20.オリハルコン1%VS能力者
「機会を下さるのならすぐにでもお目にかけましょう」
急遽、城専属の能力持ちであるグアナンが呼び出された。元A級冒険者の中年男性で、長いローブ、きっちり揃えたひげが目立つ。事情をほとんど聞いていない彼は貴重な自由時間を邪魔されて不機嫌そうだった。
「叩き起こされたと思えば……新しい武器のテストですか。本当によろしいので? 戦場において能力持ちと一般兵の実力差は明らか。私の勝利が揺るぐはずもございませんが」
王から「構わん、やりなさい」と命が下ったので、ようやくグアナンは夫妻をまともに見据えた。すると彼は相手がだれか気づいたようだ。
「誰かと思えば『セブン・ペガサス』と『バンジョーナイブス』を追い出された奴らじゃないか? ははっ、やっぱりそうだ! おいおい、金に困って今度は詐欺商品でも売りつけようって腹か?」
謁見の間が少しざわついた。剣を、夫妻を見る目に疑念が宿った。
エレーナは頬を膨らませて、横目に能力持ちをにらんでいる。
「むー、あいつムカつくなあ」
「剣を貸して。代わりに僕が」
そう言ってルートが剣を取ろうとするが、彼女はその手から剣を遠ざけた。
「いいえ。ここは任せて」
ルートは左右をチラ、と見てからささやく。
「相手は能力持ちだ。最悪殺されてしまう。危険すぎるって」
「じゃあ訊くけどルゥは私よりもうまく剣を扱える?」
「……無理だ」
「なら、下がってて。大丈夫、みんなで作ったこの剣を信じてるから」
剣を再び抜いたエレーナはグアナンと対峙した。
国に仕える能力者は彼女を爪先から頭の先までジロジロとみた。
「あんた、エレーナだっけ? 見た目だけは一級品だなあ。この試合が終わったら俺の部屋に来いよ。い~い部屋もらってるんだ。朝までたっぷりもてなすぜ」
「おあいにく様。結婚してるの」
「ハハハ! 嘘だろおい、まさかそこの冴えないガキとかよ?! こりゃ傑作だ、負け犬同士慣れ合うとはよく聞く話だが、盛り合いまでするとはなあ! ……だが気にしないぜ、むしろ燃えた」
エレーナは近くで舌打ちが鳴るのを聞き逃さなかった。その方向にはルートがいる。彼の憤りが伝わってくる。口角が上がるのを抑えられなかった。
敵の両手に炎が灯った。球状の炎をお手玉のように投げては掴む手遊びを始める。彼の能力らしい。
「顔と下半身は燃やしたら萎えちまうからな……腕をすこーしだけ焦がしちゃおうっかな~」
ヒヒヒ、と気色の悪い独り言をつぶやく様子に、さすがの宰相と王も眉間にしわを寄せ、小声で言葉を交わした。
「相変わらず美人には目がない……。品もない。どうしてあのような者を城に置き続けねばならないのか」
「お気持ちお察しいたします。が、グアナンは素行さえよければS級冒険者にとっくになっていました。逸材です。あやつを置いておくだけでも各方面へのけん制になります」
「……若き肉の焦げる音のみを聴くことになりそうじゃの。残念じゃが」
それまで互いの間合いを計っていたエレーナとグアナンだったが、ついに大きな変化が起こる。先に動いたのはグアナンだった。
挨拶程度に火球を二つ飛ばす。空気を焦がしながら小さな太陽が突き進んでくるようだった。
だがエレーナはいずれも見切って、受け流すまでもなく身体能力で躱してみせた。
「僕だったら今ので死んでたな……」とルートは悪寒に体を震わせた。
一気にエレーナが攻勢を仕掛けた。敵に肉薄し、剣を脳天へと叩きこもうとしたのだ。
「甘いんだよぉ!」
だがグアナンは両手を突き出すと、手のひらから大きな火の奔流を生み出す。容易にエレーナの全身を包んでしまうほどの火力だ。
「っ、エレーナ!」
ルートが叫ぶ。
だがその場にいた全員が予想以上の光景を目撃した。
火が剣の刃に収束、そのまま吸い込まれていったのだ。エレーナの体を一切傷つけることなく。
「な……なんだこいつ!? 俺様の炎が、届かねえ……!?」
諦めきれずに男は炎を注ぎ続けるが、エレーナの歩みは止められなかった。
そして刃が目と鼻の先に迫り……止まった。
「ま参った! 参りました! 降参、降参するよ!」
すっかり腰が引けて折れ曲がり、両手を上げて絶叫する男。
それを合図として、謁見の間に拍手の波が広がっていく。
ルートは脇目も振らずに妻の元へ駆けた。




