26.セブン・ペガサスの裏
『セブン・ペガサス』。
大陸中に2万は存在するとされる冒険者パーティ。
その中でも上位である『総合S級ランク』に認定されている『セブン・ペガサス』のアジトは、王国首都の貴族街と市民街のはざまに建っている。
豪勢な屋敷とそれと取り巻く庭園、噴水……。
派手好きなヴァルダルと一部メンバーのおかげで、たとえ深夜であっても明かりが落とされることはない。
まさに不夜城と呼ぶに相応しい欲望の園だった。
ルートを刺したばかりのローザが屋敷の玄関をくぐると、あちこちに女物の衣服が脱ぎ捨てられていた。上着から下着まで、軽く十人分はあった。
ローザがため息をつくと、足取りもおぼつかずふらついたヴァルダルが現れた。
「やっと戻ったか。で? どうだった? 殺ったか?」
「……もちろんです、左胸をグサリ。柄の根本まであの男に差し込んであげました」
彼女が言い終わらないうちに勇者は腹を抱えて、体を愉快そうに前後に揺らした。
「カーカカカ! 素晴らしい、よくやった! ヒイ、クックック、涙が出てきた。こんなに愉快な夜はない! ルート、ルート、あの能無しめ。金貨数十万の契約だと? ふざけやがって。俺は無能が過大評価されるのが一番嫌いなんだ。腐ったトマトは隣のトマトも腐らせ、やがて箱の中のトマト全部を腐らせる。奴は腐ったトマトだったんだよ」
彼がこう酔うのは日常茶飯事だった。勇者の体は酒にも強い。明日の朝になれば二日酔いもなくケロっとしている。そのことをローザもよく知っていた。
「飲みすぎですよ、ヴァルダル」
瞬間、ギラリと殺気混じりの眼がローザに向けられた。
「――だぁあああありいぃぃん!」
ガシ、と顎を掴まれたローザは身動きがとれない。無理に動けば首が取れそうなほどだ。
「うぐっ……! かはっ……」
「二人で決めただろ? 俺のことは『ダーリン♡』と尊敬と愛情と母性と服従を込めて言うってな。さあ、言ってみろ? ん?」
「だ、ダーリン……」
「尊敬と愛情と母性が感じられんが……ふん、まあいい」
ヴァルダルはローザを軽く押して突き放した。
「いまだに思い出す、お前をモノにした夜のことを」
「やめてください……」
「お前はおれというものがありながらあんなちびで軟弱で……よりにもよって無能と繋がりやがった! 俺がお前を正しい道にもどしてやったんだ。王国の歌姫ローザ。それにふさわしい男。そう、『セブン・ペガサス』の勇者ヴァルダル……つまり俺様を用意してやった」
「あなたは……っ! 二人きり以外の時は私にトロフィーのように振舞わせて……。あなたの求める女を……演じさせた……っ。これ以上望むものなんてあるの? もう、いいでしょう」
なだめるように変化していった口調も、目ざといヴァルダルには通用しなかった。
背を向けて満足げに酒をあおっていたのをやめて、獰猛な目つきを再び恋人に向けた。
「……まさかお前、ルートに情けなんてかけていないだろうなあ?」
「情けなんて、そんなものがあったら左胸に深く刃物を突き立てられましょうか?」
その言葉をヴァルダルはしばらく反芻したのち、「そうかそうか」と満足そうに立ち去って行った。
見下げ果てた男、との言葉を口にしかけて、ローザは踏みとどまった。
勇者の優れた五感を甘く見たおかげで、今は髪で隠した頬の痣ができたのを思い出した。




