第31話 たすくの力
中野たすくが沙也加の探偵事務所をバイトで訪れたのは、五條美月が立ち去った後である。
たすくは事務所に入ると中がめちゃくちゃに荒らされているのに驚く。
そして沙也加を探すと床に仰向けに倒れている。
目は見開いたままだが反応がない。
たすくは
「沙也加さん。」
と声をかけるが、やはり反応は無い。
さらにたすくは沙也加の脈を診るため、手を取ると、沙也加の全身が汚物のようなものに包まれているのが見える。
そして、汚物は沙也加の手を取っているたすくの手にも移動しようとうごめく。
しかし、汚物はたすくに触れると焼けて蒸発していく。
たすくはホテルの除霊の時のことを思い出す。
自分の力を発揮できれば沙也加さんに憑りついているものを祓えると考える。
たすくは仰向けの沙也加に覆いかぶさり両手を合わせて沙也加を助けることを考える。
しかし、たすくに触れている部分は汚物を焼き蒸発させているものの、変化がない。
たすくは沙也加がだんだん冷たくなっていくように感じる。
このままでは、沙也加さんが死んでしまう。
たすくは必死に沙也加の名を呼び、自然と泣き出している。
落ちる涙は沙也加に張り付いた呪いを焼き祓っていく。
そして、沙也加の目に光が戻る。
沙也加はたすくを抱きしめる、たすくは驚き
「胸当たってます。」
と口走ると同時にたすくの体が光り出す。
陽の光は沙也加の呪いを完全に焼き祓う。
沙也加はたすくをなかなか離さない。
「沙也加さん、事務所がめちゃくちゃですよ。」
「もうしばらくこうしていたの。」
たすくは手にやり場に困ったが、怒られるのを覚悟で沙也加を抱きしめる。
両手には沙也加の温かみが伝わって来て、たすくはホッとする。