30.暴力買収
その夜、『セブン・ペガサス』のアジト1階にある食堂では宴が行われていた。
巨大かつ長大なテーブルに肉や魚がメインの料理、水、ケーキが並べられている。
ヴァルダルと、その膝の上で抱きかかえられるローザは端に座り、その他のメンバーは脇の席を埋めていた。
魔術師のクアント、戦士のアンガス、武闘家のサンシロウ、アサシンのクレイ、ビショップのクラウディア。
いずれもA級、あるいはS級の力を持つ国内屈指の冒険者たちだ。
「どうして酒がないんだ!」戦士アンガスが隆々とした前腕を机に乗せた。「水なんかで宴と呼べるか!」
「落ち着きなさいアンガス。以前にも話したでしょう」草色のまっすぐとした長髪を持つクラウディアが呆れを交えて言った。「明日は早朝からダンジョン攻略でしょう。二日酔いになられたら困るのは他でもない、酔い覚ましの魔法をかける私です。けれどあなたのアホ面を見ているとイライラするので、うっかり心臓を馬糞に変える魔法を使ってしまうかもしれませんが」
「けっ、くだらねえ」と吐き捨てつつもアンガスは手をテーブルから下げ、背もたれに寄り掛かった。「無性に誰かをぶん殴りたい気分だ。今日は筋肉が運動してねえ」
「フン」アサシンのクレイが鼻で笑った。食事の席にも関わらず黒ずくめの、闇に紛れる布に身を包んでおり、その素顔も見せていない。「今朝は一人でたくさん運動してたみたいだがな」
「なっ! おいクレイ、なぜそれを知ってる! さてはアサシンのスキルを使って聞き耳を立てやがったな!」
「スキルなんて使うまでもない。あんな大声を出してりゃな。全員知ってる」
アンガスがぎょっとして見渡すと、全員が全員彼から目を逸らした。
「ほんっっと」クラウディアが言った。「心臓止まればいいのに。下半身を綿毛にする魔法をかけてあげましょうか? 触ると気持ちよくなれますよ。ふわふわだから」
「そっちの気持ちよさなんかいらねえ!」
重々しいノックが、その時起こった。
メンバー全員が一斉に、驚きをもって玄関の方を見やる。
「おいおい、どうやってあの庭を潜り抜けてきやがった。串刺しか、溶けるか、千切りのいずれかになるはずだろ」とアンガス。
クレイが口元に頭巾を引き上げる。いつの間にかクナイがその手に握られていた。
「俺クラスの隠密、探知能力がなければ到底たどり着けはしないはず……。しかしそれほどの実力があるならなぜ戸を叩いた?」
「客人がいらっしゃる予定はありませんものね」とクラウディア。「リーダー、どうします?」
問われたヴァルダルは視線もあげずに肉を頬張りながら「始末しろ」
筋肉が立ち上がった。
「俺様が行く。殴る相手が欲しかったんだ」
玄関へと向かうべくアンガスが離席したのち、クレイは得物を懐に収めた。
「惜しいな。あれだけの罠を回避できるスキルがあるのに、相手がアンガスとはな。やつの筋力は王国随一。鋼鉄の剣を人差し指と親指だけで捻じ曲げちまう」
毒を吐いていたクラウディアもそれには同意した。
「あの筋肉ダルマがぺしゃんこにした獲物を見せびらかしに来ないといいですけど……」
爆発音がして、静寂が訪れた。
「もう終わったのか」とヴァルダル。「つまらん」
ずるずる、と何かを引きずる音が廊下から聴こえてくる。
「ほら」と呆れるクラウディア。「またぺしゃんこの死体を見ながら晩酌する気ですよあの男」
扉が開かれ、丸められた肉塊が放り込まれた。
肉塊は、両手足が逆方向に捻じ曲げられた――アンガスだった。
「なっ――」
「ちょっと、うそでしょ……!」
扉の近くにいたクレイ、クラウディアに続いて、ヴァルダル以外のメンバーは続々と席から飛び上がる。
食堂へ入ってきたのは――人型の何かだった。
それは全身をきらめく紺碧の装甲で覆い、逆三角形の重厚なシルエットだった。城壁のように厚みのある脚部と胸部、後背を備え、両拳の真横にはバズーカ砲顔負けの大口径の重心が伸びている。
『あ』と何かが喋った。『クラウディア、久しぶり! 元気してた?』
「っ! その間の抜けたマイペースな話し方……もしかしてルートちゃん?」
『そうそう。刺されたけど生き返ってね。で――今から『セブンペガサス』を吸収合併して、宝物庫にある硬貨を会社の所有にするってわけ』
【グルムバッハ夫妻 資産】
金貨 17586
内訳【ORIS開発費用 -500】
銀貨 2
銅貨 0




