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理想の元へ

「うおらぁっ! どけぇ!」


 束になって剣を振るう兵士たちを、ダノスを先頭に、素手と鎧で圧倒して押し進む。通路も広くないので、ダノス一人でガンガン進む。

 その甲斐あってすぐに牢屋の外へと出ることができた。

 外には既に太陽が高く昇っている。牢屋の中のじめじめとした場所とは対照的だ。


「おい、王宮はあっちだ! いくぞ!」


 大剣を引き抜き、おぉ! と唸る。その方向へひた走る。

 十字路に差しかかった瞬間、どこから湧いてきたか、兵士にざぁっと囲まれる。前にも左右にも、下がろうとした後ろに視線を向けても武器を持つ兵士ばかりだ。

 レイなら簡単だ。電気をばらまけばいい。

だが、今は意識を保つことだけで精いっぱいだ。

 他三人も周囲に向かって武器を掲げる。


「がっはっは! 早速骨の折れそうなやつらが来たぜ、おぅ!」

「この人数はここでは相手にできませんわよ!」

「くっ!」


 レイは歯噛みする。もしもう少し体力があれば蹴散らすことなんて簡単なのに。


「抵抗して死を選ぶか大人しく牢に戻るか選べ、罪人!」


 先頭に立った指揮官らしき人物がレイに怒鳴りつける。その顔には見覚えがあった。


「ロイ!」


 イデアを蔑称で呼び、笑っていた男だ。こんなにも地位が高かったのか。

 前ならどうしていただろうか。しかし今は前のレイではない。


「抵抗してイデアを助けに行く! 邪魔をするな!」

「なんと無礼な、姫を名前で、しかも呼び捨てなどと!」


 怒りに打ち震えた嘘の正義感が剣を抜く。


「反逆者もろともここで処刑しろ! やれ!」


 確かに以前のレイならそれも気が引けただろう。

 しかし、もう恐れない。

 イデアに認めてもらっていた俺が、イデアに遠慮してどうする!

 もう、逃げない。レイはなんとか魔力を両手に込める。


「何をしようと――」

「効かないって言うなら食らってからにしろ!」


 レイはロイの叫びを遮って火球を打ち出す。それは簡単にロイ含めて後方の兵士を巻き込み暴れながら吹き飛ばしていく。


「イデアはイデアだ。あいつを馬鹿にするのは許さない」


 やった。だがまだ兵士は大勢いた。

 おかしすぎる。魔物討伐で兵士もいたはずなのに、まだ国にはこんなに兵力があるのか。理由を考えたいが、それを考えたところで突破法は思いつかないし、そもそも考えるに足る血がない。


「てめぇら舐めてんのかぁ!」


 ダノスが張り上げたのかと思ったが、別方向からその方向は聞こえた。

 上に振り向くと、家の屋根からぞろぞろ男たちが落ちてきて、滅茶苦茶に剣を振りまわして兵士をなぎ倒していく。


「おう! ギルド長、レイ! なんでここで突っ立ってんだあ?」


 がはは、とダノスが笑う。


「良いところに来てくれたじゃねぇか、なぁ!」


 あっという間に数を増したこちらが、取り囲んだ兵士たちを押し上げていく。

 数こそ減らされたものの、潜り抜けてきた修羅場の数が違う。その闘気が兵士たちをじりじりと押し下げていく。


「レイ! てめぇらは先に行け! ちゃんと救ってこなかったらもう一回ぶん殴ってやるからなぁ!」


 へへ! そう言って高らかに笑うダノスは、背中を向けて突っ込む。


「誰がてめぇらを救ってくれた英雄なのか、軟弱なガキどもにきっちりわからせてやろうぜぇ!」


 おらぁぁぁぁぁぁぁ!

