転生 第2話
神様と話をつけてから私は勉強だけでなく、運動能力などにも磨きをかけた。
ここは自由な空間らしく、場所も自由に広げたりすることもできた。
「瑠衣さーん…次の本持ってきましたよ」
「ありがとうございます。その辺に置いておいてください」
神様がどこからか現れ、両手に抱えきれないほどの本を持ってきてくれた。
この光景も何度も見た。
「今日も魔法の練習ですか?」
「そうです。魔法に関しては先輩よりも上手になりたいので」
「努力の理由が揺るがないのがすごいですね」
「これは私のプライドの問題なので」
「そうですか。じゃあお話したいことがあるのでキリがついたら声かけてください」
神様はそれだけ言って近くの椅子に腰かけた。
とりあえず神様も待ってくれるらしいし、今は目の前の勉強に集中しよう。
異世界に行く前に、少しでも強くならないといけない。
魔法の基礎から、転生先の世界の常識まで徐々にだが確実に知識を得ていた。
今では実際に魔法を扱うところまで成長していた。
「おー、綺麗な炎使えるようになりましたね」
神様もパチパチと手を叩きながら褒めてくれる。
しかし、まだまだ満足していない。
「まだですよ。もっと威力を上げないと」
「これ以上上げるんですか?」
「今の魔力だとちょっと弱いので」
「十分強いと思いますけどね……」
ある程度練習して満足したので神様が座っている向かいの椅子に腰かける。
「お待たせしました」
「いえいえ、お疲れ様です。早速ですが、本題入ってもいいですか?」
「はい。お願いします」
神様は水晶玉のようなものを取り出して手をかざした。
すると中に真っ黒な髪に、黄色の瞳をした赤ちゃんが映っていた。
「これ、見えますか?」
「えぇ、これ誰ですか」
「この子が山本 咲翔さんです」
「え、これが先輩!?」
「で、ここからが本題なのですが、あなたの使い魔としての姿を決めていただきたいと思いまして。何か希望とかってありますか?」
「うーん、前世では虎が好きだったので虎がいいです」
「なかなか厳ついですが、分かりました。それでは……えいっ!」
神様はまたもやどこからともなく杖を取り出すと、それを一振りした。
一瞬光に包まれたかと思ったら、目線が低くなった。
神様が鏡を私の前に差し出すとそこには大きなホワイトタイガーがいた。
目は赤と青のオッドアイで珍しい見た目をしていたが、神様曰くどちらの性にもなれるようにするならオッドアイは避けられないと言われた。
「可愛い上に格好いい!!」
「気に入ってくれましたか?」
「もちろんです!神様は本当に何でもできるんですね」
「まぁ一応神ですから」
神様は胸を張ってドヤ顔をしている。
「でも下っ端なんですよね」
「この転生が成功すれば昇進できるので!」
「こんな厄介な転生が神様の昇進に関わってるんだ…」
「まぁ、頑張ってください」
神様は笑顔で親指を立てている。
今のところ要望は聞き入れてもらってるしどうせなら神様に恩返しもしたい。
「ご希望に添えるかは分かりませんが精一杯頑張りますね」
神様は私に人間に戻る方法を教え、それの取得を見届けると帰って行った。
それからはさらに長い時間を過ごした。
魔法の習得や身体能力の向上だけでなく、毒に対しての耐性や気配を消す術など使えそうなものは全て身に着けた。
虎の耳と尻尾だけ出した半獣人と呼ばれる姿が1番過ごしやすいことに気づき、その姿を保つことにも安定してきたある日。
ついにその時はやってきた。
「瑠衣さん、転生する準備ができましたよ」
「いよいよですか」
「あちらの世界はあなたにとって危険な世界かもしれませんが、きっと大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。神様には感謝してもしきれません」
「いいんですよ。私の昇格もかかってますし」
「その部分はめっちゃ私情ですよね」
神様と一緒にいる時間はなんだかんだ言って楽しかった。
転生するまでの準備期間とはいえ、この時間がもう無くなってしまうことは寂しかった。
「では今から詳しく説明しますね」
神様は昔、赤ちゃん_もとい転生した先輩を見せてくれた水晶玉のようなものを取り出した。
そして神様が手をかざすと、中に映像が流れだした。
「山本咲翔さんは今の名前は・アルシェ・ルフォードという名前です。瑠衣さんの名前は使い魔契約する時にアルシェさんからつけられると思うのでそれでお願いします。」
「…先輩が名付け親になるんですか」
「そんな不服そうな顔をしないでください」
神様にジトッとした目を向けられる。
それをスルーして先を促せば、ため息をつきつつ神様は話を進める。
「これはアルシェさんが在学するアカデミーの映像です。あと少しで使い魔契約というオリエンテーションのようなものが始まります。瑠衣さんはそこでアルシェさんに呼び出されてもらいます」
「なるほど」
「補足すると、本来使い魔契約は遠くにいる魔物や精霊を呼び出して契約を結ぶので瑠衣さんのように事前に使い魔側が契約主を事前に知っていることはありえません。そこのところは言及されても頑張って誤魔化してください」
「雑な説明ですね。…でも理解はしました」
「あと、皆が皆呼び出すことができるわけではなく、成功率は5割ぐらいです。そこのところも覚えておくといいかもしれません」
「意外と低いんですね」
「召喚魔法や契約の類は難しい魔法なので仕方ないです」
「そうですか…」
正直、そんな立ち位置で扱われることは予想外だったので少し緊張してしまう。
「瑠衣さんの実力や魔法に関する技術については全く心配いりません。私が保証しますよ」
「神様にそこまで言われるなんて嬉しいです」
神様はよく頑張りましたと言いながら私の頭を撫でてくれた。
今まで傍で見てくれていた人に褒めてもらえたことで、努力が報われたような気がして嬉しかった。
すると、映されていた映像が切り替わり、魔方陣が描かれた広場のような場所が映し出された。
「そろそろ始まりそうですね。使い魔を召喚するためにはこのように広い場所と専用の魔方陣が必要なんです。…では、最後に私から1つだけ」
神様は真剣な表情をしてこちらを見る。
「あなたは私たち、神からの特典を得ずに努力で今の力を得ました。その力は私たちが与える特典と同等か、それ以上のものです。努力を重ねたからこそ分かると思いますが、転生先の世界では強い力は諸刃の剣になります。何のために、誰のために使うかをよく考えてくださいね」
神様は私のことを思って忠告してくれたのだろう。
その気持ちはとても有難いが、力を使う先は決まっている。
「安心してください、先輩とあの女にしか危害を加えませんので」
「あの、そう言うことではないのですが…」
神様は呆れたように肩を落としている。