02. 消しゴム生成スキル
転生してほぼ半月。
ジェットコースター並みの急降下だった。
目が覚めると、そこは草原だった。遠目に街が見えた。
街にたどり着き、能力者の存在を知った。冒険者という職業もあった。
胸が高鳴った。
死ぬ前後の記憶はなかったが、前世が良いものでなかったのははっきりと覚えている。
でもこの世界なら、きっと……
彼はふらふらと冒険者ギルドに向かった。
入り口のガラスにはこう張り紙がしてあった。
『冒険者求ム! 無料能力検査実施中! ランクに応じて装備支給アリ』
不思議と文字や言語はすんなりと頭に入ってきた。
迷うことなく検査に立候補した。
受付嬢が記入用紙を渡してきたが文字を書く自信はなく「読めません」とうそをついた。
だがそれで貧しい生まれなのだろうと納得した受付は、慣れた手つきで質問を投げながら代筆してくれた。
「んじゃ、あんた名前は?」
とっさに彼は「ルート」と返した。迷うそぶりを見せたら怪しまれると思ったのだ。
すぐに使い古された別室に案内され、水晶から放たれる光線を浴びて、検査は終わった。三十秒とかからなかった。
結果は、『S級』。
これは8段階ある能力階級のうち、最高に位置するものだった。
S級の能力者は『世界を変革する能力を持ち、伝説に名を残すであろう天賦の才の持ち主』、とされるらしい。
ギルド内は騒然となり、各方面に通達が走った。
ルートは打って変わって豪勢な待合室に通され、写真を撮られ、新聞社のインタビューに「喉が渇いた」と答え、間もなく出されたレモネードを一息で飲み干した。
直後、『セブン・ペガサス』という冒険者チームがやってきた。
リーダーである勇者ヴァルダルいわく、
「一日で二人もS級が生まれるとは! 一人目は『バンジョーナイブス』に先を越されたが、君はうちに来るべきだ。責任をもって、君を最高の冒険者にしてやる。力を貸してくれ」
あの言葉に当時、ルートはどれだけ胸を躍らせたか!
彼に先んじてもう一人S級が誕生しており、後塵を拝したのは少しだけ気に食わなかったが……
それでもギルド職員の
「『セブン・ペガサス』は王国民の憧れ。空前絶後のスーパー・グループだ」
との言葉に胸がときめいた。まるでヒーローチームにスカウトされた気分だった。
結果、加入を決めて、すぐにセブンペガサスの本拠地である屋敷へと連れていかれた。
そこで好きなものを好きなだけ飲み食いし、パーティー所有の屋敷の庭で能力を開眼させる練習を続けた。
そしてメンバーのローザと深い仲になった……
――までは良かったのだが。
昨晩、ついにルートの力がわかった。
『体液から消しゴムを生成するスキル』
これがすべてを狂わせたのだ。
そもそも鉛筆がなど発明されておらず、羽ペンが全盛の世界である。
一夜にしてルートは「期待の超大型新人」から「ごみを生み出す嘘つき」に転落してしまった。
今では後頭部を馬糞につっこんでいるありさまだ。