 雄たけびで空気という空気を震わせ突進していく。上がった悲鳴と共に、綺麗な一本道が現れた。


「さぁ、このうちに!」


 レティに促され、ダノスたちを置き去りにレイはひた走った。


「おい! 魔女学園もこの先だよな!」

「えぇ、そうですが!」


 王宮にこのまま突っ込んでもまた取り囲まれる未来しか見えない。


「あぁ! 魔女学園に行けば、裏道でイデアの元に行けるんだ!」

「な、なんですって⁉」


 滅茶苦茶に驚きを隠せないレティは、絶叫しながら魔法を飛ばす。


「こんな驚くようなところで横槍を入れないでくださいまし! フルグル! 静めなさい!」


 レティの杖の先から、細い雷鳴がひしめいて兵士たちを縫うように貫く。貫かれた体が小刻みに踊ると、倒れ伏していく。


「やはり天才ですね、ミス・レティ」


 ふふん、と鼻を鳴らす。

 やがて魔女学園の門を曲がると、そこには魔女たちがひしめくように門から入ったレイたちに杖を構えている。


「せっ、先生! そんな犯罪者の為に杖を振るわないでください!」


 お願いします、先生、先生! 生徒や教師らしき魔女が一斉にシプトンを説得しようとしている。

 シプトンは、静かに目を閉じている。なにも感じず、一切揺らいでいる雰囲気がない。これが大魔女の威厳。

 やがて、シプトンが口をゆっくり開く。


「……呆れました」


 低い声は、一瞬で周囲を黙らせる。


「私は魔法について、どのように常々教えていましたか?」


 杖でもう片方の手を叩き、悪い生徒たちを叱りつける。


「魔法は常に、真理を見つめなければならないと教えているはずですが」


 まぁ、しかしと呟く。


「あなたがたが正しい可能性もありますから、私を倒してみなさい。そうすれば補習は見逃してあげます」


 杖の先がどす黒い闇に包まれ始める。ひっ。どこかで何かを感じてしまった生徒が恐怖の色を浮かべた。


「ただし、全員でかかって来ても負けるようでしたら、きつい罰を与えますから、そのつもりで」

「私たちもお手伝いします!」


 レティも前に立つと、後ろから数十人のレティと同年代の少女たちが前に出た。


「あんなに凄い魔法を使えるのにまだ私たちが生きてる方がおかしいでしょ」

「あの魔法を直に見てないから勘違いしちゃってるのよね」


 レイの魔法を見せた女生徒たちが口々に主張して、杖でレイを庇う。

 レイを信じて、認めてくれた人たちがこんなにもいる事実が、まだ信じられない。


「私は、友人たちの目を覚ましてあげないといけませんから」


 レティはさらに一歩前に出て、シプトンに並んだ。


「さぁ、行ってください! ……イデアさんを、救ってください」


 二人に任せるのは、気が引ける。全てはレイが引き起こしたことなのだ。

 しかし、任せろと言った彼女たちの背中が頼もしい。


「……わかった」


 レイは横へ逸れて駆け出す。

 全身が錆びついたように動かない。クソ。こんな時に動かなくてどうする。


 レイは感覚のなくなった足を前に出し、進み続ける。動かない

 イデアと一度だけ通った抜け道を止まらない。

 イデアに誘われて通った道。イデアについて行った道。イデアに導かれたレイ。クソ。レイは見て見ぬふりをしていた。イデアになんて言い訳をすればいいのか、まだ思いついていない。

 イデアの部屋の前まで来る。


 一旦、足が止まった。がくがくと震えた手足が、これ以上動かない。


 動け。目の前だろ。散々逃げてきたツケを払わなきゃならない。認められるために、痛みを避けるのは、認められたくない奴だけしかしてはいけないんだ。


 錆びついた扉に手をかけた。もう二度と開かないと思っていたそれは、一度開けたからなのか、気の抜けるほど簡単に開く。


 そして、光が差す。


 広い空間に、しかしあったはずのモノがない。一瞬間違った部屋に出てしまったかと考えたが、しかし間取りは同じだ。イデアの部屋なはずだ。

 そして、部屋の主は、イスに腰掛け外を眺めていた。

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