第8話 水底（みなぞこ）の村
沙也加とたすくは、湖畔のリゾートホテルの湖を見渡せるスイートルームにいる。
今回の依頼は、このリゾートホテルの支配人である。
支配人は説明する
「この部屋は湖の眺望が一番良い部屋なのですが、月夜になると湖の中に建物があると言うお客さんがいるのです。」
「写真とかはありますか。」
たすくが聞く
「これです。」
支配人はスマホに写真を表示し見せる、しかし、月明かりで水面が反射してよくわからない。
「支配人も見たのですか。」
「いいえ、私には見えません。」
「スマホの写真も見たお客さんから送信してもらったものです。」
「見える人と見えない人が居るんですね。」
「そうです、何とかよろしくお願いします。」
話し合いは支配人とたすくで行われ、沙也加は加わらなかった。
たすくは言う
「沙也加さん、今日はやる気ないんですか。」
「そうよ、１日部屋でのんびりしましょ。」
いつもはさっさと終わらせるのに今日は変だと思う。
夜になる月夜だ、沙也加とたすくは外を見る。
しかし、たすくには何も見えない
たすくが沙也加に聞く
「建物、見えますか。」
「見えているわよ昼からずうっとね。」
「どうして、黙っていたんですか。」
「このホテル気に入らないからよ。」
「どうして。」
「ここは土石流で村が丸ごと埋まっているわ、地質調査はしたのかしら、地鎮祭もあやしいわね。」
「どうするんですか。」
明日、経文を唱えて鎮めるわ.
たすくは支配人に明日、経文を唱えることを伝えると彼はいい返事をしなかった
「他にホテルのイメージを壊さない方法はないのですか。」
「この方法が一番ですよ、放っておく方がまずくありませんか。」
支配人は渋々了承する
「沈んだ村なんてある方が悪いんだ。」
とか独り言を言っている。
彼は知らない、自分の愚痴が悲劇を呼ぶとは・・・
たすくが部屋に戻ると沙也加は帰り支度をしている
「直ぐ、ホテルを出るわよ。」
「どうして。」
「危ないわ、逃げるのよ。」
そして沙也加はたすくを連れて受付に行く。
支配人に
「ホテルが崩れるわよ、早く逃げるように手配して。」
と言うが、支配人は先ほどのこともあり
「あんたたちは何なんだ、もういい出て行ってくれ。」
と怒り出す、沙也加は
「忠告はしたわよ。」
とホテルから出て行く。
沙也加とたすくは彼女の愛車アルファロメオスパイダーでホテルから離れる。
しばらくすると、地鳴りと共にホテルの周囲の地面が動き出しはテルは湖の中に倒壊する。
沙也加は、たすくに質問する
「あなたたち何かした。」
「僕は明日、経文を唱えることを伝えただけですよ。」
「他になかった。」
「そういえば、支配人が沈んだ村がどうとか愚痴を言ってましたけど。」
「支配人、知っていたのね。」
たすくが支配人に明日のことを伝えに行って、少しした後、沙也加は大人しかった湖底の霊たちが怒りに震えだすのを感じる。
それは、建物が揺れる幻覚を呼び、めまいがするほどである。
沙也加の直感はこのホテルは危ないと告げている。
そして、たすくを連れて避難したのである。
地滑りによるホテルの倒壊は大きなニュースになった。
もともと、ホテルの立っていた場所は、地元では地滑りの起こる場所として知られており、湖底に昔の村が埋まっていることも言い伝えがあったらしい。
マスコミはホテルの建て方に問題があったのではと騒いでいるが、沙也加にとっては依頼料をもらい損ねたことが痛いのである。
