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結婚式の朝



設定しておいた目覚ましいのアラームではなく、着信音で目が覚める。

あの報告から数カ月経った今日は先輩の結婚式の日。

複雑な思いで招待状の封を開けたことを今でも鮮明に覚えている。

着信は同期からで、不思議に思いながらも電話に出る。


「はい、もしもし」

『おい瑠衣!!!お前何してるんだよ!!』

「いや寝起きだから何してるも何も…」

『連絡見てないのか!?』

「連絡?」


急いでメールボックスを確認すれば新着のメールが1件入っていた。


『緊急:結婚式中止のお知らせ。新郎の山本 咲翔さんがブライズルームで何者かに刺され、意識不明の重体です。皆様も…』

「え…」


信じたくない現実が簡潔に書かれてあった。

メールには長々と何かが書かれていたが、先がぼやけてしまい上手く読めない。


どうして。

どうしてこうなった?

誰が何のために先輩を刺した?


ぐるぐると混乱する頭を落ち着けようと必死になる。

そうだ、病院へ行けば何か分かるかもしれない。

覚束ない足取りでベッドから降りた時、チャイムが鳴る。

気が動転しているのかいつもなら念入りに確認する応答画面も確認しないまま、玄関を開ける。


「はい」


ドアを開けるとそこには綺麗な女性がいた。

女性は何も言わずに下を向いている。


「どちらさまでしょうか」

「……こんにちは。私、咲翔の婚約者です」


どうして私のところに来たんだろう。

そんな疑問を問う前に女性は顔を上げた。


「あなた、咲翔に何をしたんですか」

「……はい?」

「咲翔に何かしたんですよね? だから急に結婚しないなんて言い出したんでしょう!?」


彼女の目には涙が浮かんでいた。

そして、彼女は私に詰め寄った。


「答えてください。あなたのせいなんでしょう?」

「ち、違います!私は何も……!」

「嘘つかないでください。だって、咲翔が結婚をやめるなんて絶対におかしいもの」

「本当に違うんですってば!!」

「うるさいっ!!!」


否定し続ける私に対して、とうとうヒステリックを起こし始めた女性。

その声に驚いて家に戻ろうと後ずさると、女性は鞄から血の付いたカッターナイフを取り出した。

それを見て真っ先に思い出したのは、先ほどのメールに『刺された』と書かれていたことだ。


「あんた、もしかして先輩のこと刺したんじゃ…」

「黙りなさいよ!! あなたが全部悪いのよ!!」


女性がカッターナイフをこちらに向かって寄ってくるのを見て、慌てて部屋に戻ろうにも玄関扉に足を挟まれて閉めることができない。

そのまま玄関に押し倒され、馬乗りされる。


「あなたがいなきゃ、私が咲翔と結婚できたのよ」

「意味わかんないこと言ってないでどいてください!」


女性はカチカチと刃を出しながら迫ってきた。


このままでは殺される。


しかし恐怖と馬乗りにされているせいで体は動かない。

勢いよく振り上げられたカッターナイフを見て目をきつく閉じる。

歯を食いしばれば、腹部に鋭い痛みが走る。

痛みの根源を確認する間もなく、カッターナイフを引き抜かれ新たな痛みを生む。

刺されては引き抜かれる。

それを何度も何度も繰り返され、いよいよ痛みも感じなくなってきた。

ただ、腹部から背中にかけて温かい液体で濡れていく感覚が伝わってくる。


「待っててね、咲翔」


そう言い残して女は去っていった。


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