33.オリハルコンVSオリハルコン
ヴァルダルが叫ぶ。
「っざけんじゃねえ!」
目は血走り、その手はオリハルコンが3%も含まれた剣を握っている。
「俺が負けるわけがねえ! セブンペガサスが負けるはずがねえ! どいつもこいつもハズレだ! 俺のセブンペガサスは最強じゃなけりゃならねえ!」
そんな彼を尻目に、ローザはルートの方へ駆け寄ってくる。
そして隣に立つと、「私があなたに何かを頼む権利がないことは、分かっています」
でも、と強く続ける。
「あいつを倒してほしいの。もう二度と勇者なんて名乗れないくらい、完膚なきまでに」
ルートは彼女を一瞥して、「言われなくてもわかってる」
とっさにローザは視線を外して、肩を落とす。
でも、とルートが真似た口調で続けると、彼女は再び彼を見た。
「君の頼みだ。念入りにボコボコにするよ」
「調子に乗るんじゃねえええええ!!」
ヴァルダルが疾走する。
剣を大きく掲げ、一転集中、この一撃で勝負を決めるという意思をこめて。
勇者のすさまじいスピードに反応できるはずがないことは、ルートが一番よくわかっていた。
だから彼は両手を目の前で交差させて、来る衝撃に備えた――。
「それにしても遅いですねえ。ぼす、大丈夫でしょうか……?」
双眼鏡でセブンペガサスの屋敷を眺めながらシェリーはこぼした。
それを隣で聴いたエレーナが双眼鏡を降ろしてぎょっと目を見開く。
「ちょっと……! あなたがそんなことを言い出したら私まで不安になるじゃないですか……! 絶対の自信があるんですよね、あの鎧に!」
「ありますよぉ、ありますけど、予期せぬ事態が起きないと良いな~って」
「予期せぬ事態って?」
しばらく押し黙ったシェリーだったが、やがて観念したようにため息を吐くと、ようやく話し始めた。
「……実験段階で分かったことなんです。オリハルコン同士が一定以上の速度あるいは力で衝突した際、衝撃派が生まれるんです。そしてその衝撃波は『オリハルコンの質量が少ない方へ一方的に流れ込む』」
「衝撃波を食らった方には何が起きるんです?」
「粉末以上人間以下って感じですかねぇ……」
エレーナは正面を再び見た。それから双眼鏡をのぞいて、「グロイな」とひきつった声でつぶやいた。
ヴァルダルのオリハル剣が、ルートが眼前で交差させたオリハルコンの腕に、衝突した。
瞬間、食堂を、夜空の星が落ちてきたかのように青白い輝きが包んだ。
同時に、紐同士がこすれ合うような、シュルシュルとした無数の音が鳴る。
何の音だろう、とルートが眼を開けたとき――正面にいたヴァルダルが木っ端みじんにはじけ飛んだ。
爪先ほどの肉片が蚊の大群のように蠢き、部屋の奥の壁に吹き飛んでは張り付いた。
勇者ヴァルダルの、あまりにも英雄らしからぬ、みじめな最期だった。
「わあ……」と感嘆するローザ。「強靭な勇者の体、それをあんないともあっさりと……すごいわね、ルート。あなたの力は――」
と、彼女がルートの方をみると、彼は盛大に兜と首の隙間から嘔吐していた。
「おええええええ、ぐ、グロっ、おええ、うっ、げええ……」
「きゃっ、漏れてる漏れてる! はやく兜を脱いでください!」




