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イデア・マギアミレス・ランタイン

 ギルドを出た先の大通りは、残念ながら抜けることができなかった。


 既に人だかりができており、沸き立っている。

 いや、沸き立つというより、喧嘩腰の口調が飛び交っている。


「なんですか? この異臭の漂う大広場は! ここはいつから魔物の住処になったんでしょうか?」


 高飛車な若い女子の声が飛ぶ。


「あぁ⁉ だったら来るんじゃねぇよ、しょぼい攻撃しかできねぇくせしてよぉ!」

「だったらこうして魔法が使える女に助けを求めた王を侮辱するのかしら?」

「ごちゃごちゃうるせぇな! だったら俺と勝負しろ!」

「そうやってまた野蛮なことを言うから臭いのよ?」


 喧嘩には悪いが、なんとなくこの国、この世界のことが垣間見えた気がした。

 魔法はこの世界では女しか使えないらしい。

 他の男たちは、皆武器を取り合って戦うらしいが、まだそれでも戦闘をする場面においては武器が勝っているということだろうか。


 ずっと喧嘩しながら解説をしてくれている二人を眺めていると、不意に男の方がレイの肩に腕をかけてきた。

 腕を組まれただけで、一気にサウナにいる気分に落とされる。


「なぁ、さっきから見てる兄ちゃん! あ、俺はそこのギルドのギルド長やってるダノスって言うんだけどな? やっぱり魔法バカよりも戦士が役に立つよなぁ?」


 いきなりすぎて、レイはえっと声を漏らして思考が止まってしまう。思考をなんとか止めたくなかったレイはダノスと名乗った大男を見た。

 レイの身長の二倍はありそうな巨体に、Tシャツのような薄手の服を着て、背中には柄が頭から突き出ているように見える大剣を背負っている。

 若干丸まった背と長く絡みついた髭が、かなり老け込んだ感じを思わせる。

 喉から出る声は酒で焼けているように聞こえるが、外見年齢とは一致している感じがしない。


 レイを締め上げる筋肉は怖気を走らせる。

 戦士というより、これは荒くれ者だ。


「はぁ……やめなさいよバカ。そこの人、私はレティ。まだあなたは良識がありそうだから聞くけれど、知識と魔法に勝るものはないってわかるわよね?」


 近づいてきた彼女は、レイを人質のように抱きかかえる彼とは違った高潔さと、少女らしい可憐さ、それになにより魔女らしいローブと透き通る青の長髪が印象的だ。

 ローブの首元から開いている中から、まるで制服のような服装を覗かせ、彼女が学生であるかのような印象を受けた。右手には彼女の印象と同じ色の杖が収まっている。


 困った。

 レイは苦笑いしかできなくなる。


 先ほどの会話がこの国の現状全てなのだとはひしひしと感じるし、何より押し黙れば押し黙るほど、二人からの圧が凄まじい。


「どちらにも良いところはあるんじゃないか……」


 当たり障りのないことを言っただけでは解放してくれず、ダノスは片方の手を剣に、レティは二十センチほどの木の枝のような杖をかざしはじめた。

 やばい、とレイが身構えて目を瞑った時、明後日の方向から声が飛んできた。


「静まりなさい、勇気ある者たち!」


 一喝が轟き、広場が一気にどよめきを広げる。

 レイもそちらに顔を向けると、夜の煌めきを閉じ込めたようなローブを羽織った老婆がいつの間にか広場に面した建物の屋上に立っていた。


「これより、プルデンレクス・パーシヴァル・ランタイン国王陛下より、お言葉があります。みな、心して聞くように」


 叱りつけるような一言を言い残し、奥へと引っ込む。

 厳しい眼差しに睨まれ、辺りは真夜中のように静まり返った。

 何故か聞き入っていたダノスの肩からするりと抜け、レイもそちらへ顔を向ける。


「皆の者、よう集まってくれた!」


 続いて現れた老人の声が、広場中に広がった。


「ランタイン国国王が、立ち上がってくれた諸君に直々に礼を言う」


 大仰に辺りを見回しながら、王冠を被った老人が煌めくローブをはためかせていた。隣には深く黒いローブを羽織った女が数名、太陽光を強く反射して輝きを見せる鎧をまとった戦士が敬礼で固めている。


「この国の危機を救うため、この国を守るために剣を取り、杖を掲げ、そして魔物に立ち向かう勇気を見せてくれた諸君に、感謝をしよう」


 弱弱しくも、レイたちの耳にしっかりと届く声。明らかに彼が出せるような声量ではないはずだが、横にいる魔女が杖を王に向けている。


「諸君らには、これからすぐにでも魔物討伐に向かってもらう。しかし案ずるでない。老いたわしの代わりに、私の娘が皆を導く。私の娘が皆の剣を振り下ろし、皆の杖に光を灯すのじゃ」


 言い終わると、王は下がる。


 次の瞬間、レイは目を奪われた。


 奥から出てきたその少女は、無垢さを表す純白のドレス姿と、全体が白く透き通るような肌が、逆に彼女の存在感を際立たせる。一部から歓声が沸き上がるが、その原因はラインを強調する白のホットパンツと、ソックスがずれないように留める紐が原因だろう。レイも魔法にかかったように、その間に露わになる白い太ももに目を泳がせてしまい、すぐに目を逸らす。


「私は、みなさんの魔物討伐を指揮します、イデア・マギアミレス・ランタイン」


 彼女の腰には彼女と同じ印象を思わせる、細身のレイピアが輝いている。

 しかし、凛と響く声色は、だれも手助けをしていない。

 左手をよく見れば、彼女から感じる強い意思と同じ、真紅に煌めく杖が収まっていた。


「弱い敵と侮らないでください!」


 レイピアを掲げ、太陽の輝きを吸い込み放つ長髪をなびかせる。


「国の危機を救い、必ずや英雄となってこの地を踏み鳴らしましょう!」


 オオオォォォ…………!


 身体全体を揺さぶるかけ声が、姫と、レイと、この町全体を包み込む。

 さっきまでの喧騒が嘘のように、イデアを中心として一致団結がなされている。

 この姫の……イデアの影響力は凄まじい。レイは、彼女のことを気になり始めた。


「それでは討伐に出ます! 王国戦士長と副戦士長に続き、剣を掲げ、杖を構え、進め!」


 姫が指し示す方を、皆が振り向く。一気に先頭になってしまったレイもくるっと回転、元来た道に足を踏み出した。

 国の城壁を抜けると、そこには既に集団が待ち構えていた。装備や統制の取れた隊列を見る限り、国のれっきとした軍隊だ。

 いよいよ本物の剣を振るい、レイ自身の力を発揮するときが来た。

 なにかがレイの中で疼いた気がした。けれどそれはありえない。

 涼しい風が、レイに火照っていたことを自覚させた。

イデア・マギアミレス・ランタイン

ランタイン国王女。

自ら剣を取り、魔法を操り、国を導こうと前に立つ、麗しい姫君。

全てを自分の力だけでやり通そうとする強い意思があり、今回の魔物大討伐も、自ら先頭に立って民衆を導こうとしている。

高貴・純粋・純白の3拍子がそろった純潔の姫。

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