予約の取れない料理店
近所に予約の取れない料理店がある。
これは数年前の出来事。
私は良く幹事的な役割を担うことがある。
リーダーシップとかそんな事では無いけれど、どうするこうするとうだうだ悩んで建設的意見も出ず進展しない話し合いが苦手であるし、決定事項が何も無い打ち合わせが大嫌いだし、締め切りを破ると言うのも大嫌い。そのくせ夏休みの宿題は8月終わりに過去の自分の見込みの甘さを呪いながら頑張って絵日記書いてたようなダメっぷりなんだったけど。人は成長するものね(遠い目)。
まぁともかく私は良く友達との夕食会なんかで店決めやら予約やらなんやらそんな事を良くやっていた。
ある時、今まで行った事無いお店で美味しいお店に行きたいねとそんな話が出ました。
今までは交通の便も考えて県内の県庁所在地である市で集まることが中心だったんだけど、隣の市に住む私にとって近場のお店へ行ってみようってな話になった。
いくつかお店をピックアウトしていく中に、私も一度も行ったことが無いけど気になっていたレストランがあった。とても美味しいと生活圏の異なる三グループから聞き及んでいたのでいつか行きたいと思っていたのだ。
友人に話をすると良いねという話になって私はレストランをネットでサイトを探す。
公式サイトは見つからず、仕方無いのでタウンページで探して電話をする。
日曜の閉店時間少し前に電話する。悩んだんだけどこじんまりとやってる個人のお店と言う話だったので、日曜ラストオーダー終わったあたりなら電話取れる余裕あるんじゃね?と思ったからだ。
十回コールを間五分位開けて二回、電話に出ない。その後十分位開けて二十回コールをしたけど出ない。もしかしたら客足が早くはけたんで早仕舞いしちゃったのかな?と思い、その日は諦める。
そこは定休日水曜と聞いたので月曜のディナータイムの開店時間少し前に電話をかける。この時間ならディナーのお客はまだ入店していないし、仕込みをしているにしても電話に出る余裕あるよね?と思って。出ない。
火曜の今度はお昼二時のいったんお店を閉める時間にかける。出ない。
電話番号間違っているのか?何度も確認するけどあっているし。そのお店を利用したことのある人に聞いてみれば携帯に入れてるお店の電話番号と合致する。
木曜、金曜、土曜……私は破れ続けた。
友達にはなかなか連絡が入れられず予約を取れないので、別のお店にしようと話をしてその時は終わった。
でもやっぱりそのお店が気になる。
時々思い出したように電話をかけてみたらある時通じた。
なんでもシェフが怪我をしてしまい入院したので暫くお店を休みにしていたらしい。
よかった、連絡通じたと安堵しつつ、お店はもう再開しているのか確認予約したい旨を伝える。
「いつの予定ですか?」
「来週の日曜どうでしょうか?」
「あーシェフが今居ないので私一人でやってるから日曜は無理です」
「じゃあ平日ですか?すみません、友達の予定確認してまた電話します。電話する時間帯としてご都合の良い時間は何時位でしょうか?」
「別に大丈夫ですよ」
大人しそうな女性の声にとりあえず日曜の予約は諦めて特に仲の良い友人に連絡を入れる。
例のレストランやっと予約取れそうだけど、シェフの不調で日曜予約無理なんだって。平日って話だけどどうする?と。
じゃあこの日にするかと話を決めて二、三日後になったけれどレストランに電話をする。
「シェフが居ないんで暫く休みを継続することになりました。二か月位は不定期なので予約は無理です」
あらら、仕方ない。電話の内容としては短期の手伝いの人が入ればお店を開けられるんだけどなかなか人が居ないって感じの説明だったので、これは二か月は諦めるかと電話を切った。
三か月位経過したと思う。そろそろどうだろうと思って私は電話をかけた。
祝日と土日が重なり世の中三連休とか言っていた日のどれかで予約を取りたいと思って相談すると
「あー、うちも三連休するんですよ」
「シェフのお怪我はまだ治っていないんですか?」
「シェフそのままやめちゃって、私一人でやってるんですけどね。三連休って皆お店で食べようって出かけるじゃないですか。忙しいの嫌なんでこっちもお店閉めちゃうんです」
書き入れ時が嫌で飲食店が来客多そうな日を選んで休店する!
私は衝撃を受けた。
「えっと、じゃあ少し先にクリスマスとか控えていますけどお店は……」
「するかどうか……しないかもしれません。お店の前通って開いてるな~って思ったら来てもらえるとありがたいです」
「そ、そうですか」
私は友達と予定を合わせてこの店に来ると言うことは諦めた。
予約の取れないレストランなんだもん。
その後友人と二人そのお店の近くに用事があって通りかかり、レストランの内部に灯りがともっていることに気が付いた。
予約を取れなかったことを知っている友人だ。よし、行ってみよう!と用事をすませてからそのお店を尋ねる。
ドアベルが鳴る中私たちを大人しそうな優しそうな女性が迎えてくれる。
「いらっしゃいませ、一人でやってるんでかな~~りお待たせしますけどそれでも良いならお席にどうぞ」
私は友人と苦笑を零しながらテーブルについた。
店内にはすでに四人家族が一組テーブルについていて、食事の途中だった。
味の想像は付かないのでオーソドックスな料理を何品か注文し、友人とやっとだねぇと言いながら待っていると、ドアベルの音が響く。
入店してきたのはカップルだった。
「すみません、一人でやってるんで今日の対応は満杯です。また今度利用してください~」
女性はカップルを断った。
今は夜の六時過ぎ。ラストオーダーは十時と書いているレストラン。
めっちゃ客数少ない。これで大丈夫なのかと不安に思いつつもお店の経営方針に口出しできるはずも無く。
頼んだサラダが到着してその彩の綺麗さに心が浮き立つ。
そこへ、家族のテーブルで男性がデザート頼みたいと声をかけた。
「こちらのお客さんの料理提供してからだったら受けます。今コンロかけてるんで急いでキッチン行きたいのでまた後で~」
早く注文してよと子供が少し騒いだけどお母さんに窘められていた。お店の人はカウンター越しで調理を続け、私達にお皿を配膳してからお決まりですかと家族のもとへと向かった。
別に怒っている訳でも不機嫌でもなく、淡々としている。客商売として妙に怒るお客が出てくるんじゃないかと心配はしたけど、料理は美味しかった。
家族が支払いをすませて店外へ出た後、またドアベルが鳴った。
さっきのカップルだったらしい。
「どう?入れる?」
男性の言葉にお店の方はどうぞと案内していた。
予約は取り辛いけど、地域に受け入れられている美味しいお店だなぁと友達と笑った。
でも友人何人かと日時設定しての女子会には使えないけどね……。