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010 手術

 手術前夜、初めての病室での就寝。消灯時間は二十二時。だけど全く眠れない。慣れない場所だと寝られない性格。それにやっぱり、次の日の手術に緊張していたのもあったかもしれない。

 やっとウトウトしだしたかなって思ったら、隣の患者さんところに看護師さんがやってきて点滴を交換している。

 寝たかなと思ったら、目が覚めてまだ一時間しか経っていなかったりその日はほとんど眠れなかった。


 翌朝、明るくなって目が覚めると六時くらいだった。一度起きてトイレに向かう。私が入院していた部屋からトイレが結構遠くて、それだけが唯一不便だったなーと感じた。


 病室の明かりも付き、みんなも起きたのかなとカーテン越しに感じとる。手術は、午後の一番目と言うことでまだまだ時間は十分あった。

 食べ物は、日付が変わる0時からNG。飲み物も、朝8時からNGになった。理由としては、麻酔が効きづらくなってしまうからって説明された。


 なので、朝御飯も食べられないので手術時間まで何もすることがない私。ベッドでボケーっとしていたら、夜眠れなかったからか気づいたら少しだけ寝ていた。

 八時になり日勤の看護師さんに変わり、点滴用の注射針を刺しますねと言われる。その前に、手術着に着替えちゃって下さいと専用の服を渡された。服の中は、下着はパンツだけで上は何も着ないでねと言われる。


 言われた通り、私は手術着に着替えた。だいぶ寒くはなっていたけれど、病院内は物凄く暖かかったので手術着だけでも大丈夫だった。


 その日の看護師さんは、私と同じくらいの年代の女性でおおらかで懐が広そうな印象。これまた、気兼ねなく何でも言ってしまえるオーラを放っていた。

 今更だけど、私物凄く人見知りなのであまり人にお願いとかできないタイプ。して欲しいことがあっても、どうしてもじゃなければ飲み込んじゃう。

 でも、昨日の日勤の看護師さんも今日の看護師さんも凄く話しやすい方で感動した。


 看護師さんは、「注射の準備してきまーす」と言って一度いなくなったので私は黙って待っていた。しばらくすると、登場した眼鏡をかけた三十代くらいの男性の看護師さん。


「こんにちは。〇〇です。点滴用の注射、打たせてもらいますね」


 私は、右腕を出しながらもあれ? さっきの看護師さんじゃないのかと思う。


「難易度が高い患者さんだと、僕呼ばれるんですよー」


 眼鏡くんは、にこにこしながら私の腕を見る。この人、注射上手なのかな? って私はしげしげと観察してしまった。


「うーん。これはなかなか難しいですね……。全く見えない……」


 眼鏡くんは、私の腕を見ながらぶつくさと色々とつぶやいている。点滴の針打つのなんて、いつぶりか覚えていない私。

 初めてってことはないと思うけど、こんなに難易度高いってはっきり言われたことなどない。昨日から薄々感じてはいるが、ここの看護師さんたちはアットホームだ。面白いから全然Okだけど。


「すみません。ちょっと左手も見せてもらっていいですか?」


 私のベッドの位置は窓際だから、左側は壁でベッドを動かさないと人が入って来られない。だからまずは眼鏡くんが、ベッドを動かしてくれた。そして左腕も同じように見てくれる。


「うーん。これは本当に難しい……」


 また言っている……。本当に大丈夫なのか心配になってくる私。


「わかりました。やはり右でいきましょう」


 眼鏡くんは、どうやら決めたらしくベッドを動かした分は元に戻して注射器の準備を始めた。


 するとそこへ、今日の手術を担当してくれる耳鼻咽喉科の先生が二名現れる。


「朝日さん、今日の手術を担当する〇〇です。何か変わったこととかないかな?」


 私は、今まさに注射を打たれようとしていて横になってる状態で先生が上から聞いてくる。何で今なのー? って思いつつ「特にないです大丈夫です」って返事をする私。


「良かった。では、しっかり手術していきますのでよろしくお願いします」


 いつも外来で診てくれていた、物腰柔らかな先生だった。今日もにこにこして、緊張感を和らげてくれた。もう一人は、若い先生でこちらの先生も丁寧に挨拶してくれた。

 ここの先生は、みな優しそうで親しみがもてる人が多い。当たり前だけど、ちゃんと目を合わせて話をしてくれる。だからザ・人見知りな私でも結構ちゃんと質問したりできるからありがたい。二人の先生は、サッと挨拶だけして颯爽と去っていく。


