入る事すらできない。
外に漏れる心配がない機密性の高いBARでどのような話が繰り広げられるのか
いくら夕方からの勤務とはいえ夏は暑い。
店外の掃除を終えた葉一は、汗をぬぐいながら店内に入る。
カウンターを拭き終えグラスを磨いて居るとようやく汗もおさまってきた。
バーテンが汗だくとかカッコ悪い。
ようやく落ち着き、生ビールでも飲もうかと考えているとふらりと会長が入ってきた。
「会長。おつかれさまです。」
「ちょうど前を通りかかったから寄ったんだよ。しかし暑いなぁ。生ビールを。」
「かしこまりました。」
生ビールのサーバーはもちろん毎日掃除している。
特に放置すると味が落ちる部分であり丁寧さが要求される。
葉一もすすめられ2杯の生ビールが注がれる。
くわぁーと会長が叫ぶのを羨ましく思いながら、それでも喉越しの良さを充分に堪能する。
一息ついたところで会長が笑いながら話し出す。
「この間の伊藤は面白かっただろ。」
「ああ新幹線の人。」
「男はいつまでもバカって見本だな。あいつのおかげで運転は禁止されるし後ろに乗っててもウインドウロックされててな。」
軽く首を振る会長
「えらい迷惑だよ。」
手を出す前提だなそれ。
バーテンは軽く笑って何も言わない。
これダンディ。
しかし好奇心も止められない。
「会長の車B◯Wですよね。」
「そう。メーターも260キロまである。」
現実的に考えて運転手がそんなスピード出す訳ない。
「地位が上がると弊害も多いな。」
会長はうなだれる。
「それでも高級車ですし、のりこごちは良いんですから。」
会長は顔を上げ答える。
「高級車ならではの問題もあるんだよ。」
葉一には思いつかない。何が問題なのか?
そんな葉一に会長は声のトーンを落として語る。
「では暑い中に涼しくなる話をしてやろう。」
残りのビールを一気にあおり2杯目を受け取った会長は話し始めた。
「俺は元々車好きでな。毎回納車されると何回か自分1人でドライブを楽しむんだ。」
会長は以前BM◯760LIが納車された時に夜中の高速をドライブしていたそうだ。
「良い車だから赤外線センサーがついてるんだ。」
街路樹の陰に人が隠れていても人のマークが表示され事前に危険告知をしてもらえるシステム。
むしろ良いのでは?
「夜中の高速そして山の中、そんな時に人型のセンサーが表示される。」
「鹿とかに反応したんじゃないんですか?」
葉一は軽く首をかしげる。
「俺もそう思った。」
会長の表情は至極まじめだ。
「そんなある日なんと。」
「なんと?」
「鹿のマークが表示されたんだ。」
・・・・え?こわ
会長は笑う。
「じわじわくるだろ。」
「すぐディーラー行ってこのムダ装備何とかならんかと相談したわ。」
「どうにかできるんですか?」
「どうにもならんだと。仕方ないからイノシシにでも反応したと思うことにした。」
「まさかイノシシマークも…。」
「確認してないしする気もない。仮にイノシシマーク出たら恐ろしくて運転できんわ。」
運転してて幽霊マークとか出たら最悪だなと葉一はゾッとした。
会長は笑いながら席を立つ。
「じんわり涼しくなったろ?高級車にもそれなりの弊害があるって事だ。ではな。」
会長を送った後店内に戻る。
早く誰か来ないかなと珍しくそわそわする葉一であった。
会長( ´・ω・)ノ 実話だぞ。
椿( ̄▽ ̄;)まさか幽霊マークとかイノシシマークとか…
会長( ´Д`)y━・~~世の中には知らない方がいい事もあるのだよ
椿( ̄▽ ̄;)何とかして下さい。そのシステム