11. ギルド買収への第一歩
初夜が明けた朝、二人はホテルのレストランで朝食をとった。
転生まもないルートにとっては未だ物珍しいメニューばかりが並んでいるが、エレーナの方も奴隷生活が長かったこともあり、肉や魚をふんだんに使った料理に口元を緩ませていた。
「いよいよ本格的に動き出さなくっちゃね」
エレーナが肉を不器用にナイフで切りながら言った。
鎖骨のやや上で赤くなっている彼女の肌にルートは気が付くが、黙ってみていた。
「……ああ。僕を追い出した『セブン・ペガサス』、そしてエレーナを追い出した『バンジョーナイブス』が所属する王国最大手のギルド――『ブレイブ・ロア』を買収する」
結婚前に交わされた目的と約束を、いよいよ実行に移すときが来たのだ。
それは以下のようなものだった。
・ルートは世界最高の大富豪を目指す。
・エレーナは未だ奴隷でいるはずの妹セシルを探す。
・二人の目的達成を同時に推し進めるために各地を巡り、新たな事業の可能性を探る。
・そのためにはまず基盤となるキャッシュフロー、つまり経済的な拠点が欲しい。
4つ目の「経済的な拠点」として選ばれたのが何を隠そう、冒険者ギルドとして名実ともに栄華を極める『ブレイブ・ロア』だった。
「でも、本気なの? あれを買収するだなんて」
エレーナの懸念は正しかった。この王国内において『ブレイブ・ロア』は買収する対象ではなく、むしろ買収されて傘下に収まる対象だったからだ。
なぜなら「ブレイブ・ロア」はルート、エレーナが所属していた『セブン・ペガサス』、『バンジョーナイブス』を筆頭とするS級パーティと専属契約を結んでいる。
彼らの実力は国外にも広く知られており、抱えている問題を解決するためなら大枚も惜しまないという王侯貴族は後を絶たない。
結果、超難関かつ超高額の札をひっさげた依頼が、『ブレイブ・ロア』一点に流れこんでくる構図が出来上がってしまっている。
ギルドはその仲介手数料で莫大な利益を上げているのだ。
年間金貨5万枚相当と言われるやり取りがあり、うちギルドの利益は5千枚ほどと言われている。
これはルートの前世の世界に換算すると、10億円に匹敵していた。
「ああ。むしろあの程度の場所を所有できないなら駄目なんだ。この国は確かに栄えてはいるけれど、遠くにはもっともっと経済的に発展した国々がある。そんなところへ売って出ていこうというんだから……これくらい、とっとと買ってしまおう」
「人口80万、毎日300もの依頼が来るとされている最大級のギルドをそんな風に言うんだから……うちの夫は大物か、空っぽかのどっちかね」
まだ肉を切れずにいるエレーナからナイフとフォークを預かり、ルートが切り分けてやった。
ありがと、と恥ずかしそうに彼女がいった。
「もちろん相手がどんな存在かはわかってるよ」
そう言うとルートはエレーナの背後へと目を向けて、誰かを呼ぶように手を挙げた。
するとまもなくレストランに入ってきたボーイがルートのそばへ駆け寄ってきた。
「この度はご結婚おめでとうございます、グルムバッハ様」
ルートとエレーナはともに苗字を持っていなかった。
ルートは転生して草原におり、エレーナは生まれたときから奴隷の身に慣れていたからだ。
だが事業をやっていくには家名も必要である。
結婚を機に二人は役所に届け、王国内では珍しい苗字を付けたのだった。
ボーイから手紙を受け取り礼を言うと、ルートはそれを開封していく。
「それは?」
「『ブレイブ・ロア』の買収額の試算が書いてある。式の前に情報屋を雇ってたんだ。銀貨4枚で」
「抜け目ない、と言いたいけど銀貨4枚ですって? 半年はご飯に困らないわよ……」
頬を膨らませるエレーナを尻目に手紙を開いたルートは神妙な面持ちで文面を見つめる。
「ルゥ? どうしたのよ変な顔して」
「買収額が分かった」
彼から受け取った手紙に目を通した新妻は叫んだ。
「きっ、金貨2万枚!?!!???」
「40億円くらいか……」
叫ぶ妻とは対照的に夫は静かに呟いた。
【グルムバッハ夫妻 資産】
金貨 86
内訳【情報屋 ー2、ホテル長期滞在前払い -10】
銀貨 0
内訳【レストラン ー3】
銅貨 0




