06. 金貨の重み
金貨100枚入りの袋はずっしりとしていた。抱えて質屋を出るとルートは急に落ち着かなくなった。
2つある袋のうち、一つをエレーナへと差し出した。店主に頼んで半分ずつにわけてもらったのだ。
しかしエレーナは、
「……私はいいのよ! 気にしないで」
そういって、袋を返してきた。
「どうして?」
彼の問いかけに力なく首を横に振った。
「ケシゴムを作ったのもオリハルコンを作ったのも、きっとルゥ、あなたよ。もともと特別な力があって覚醒したんだと思う」
「そんなの試してみないと分からない、ほら今消しゴムを渡すから――」
「やめて!」
はっきりとした拒絶だった。
ルゥは手を止めて、開いていた手のひらを反射的に握った。
エレーナは「あ…」といい、「ごめんなさい」とつぶやいた。
「あなたの気持ちは嬉しいけど、でも、私わかったの。
私は能力を持ってはいけない」
「能力をもってはいけない、って…どういうこと?」
問われた彼女はしまった、と焦りを浮かべた。
「今のは忘れて。……あなたは、せっかく生まれ変わったんじゃない。素晴らしい力だわ。オリハルコンがあれば望むままの生活が手に入る。
広い土地に屋敷を建てて、爵位を買って貴族の綺麗な人を娶ることも夢じゃない。冒険者にだっていい人はたくさんいる…」
その目線がどんどん落ちて行く。
「ごめんね変な話。……それにしても、ルゥに会えてよかった! こんなに楽しく話せたのいつぶりだろう。……じゃあね、またどこかで」
そのままエレナは足早に去って行ってしまった。
理解が追い付かないまま、ルートは路上で立ち尽くしていた。
手元にのこった金貨100枚の重みを改めて確かめる。
生活を立て直すには十分すぎる額だろう。
だが歩けばジャラジャラを音が鳴る。
去っていく彼女がどこへ行くか見届けるには邪魔だった。
路上を見ればあの物乞いの老人が、まだ両手を皿にして誰もいない正面へと突き出していた。
「おじいさん、これ!」
その手に金貨袋を乗せると、重みに耐えきれず老人は体勢を崩した。
「うわっ! な、なんじゃ……!?」
「あげるよ。おいしいものでも食べて!」
物乞いがようやく袋の中身が金貨だと気付いたころには、ルートは道から姿を消していた。
【ルート 資産】
金貨 0
内訳【道端の老人にあげる -100】
銀貨 0
銅貨 0