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04.JKゾンビ、スマホを使う

無事充電が開始されたスマホを手に持ち、通知を確認する。メッセージアプリの通知に「5」と表示されている。

そのうち三つはお母さんからだった。一つ目が今日は避難所に行けそうにないということ、二つ目が既読にならないけど大丈夫かというもの、三つ目は不在着信。


もうすぐ八時だし、心配してるよね。それにもう学校には来なくてもいいということも伝えないといけない。でも、今の自分の状況をどう説明したらいいのか難しい。『ゾンビになって生きてるよ』なんて書いて送ったら、こんなときにふざけないのと叱られそうだ。困った。ちょっと、保留。


残り二つは友達からではなく、企業系の通知だった。ゾンビパニックが始まってから、普段はたくさん来ていた宣伝や広告がどんどん減っていった。確かに企業も今はそれどころではないのかもしれない。逆にこんなゾンビパニックの中で送ってくるのはなんだろうと思ったら、ひとつがよく行くショッピングモールの臨時休業のお知らせで、もう一つは市の避難情報だった。いや、避難って言われても、もうゾンビだしなぁ。そしてこんな時にわざわざ臨時休業を知らせるなんて日本人は律儀だなぁとも思った。


でも、メッセージはこれだけか。いつもは誰かが何かしら書き込んでいるグループトークも今は更新されていないから、みんな離れ離れにならず一緒に過ごしているのだろう。それだったら、こっちじゃなくて、呟きのほうが状況がわかるかもしれない。


アプリを開いてみると、タイムラインがゾンビのことでいっぱいだった。


『避難所にゾンビ出現したけど、無事避難できた』

『なんとか逃げたけど、この街から離れたほうがいいかな』

『噛まれてすぐゾンビ化するとは限らないっぽいから、厄介かも』


少し遡ってみたけど、一時間前くらいから書き込みが増えているようだ。きっとみんなどこかに逃げ延びて、今は落ち着いてるのだろう。グループのみんなの書き込みを見て、たった数時間前なのに懐かしい気持ちになる。

いいなぁ、みんなはおそらく人間のままなんだろうな。


ただ、いくら遡っても『友達がゾンビになった』という書き込みはなく、私の存在がなかったものになっているようで悲しい気もする。楽しい話題でもなんでもないからSNSで書くようなことじゃないかもしれないけど。少しくらい悲しんでいてくれたらいいなと思う。


って、ダメ! 私はポジティブゾンビ! ちゃんとこれからのことを考えよう。

でも、今の私の状況を最初に誰に連絡したらいいかな。

みんなは自分達のことでいっぱいだろうし、家族のほうがいいよね。となると、やっぱりお兄ちゃんかな。両親よりもゾンビになった妹をすんなり受け入れてくれそうな気がする。でも、お兄ちゃん研究室に籠りっぱなしだからなぁ。助けに来てくれるかな。


悩みつつも私は兄へのメッセージを打ち始めた。


『ゾンビになった。助けて』


ここまで打って、タッチパネルの反応が良くて普通に文字を打てることに自分でも驚いた。入力のスピードは落ちるけれど、漢字の変換も大丈夫だった。チャックはあんなに苦労したのに、電子機器が普通に使えるなんて不思議な感じだ。


メッセージはもう少し説明したほうがいいかもしれないけど、何をどう説明したらいいかわからない。でもさすがこれだけだと信じてもらえないだろう。


……あ、そっか。写真を送ればいいのか。百聞は一見にしかず、だ。本来ならこんな姿で自撮りしたくないけど、信じてもらうには一番早いだろうし、仕方ない。


カメラアプリを起動して、内側のカメラに切り替えて手を伸ばす。ってダメだ、これ。震えて撮れない。別にきれいに撮ろうなんて思ってないけど、自分が入らなければ意味がない。タイマーにして両手で持とう。


静かな室内にカシャッという音が響く。念のためにもう一回同じことを繰り返した。


よし、写りはまずまずだ。ちゃんと青白くて、ゾンビっぽい。いや、でもアプリで加工してるように見えなくもないかも。腐ったり崩れたりもしてないし、写真で見るとそれほどゾンビ感がない。ゾンビというか幽霊? もう少しゾンビっぽく見えるように加工すべき? いやいや、それはおかしい。というか、こんな時に冗談を言う妹ではないとお兄ちゃんは知っているはずだ。もういいや、送信っと。



返信を待っている間に、もう一度自分の姿を確認しよう。ここには全身鏡がある。

鏡のところまで椅子のまま動こうとしたけど、椅子のコロを動かすのには脚の力が必要で、今の自分には無理そうだと気づいた。楽しようとしたけど、ダメか。仕方ない、おとなしく歩くか。立ち上がったり座ったりのリハビリもしないといけないし。


机に捕まって立ち上がり、鏡の前まで歩く。そして、鏡に映った自分をじっくり眺めて思ったのは、想像していたよりは人間の頃と変わっていないということだった。違いは、青白く見えるほど肌が白いことと、目に生気がないこと、少し姿勢が悪いことくらいだ。


しかしそれは程度の差はあるとは言え、ニュースやネットで見かけるゾンビの特徴と一致している。ゾンビになりたてだと、まだ見た目は人間に近いのかもしれない。

ということは、ここから見た目が悪くなっていくのかな。悪臭を放ったりしたらどうしよう。そんなんじゃ、生き延びても全然嬉しくない。ゾンビ化のその後の情報を集めないと。スマホよりパソコンが欲しい。お兄ちゃん早く返信してよー!


その時スマホから音がした。兄だとしたらすごいタイミングだと思い、期待して私は頑張って歩いて机に戻る。画面を見るとなんとお兄ちゃんからの着信だった。しかし電話ということで、手が止まってしまう。

あー、そっか、声出ないって書かなかったから電話してきたんだ。どうしよう、取っても話せないのに。


電話の前でしばらく悩んでいたら電話は切れてしまった。そして不在着信の画面が表示されている。私は急いでスマホのアプリを開き、メッセージを打った。


『考えられるけど話せない』


送信すると、すぐに再度着信画面になる。今度はテレビ電話でかかってきた。メッセージより電話を好む兄らしいけど、私は話せないのになぁ。しかし今回は仕方なく電話を取る。

ちゃんと自分の姿が映るように、スマホを机に立てかけた。


画面の向こうからお兄ちゃんがじぃっと私を見つめている。まるで研究対象を注意深く観察するかのように見られている、ような気がした。


ゾンビになってしまった妹をどう思っているだろう。自分からは話せないので、私は兄が口を開くのを待った。


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― 新着の感想 ―
[一言] とても続きが気になら作品に出会えました 私は面白いと思います。 これからも応援します
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