第11話
街はそこそこ栄えており、人だけでなく馬車も通っていた。
ランサさんと2人で歩くも、使い魔自体が珍しいのか道行く人からは視線を向けられた。
「やっぱり珍しいんですね」
「多分使い魔の単独行動が珍しいんだろうな。使い魔は基本主人と行動を共にすることが多いから。あとは…」
ランサさんはちらっと私を見る。
「なんですか?」
「…毛の色が目を引くんだろうな」
そんな話をしていると小さい子に「わんわん!」と指を指されてしまい、2人で顔を見合わせて苦笑してしまう。
「一旦人型になりますか」
「そうだな」
適当な路地裏に入り、周囲に人がいないことを確認してから人型になる。
てっきりランサさんも人型になるのかと思ったら一向に姿を変える気がないらしい。
「どうかしました?」
不思議に思い尋ねれば、気まずそうな顔をして答えてくれた。
「俺は耳と尻尾が残るから人型になるのやめておくよ。ルイの隣にいればこの姿でも違和感ないだろう?」
「えー…じゃあいい方法があるので一旦人型になってもらえますか?」
「ん?おう」
返事と共に狼の耳と尻尾が生えた人型のあるランサさんが姿を現す。
本人は不思議そうな顔をしている。
両手に魔力を集めて、断りを入れてからランサさんに魔法をかける。
「これでどうでしょうか」
水を凍らせて即席の鏡を作り、それを渡す。
「これは…」
鏡で自分の姿を確認したランサさんは息を呑んだ。
私の魔法によりランサさんの頭から生えていた狼の耳と尻尾は跡形もなく消え去った。
「目くらましの魔法です。それなら耳と尻尾を気にしなくてもいいでしょう」
「これなら大丈夫だ…でもどうやってこんな魔法組んだんだ?」
「目くらましの魔法は元々存在しますよ」
「あれは生き物にはかけられないんだよ」
「え?」
そんなことは初耳である。
少なくとも、神様がくれた本にはそんなこと書いてなかった。
何か誤魔化した方がいいかと思ったが、ランサさんは魔法に気を取られているようで追及はしてこなかった。
「でも本当にすごいな…完璧に見えなくなってる」
「ちなみに見えなくなっているだけでそこに存在しているので特に尻尾は当たらないように気を付けてくださいね」
「おぉ!本当だ。しっかり感触あるんだな」
見えない尻尾を触りながら嬉しそうにしているランサを見て思わず笑ってしまう。
よくよく観察するとランサさんはカジュアル系の服を着ており、現代の日本で着られている服によく似ていた。
「その服はどうされたのですか?」
「これか?たしか、まだ若かった時に襲ってきた人間から拝借したものだな」
「……ランサさん強いんですね」
「そりゃあ俺もそれなりに修羅場はくぐってきているからな」
昔のことだから恥ずかしいな、と言いながらランサさんは頭を掻いた。
「ほら、とりあえず服見に行くぞ。遅くなったら2人も心配するだろうし」
「そうですね」
人間の姿で路地裏を出ると、先ほどのような好奇の視線に晒されることは減ると思ったのだが・・・
「…あの、視線減ってないですよね?」
「……寧ろ少し増えたか?」
「なんでですかね」
「それはルイが可愛いからだろ」
さらっと言われた言葉に少しだけ固まってしまう。
可愛いか。
あんまり言われたことなかったな。
「そうなんですかね。私的にはランサさんの顔がいいからだと思うのですが」
「俺の顔?誰も興味ないだろ」
「うっわ、一旦全世界に謝った方がいいですよ」
「どういうことだよ」
「イケメンの過度な謙遜は敵を作るということです」
「なんだそれ」
これは何を言っても無駄だと察して、諦めることにした。
ランサさんと服屋を探していると、街の地図が貼られた掲示板を見つけた。
「ランサさん、地図ありますよ。見ましょ」
「本当だな。服屋は~…おっ、結構あるな」
「そうみたいですね。じゃあ近いところから行きましょうか」
いくつかある店の中から1番近くにあった服屋に入ることにした。
「いらっしゃいませ~」
中に入ると、店員の明るい声が聞こえてきた。
店内は落ち着いた雰囲気で、あまり派手すぎず地味過ぎないものが中心に置いてあった。
前世でいうところの、安値でいい服を取り扱っている某ブランドに近い店だった。
「このお店いいですね」
「1店目だけど決めちゃっていいのか?」
「今日はここで見繕おうかと。ほら、今後も時間はあるでしょう?」
「それもそうだな」
店内を歩きながら今の姿に似合いそうな服を探す。
男性の体の時の服はまたその時見に来よう。
「ルイ、この辺りとかどうだ?」
「どれですかー?」
ランサさんが指を指す先には、女性もののスカートやワンピースがあった。
「めっちゃ可愛いじゃないですか!」
「似合いそうだな」
「あー、でも一応中性的な服も欲しいんですよね」
「そうなのか?」
「私、女性じゃないので」
「は?」
ぽかんとした表情を浮かべているランサさんを置いて服を広げてみる。
この服、前世の容姿だと似合わないけれど今の容姿なら似合うかもしれない。
「ちょちょ、待ってくれ!!」
「はい?」
「今、なんて言った?」
「だから、私は女性ではないと。あー、正確には無性であり、両性というか…」
「はぁ!?」
「まぁ、そういう反応になりますよね」
あまりにも混乱しているため神様の存在は伏せて、身体的な性を自由に変えられることを伝える。
「えーっと、今は…」
「女性に寄ってはいますが、完全な女体ではないですね」
自分の真っ白な髪は長く伸ばされているが、意図的に伸ばしているわけではない。
きっと男性化した時は髪型も変わるのだろう。
…なんか、ゲームのキャラメイクに思えてきた。
「すまん。てっきり女性だと思って接していた」
「女性として接されても全く問題ないので大丈夫ですよ。こちらこそ、ややこしくてすみません。念のため伝えておくべきかと思っただけなので」
「確かに事前に伝えてもらった方が、いざという時に対応できるから助かる」
「そう言っていただけて良かったです」
「それにしても……性別を変えられる使い魔がいるなんて聞いたことないぞ」
ランサさんからの鋭い質問に苦笑するしかない。
「そうなんですかね?実際の所、同族と暮らしたことがないのでいまいち自分の種族の特性も分かっていないんですよ」
嘘ではない。
実際、神様も顔を出しに来てくれる程度だったしほとんど1人暮らしに近かった。
「まぁ、誰しも色々な事情があるから何とも言えないな」
「そういうことです。さ、気を取り直して服を選びましょうか」
「あぁ」
それから何着か服を見繕い、試着室に入って着替えてみる。
白のシャツにライトブルーのスカートという爽やかな服装なため、昨日アルシェさんから貰った青紫色の魔法石とよく合っている。
鏡に映る姿は、どこからどう見ても女の子だ。
「やっぱりこの姿にはこういう格好の方がしっくりくるんだよね」
スカートを翻しながら呟く。
他の人からの感想も欲しいため、着替えたままカーテンを開けてランサさんに聞いてみる。
「どうですか?」
「可愛いな」
「素直な感想ありがとうございます」
「そのまま買ったらどうだ?白のワンピースより断然こっちの方がいいと思うぞ」
「そうですね……じゃあ、これとワンピースも数着買ってきます」
他にも数着持ってレジに向かう。
この世界の通貨が分からないため、高そうな硬貨を数枚出すと店員さんはお釣りを返してくれた。
どうやらちゃんと支払えたようだ。
「ありがとうございました」
お金と引き換えに商品を受け取り、店を後にする。