第5話
4人で食堂へ向かえば、もうすでに何人か食事を取っていた。
「食堂って結構何でもあるんですね」
「食費のことは気にするな。お金ならちゃんと持ってる」
「奢ってくれるんですか!?」
「そりゃ俺が勝手に呼び出して使い魔になってもらったんだから当たり前だろ?」
「そういうもんなんですか」
確かに契約主であるランサさんが私の責任者ではあるのは分かるが、ここまで良くしてくれるとは思わなかった。
「使い魔に食事をご馳走するのは普通だよ」
ジニアさんの補足もあり納得する。
不本意ながらペットと同じ立ち位置なのかもしれない。
「っていうかルイとランサは何食べるんだ?」
「俺は基本的に何でも食べますが肉料理が好きですね」
「私は…何が好きなんだろう」
そういえばあの神様の空間では飢えを感じることはなかったから食事自体久しぶりだ。
そのせいか自分の好みはもう忘れてしまっていた。
「具体的な好みがないなら気になるものを頼むといいさ」
そう言われてメニューを見ると、洋食ではあるものの前世で見覚えのあるメニューが多かった。
「美味しそう」
「僕はこれかな。ジニアはどれがいい?」
「俺はこの肉が入ったものでお願いします」
「俺はこれ」
「じゃあ、私はこれで」
それぞれ注文を終え、運ばれてくるのを待つ。
「この食堂は使い魔と一緒にご飯を食べても大丈夫なんですね」
周囲を見れば獣化したまま食事をしている使い魔しかいない。
食べにくくないのかなと思ったが、植物性の蔓を操って上手く食べている使い魔もいる。
「使い魔は家族以上の絆で結ばれるなんて話もあるぐらいだからどこにいても規制されることはないと思うぞ」
「そうなんですね。初めて知りました」
「俺も初耳です。それを知っておくと肩身が狭くないですね」
私たちの会話を聞いて思ったことがあったのか、先ほどまで静かだったジニアさんが口を開く。
「…あのさ、ずっと気になってたんだけどもっと気楽な関係にしない?」
「え?」
「敬語とか気を遣うとかさ。そういうの無しにして気楽な関係でいようよ」
「それは俺も思ってた。遠慮とかはしなくていいし、敬語もなくていい。これからずっと一緒にいるんだし」
2人の言葉にランサさんと私は思わず顔を見合わせる。
「…そう言われても敬語は抜けきらないというか…」
「そこをなんとか!!」
「…できるだけなら…」
「ルイも敬語、」
「無理です」
「じゃあせめてさん付けやめないか?」
「えー…」
「分かった。じゃあ遠慮しないことを約束してくれ。したいこととかあれば何でも言ってほしい。」
「まぁそれなら…」
「よし!敬語とかもいつでも外してくれて構わないからな」
「分かりました」
あまりにもチグハグな受け答えにジニアさんとランサさんが笑っている。
「2人も僕のこと呼び捨てでも好きなように呼んでくれていいからね」
「俺も好きなようにどうぞ。敬語もなくていいっすよ」
「まぁ、段々慣らしていきます。急には流石に無理ですので」
「…アルシェの気持ちめっちゃ分かった」
「結構辛いだろ」
「結界張られてないのに壁が見える」
そんなことを言われても抵抗があるのだから勘弁してほしい。
ランサを見るが肩を竦めていた。
それにしても…
「…やっぱり私めっちゃ見られてますよね。」
周囲から視線を感じるし、自分たちが座っている近くには誰も座らない。
「そんなにオッドアイが珍しいですかね」
「多分その毛の色じゃないか?」
確かにここまでくる間や今日の使い魔召喚の広場でも沢山の使い魔を見たが白は誰もいなかった。
「真っ白な獣ってあまりいないんじゃないかな」
「そもそも白は神格化されやすいからな。でも単なる古い噂だ。気にするな」
そんなこと言われてもこの視線はあまりにも気になる。
だから軽く頭を振ると同時に魔法で毛の色を黒に変えた。
「これなら目を引きませんね」
「そういうこともできるんだね」
「見た目だけなのですぐ元に戻せますし楽ですよ」
そんな話をしていれば食事が運ばれてきた。
どれも美味しそうだし、私の前にはお肉がたっぷり入ったシチューが置かれる。
一口食べると、口の中に広がる肉の旨味に感動した。
こんなに美味しいものは食べたことがないかもしれない。
夢中になって食べていると、ふと隣のアルシェさんがこちらを見ていることに気づいた。
「どうかしました?」
「…なんでもない」
そう言いながらもまた私を見ている。
まぁ前世の先輩も変なところで気にする性格だったからこちらが気にする必要もないだろう。