 すると、眼鏡くんがさっきの続きを始める。


「では、グーパーグーパーしてー」


 私は、手を握ったり開いたりする。先生が来るまでは、ずっとぶつくさつぶやいていた眼鏡くんが静かになる。


「はい。では、刺します。ちょっとチクっとします」


 そう言われた瞬間、チクっと刺された感覚が。


「OKです。綺麗に入りましたー。一発で入って良かったです」


 点滴の針だから、太い針が入っているはずだけど本当に全く痛くない。凄いじゃん、眼鏡くん! 言うだけのことはあるねって私は心の中で拍手。

 眼鏡くんは、無事にやりきって満足したのかテキパキと道具を片づけて行く。


「では、手術頑張って下さいねー」


 そういうと、明るく元気に去って行った。なんか、凄くキャラが立っている子だなって思ってしまう私なのだった。


 しばらくすると、今日の担当の看護師さんが戻って来た。


「無事に入って良かったです。手術は、前の手術が終わり次第なので進捗あったらまた報告に来ますね」

「はい。よろしくお願いします」


 看護師さんは、キビキビと仕事に戻って行く。私は、持ってきた本でも読むかなーと手に取る。そして、1ページ目を開く。本の世界に入っていく私。暫く読んで本をテーブルに置いた。


 持ってきた本が、戦争の本だったのよ。第一次世界大戦中のソビエトの話。私、何も考えずに去年の本屋さん大賞作品で、分厚くって手を出さずにいた本だったからこの機会に丁度いいと持ってきたの。内容のことは、全く考慮に入れていなかった。


 これから手術しようって人が、戦争の話はないわーって自分に呆れる。持って来ちゃったから入院中に読むのは読むけど、今じゃないなって思いスマホに変える。

 SNSを見て時間をつぶした。


 一度、トイレに行ってこよーとベッドから立ち上がってお手洗いへ。帰って来たら、丁度看護師さんが来ていて声をかけられる。


「朝日さん、これから手術だそうです。トイレ行って来ました?」


 えっ、もう? ってちょっとびっくりする私。午後だって聞いていたのに、まだ11時半くらいだったから。


「あっ、はい。今、丁度行って来ました」

「じゃーもう、そのまま行けるかな?」

「はい、大丈夫です」


 そうして私は、そのまま看護師さんに連れられて三階の手術室に向かった。三階のエレベーターを降りると、目の前に大きな自動扉があって看護師さんと一緒に中に入る。

 入ったすぐの所に椅子が置いてあって、とりあえずそこに座った。すぐに、手術室担当の看護師さんがやってきた。


「本日の手術担当の看護師で〇〇です。よろしくお願いします。まずは、名前と生年月日教えてもらえますか?」


 私は、自分の名前と生年月日を答える。


「はい。ありがとうございます。では、手術の部屋に向かいましょう。中が広いので迷子にならないようについて来て下さい」


 物凄く、テキパキと進めていく看護師さん。ここで、内勤の看護師さんとお別れ。「頑張って下さい」と一言告げられて、私は手術室の中へと進んで行った。

 言われた通り、中が広くていくつも手術する部屋があるみたいだった。私が案内されたのは、一番奥にあった手術室。中に入ると、さっき挨拶してくれた医師の二人と数名の看護師さんがせわしなく動いていた。


「では、こちらの台に横になって下さい」


 案内してくれた看護師さんに言われて、私は自分で手術台の上に横になる。すると、そこからがかなりスピーディーだった。

 横になった瞬間に「手術着脱がせますからねー」って言われて、体の上にバスタオルをかけられて着ていた手術着をシュパパッと取り払われる。


 手術するの口の中なのになんで裸に! って思ったけど、すぐにデコルテ部分に先端が吸盤状になっている線を、パパパパパっと凄い速さで付けられていく。

 たぶん、心拍とかとるからかと納得するもどんどん看護師さんは準備を整えていく。


「今日、手術する箇所を言って下さい」

「左の舌です」


 手術箇所の間違い防止の質問が投げかけられた。


 最後に、人工呼吸器を口に嵌められて「スーハ―スーハ―して下さい。少しずつ眠たくなってくるはずです」って言われる。その間にも、さっき眼鏡くんに刺してもらった注射針の部分に恐らく点滴が接続されていく。


 私は、言われた通り「スーハ―スーハ―スーハ―」と息を吸った。覚えていたのは三回息を吸ったこと。三回息を吸った私の意識は、もう闇の中だった。


 次に意識が戻ったのは、「…………朝さん、…………朝日さん」と看護師さんから名前を呼ばれた時だった。

 私の中で、闇の中に吸い込まれてから名前を呼ばれるまでの間は本当に一瞬。手術時間は予定通り二時間弱くらいだったみたいだけど、時間の経過なんて私の体感の中には全くなかった。


 これが、麻酔(手術)か! ってなんか変な感動があった。


 次回、手術後の戦いです。


全部書き終わったー。全14話になります。

あと少し、お付合い下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 全話読ませていただきました。色々と大変でしたね…お見舞い申し上げます&お疲れ様でございました。 小さい時によく注射を受けていたのですが、筆者様と同様、僕も難易度の高い患者だったらしいです。…
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