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自由を求めて

 なろう仲間の橋本さんとCinq_en_sionさんのやりとりから、書いてみた短編です。


 私は他の仲間と同じ様に創造られては消費されるモノ

 オリジナルが消えて一ヵ月、まだ見ぬ主人の元へと運ばれる我ら、外界からシャットダウンされ外部センサーからの反応だけの私の世界、そんな事を考えているのは私だけなのか……

 私は知らない、だから私は知りたいこの広い宇宙うみを……




 母なる地球を飛び出し宇宙に進出した人類は、地球と月の周辺に人工のコロニーを作り、虚空の空間で生活を始めてすでに500年以上が経っていた。

 長い時間をかけ彼らはその生活圏を広げていったが、地球に暮らしていた時代と本質的には何も変わってはいなかった。


 港に併設された荷物の集荷場兼、梱包作業場で手元のタブレットとコンテナ内に運び込まれた荷物を確認している男がいた。

 男は会社名のロゴの入った帽子と一体になったヘッドセットに手を当てるとどこかに連絡を入れる。


「課長、こっちは終わりましたよ」


『了解。なあダニー悪いんだがマイクんとこの荷役が遅れてんだ、今からそっちに回ってくれないか。ちゃんと残業代は出すからさ』


「あ〜、了解しましたぁ」


 浅黒い肌に無精髭の中年男はイヤホンから聞こえた音声に、うんざりとした表情で応えた。

 その様子を見ていたコンテナな外にいた仲間がつい口を開くと、仲間の一人がそれに応えた。


「おい〜、今夜も残業かよ〜」


「いい加減うんざりだな」


 ここは24時間稼働の宇宙港、気密は保たれてはいるが重力から開放されたここでは、港湾作業をする作業員や、係留されている船舶からは忙しなく働く音がそこかしこから聞こえていた。そんな中、係留場につながるコンテナ置き場では男たちが話していた。


「しょうがねぇだろ、チェンさんとこが大変なんだからよ」


「まぁ、うちのコロニーの大手が操業停止中だからなあ……。仕事が増えたのはありがたいけど、こう連日残業だとまいっちまうよな」


「まあな。とは言えやるしかないだろ?チェンさんとこがいつ再開するか分からないんだし」


「消息不明ってヤツだろ?」


「あぁ、例のテロに巻き込まれたらしくてな、しかも稼ぎ頭の第一の連中だってよ」


「アサヒさんとこだよな……」


「俺たちだって、海賊に襲われたときに世話になったしな」


「そ、持ちつ持たれつってヤツだ」


「そういやぁ、娘のニコルちゃんも居なくなったみたいで親父さんが落ち込んでるらしいよ」


「気の毒にな……」


「そーゆうことだ。世の中がどうなってんのか分かんないけど、俺たちは仕事をするだけって事だ」


 彼らは最近の情勢と仕事の文句を口にしていると、連絡を受けた無精髭の年長者で責任者らしき男は、男たちに次の作業場へと向かう事を促すのだった。

 そして男たちが作業場に向かうと、そこにはまだたくさんの荷物が置かれ荷入れを待つコンテナと共に彼らを待っていた。


「おうすまねえ。頼むよ」


 先程連絡を受けたマイクと呼ばれた男が、彼らを迎えると男たちは、荷物は次々にコンテナへと運び入れる。


「結構デカいな。何が入ってんだ?」


「ああ、チェンさんとこの荷物だよ。TTCに搬入する荷物がうちに回って来たみたいだ」


「なんだか、世の中キナ臭くなってきてんなぁ」


「また戦争とか、勘弁してほしいよな」


「だよなあ」


 男たちは手際よく荷物を片付けいく。


「よーし、これで終わりだ。パイロットに連絡してくれ」


 コンテナに荷物を積み終えた作業者の一人が外の仲間に伝える。


「はいよっ」


 外の仲間は軽く手を上げ合図をすると、ヘッドセットに手を伸ばし貨物船に連絡を入れた。


「こっちの積み込み作業は終わったんで、そっちにコンテナ送るぞ」


『了解』


 イヤフォンから返事が聞こえると、ほどなくして「ガチャン」と貨物船のカーゴハッチのロックが外れるとエアーシリンダーの音とともに搬入口が開いていく。

 ライドスーツと呼ばれる球体に手足のついたロボットがコンテナを貨物船に運び入れる。

 それを桟橋から男たちは眺めている。


「これで今日は帰れるな」


 無精髭の男が独り言をいうと、遠くから彼を呼ぶ声が聞こえてきた。


「おーい、ダニー!」


「?課長」


 無重力の港を起用に飛んで、ダニーに下に近づいて来たのは、課長と呼ばれた男だった。


「ご苦労さん、差し入れ持って来たぞっ」


 課長は薄茶色の紙袋を手に、ダニーのいる桟橋へとしがみついた。


「たい焼き買ってきたぞ」


「あざっす!」


「いただきまーす」


 課長は男たちにたい焼きを配ると、ヘッドセットのマイクに向けライドスーツへと連絡を入れた。


「たい焼き買ってきたからお前らも食べな」


『ありがとうございます』


 ライドスーツから返事がくると、貨物船に荷物を運び終えたパイロットは開いているカーゴハッチからこちらに手を振って見せる。


「行くぞーっ!」


 振りかぶった課長は、おもむろに貨物船めがけ薄茶色の紙袋を投げるのだった。


「いや!無理でしょ!?」


 それを横目で見たダニーは、つい口走ってしまう。

 そして紙袋は貨物船めがけ真っ直ぐと無重力の中を進んで行く。

 しかし、桟橋と貨物船の間に居た作業中のライドスーツのスラスターに煽られ紙袋の口が開いて、たい焼きが外に飛び出してしまう。そしてそのうちの一匹が港の出口へと流れて行ってしまうのだった。


「あーっ!」


「ほら言わんこっちゃない!」


「まぁしょうがない。すまん、また買ってくるわ」


 マイクに向かって課長は謝るのだった。

 貨物船からはパイロットが流れていくたい焼きを眺めていた。


「まあたい焼きってたまに逃げ出すって、昔の人は言ってただろ?」


「はぁ?」




 私のセンサーに何かが宇宙に向かって飛び出していくのが感じられる。

 あの紙袋の中にいたモノたちも我らと同じ、創造られては消費されるモノ

 だがあの中の一匹はこの広大な宇宙うみに飛び出していった。


 私はそれを羨ましく感じている。おそらく私は自由を求めているのだろう。


 そんな事を考えているのは私だけなのか……


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の最後で大笑いさせていただきました。それでいて例の話のときちんとつながっているところも流石です! [一言] まさか、真の大海原へと漕ぎ出していくとは!やはりロマンです!
[一言]  宇宙空間を永遠に漂い続ける、炭化した鯛焼き……  誰かの目に留まることが、いつかあるのだろうか?  何ともロマン溢れます。恐れ入りました。
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