第8話
「…あれ?」
扉の向こうに気配がする。
念のため虎の姿に戻ってから扉を開ければアルシェさんがソファーに座っていた。
「出ました」
「…どうやってシャワー浴びるんだ?」
「内緒です。そんなこと聞くために待っていたんですか?」
向かい側に座ろうと移動すれば、またもやアルシェさんは自分の隣を叩いて示した。
仕方がないからそこに座ると首に何かがかけられる。
確認してみると、それは召喚の時に使ったあの青紫色の魔法石がついたネックレスだった。
「これって…!」
「ルイを召喚する時に使ったネックレスだ。ぜひ持っていてくれ」
「でも、これアルシェさんのものじゃ…」
「…それは俺が瑠衣を探すために初めて作ったものなんだ」
アルシェさんの指す『るい』が今世のルイではなく前世の瑠衣であることが痛いほど伝わってきた。
私が知らないと言い切ったからアルシェさんはそれを信じただけ。
それなのにどうしてこんなにも辛いのか。
「…ルイのために作ったんだ。だから貰ってくれ」
「ありがとうございます」
私に向けて言い直したことには気づかないふりをしてお礼を伝える。
どうやら用件はそれだけだったようでアルシェさんは早々に立ち上がる。
「じゃあ俺はもう寝るから。おやすみ」
「おやすみなさい」
部屋を出ていく背中を見送ってから私はネックレスを見直す。
青紫色の石は綺麗に輝くだけでなく、魔力の塊だからか微かな魔力の渦を感じる。
これを瑠衣のためにね。
「……なんで私がこんな気持ちにならないといけないの」
あの人のせいで殺されたようなものなのに。
そう思えば気持ちが少し楽になったような気がした。
寝室に向かいベッドに乗れば、獣の姿でも十分寝られる広さだった。
いつアルシェさんが入ってきてもいいように一応獣の姿のままで寝ることにする。
明日は何をしようかな、なんて考えていれば意識はすぐに夢の中に吸い込まれていった。