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02.JKゾンビ、校舎を徘徊する

しかし、一体これからどうすればいいんだろう。ゾンビになったことなんてないからどうすればいいかわからない。


ゾンビといえば映画で見たくらいの知識しかない。お兄ちゃんがそういう映画が好きだったから、一緒にゾンビ映画も何作か見ているけど、そんなに詳しくはないと思う。

そうだな、確かゾンビ映画で登場人物の一人がゾンビになったら、その登場人物はそこでフェードアウトするのが一般的な展開だったと思う。他のメンバーは逃げたり、安全な場所を求めて移動したりするから、脱落者はそこに置いていかれるパターンが多かった。


まさかゾンビがこんなにしっかり思考できるなんて思ってもなかったから、脱落者のその後なんて考えたこともなかったけど、彼らはゾンビになった後どうしていたんだろう。いや、フィクションの世界だから考えても仕方ないんだけど。でも、作り手のマニアックなこだわりとかで、参考になったこともあったかもしれないし、もっと真剣に観ていればよかった。次観る機会があれば気をつけよう。……いや、ないか。ゾンビがゾンビ映画観るとかどんなコメディだよって話だ。


まぁ、とりあえず言えることは、私は物語の大筋から離れた向こう側の存在になってしまったということなんだと思う。不本意だけど。


しかし校舎の入り口なのに、見渡す限り誰もいないし声も聞こえない。既にみんなここから脱出してしまったのだろうか。それかどこかの部屋に立てこもって落ち着くのを待っているとか? そういえば逃げずに立てこもるタイプの映画も観たことある。でもそれって数人が物資を求めてこっそり動いたりしてるんだよね……。そこまで考えて、出来る限り素早く(とはいえゆっくりだけど)振り返ってみた。しかし、後ろに人の気配はない。


……いないよね、やっぱり。ま、その物資調達の展開って基本ゾンビに囲まれて身動き取れない状況だから今とは全然違うか。だって、今ここにはゾンビは一体もいないんだから。って、自分で考えて悲しくなる。私はこの先「一人」でなく「一体」でカウントされるんだ。地味に(こた)えるかも。


だけど、誰もいない夜の学校はさすがにちょっと不気味だ。電気が付いている点は助かったけど。できればこのまま切れないでいてほしい。真っ暗だったらさすがに怖すぎて動けなかったと思う。自分がゾンビでもやっぱり闇は怖い。


さて、どこに行くか決めないといけない。人と出会ったら攻撃されそうだし、なるべくまだ会いたくはない。だって私はゾンビになりたてで、まだこの身体に慣れていない。歩くのだって、よろよろしている。こんな状態で攻撃されたら負けるのは確実だ。となると、障害物が少なくて見通しのきく、少し広めの場所に行く方がいいだろう。


でも、グラウンドや外は今どうなっているのかわからなくてハードルが高い気がする。さすがにそこは未知の世界すぎて躊躇(ためら)ってしまう。やっぱり、ひとまず校内で慣らすしかないだろう。せめてもう少しスムーズに歩けるようにならなくては。もしかすると、このローファーは脱いだほうが歩きやすいのかな? 若干脚を引きずるのは靴のせい? でも裸足はなー、ちょっと嫌だ。それに靴下をうまく脱げるかわからないし。やっぱりこの靴でちゃんと歩けるように頑張ろう。

私は、校舎内へと進んでいった。


確かゾンビには「歩くゾンビ」と「走るゾンビ」があるとお兄ちゃんが言っていた記憶がある。走るゾンビは比較的新しい概念だったような。今の私はどう考えても走るのは無理そうだ。ということは、歩くゾンビタイプ? それとも慣れたら走れるようになるのだろうか。でも、慣れるのかな、これ。なかなか足が前に出てくれなくて、一歩がすごくゆっくりになってもどかしい。

昔から水泳をやっていて、体力には自信があったのに。無駄な肉は付いていない自慢の脚だったのに。本当になんでこんなことに。こんな身体ではもう泳ぐことは無理だろう。きっと水に入った途端溺れてしまう。そして、ゾンビが溺れても誰も助けてくれない。あー、本当に辛い。


少し落ち込みながらも、目的地である食堂を目指して進んでいく。別にお腹がすいているわけではない。階段を使わずに行けて、そこそこ見通しのきく場所はたぶん食堂くらいしかないと思ったのだ。ただ、食堂はこの校舎の隣の建物なので、廊下をずっと進んでいかなくてはならない。


人が飛び出して襲ってくるかもしれなから、一応扉には警戒している。って、それだとゾンビ映画と反対じゃないか。夜の校舎を歩くゾンビなんて怪しさマックスかもしれないけど、でも私は何もしないと誓うから、どうか襲ってこないでほしい。私はただ歩く練習をしているだけで、理性のある無害なゾンビです、たぶん。


ようやく三分の二くらいのところまで来たかな。人間の頃だったら、食堂まで二・三分くらいで着く距離だと思うけど、結構時間がかかってしまった。でも一番最初の歩き始めの頃よりはスムーズに脚が動くようになった気がしないでもない。なんだろう、力の入れ方のコツが掴めてきている気がする。もしかして、これは慣れたら走れるようになるかな。何事も反復練習と諦めない心が大切だし、走ることも目標のひとつに考えておこう。だって、ほら、ポジティブゾンビだし。目標は大切。忘れないようにメモしなきゃ……って、そうだ。スマホ!


なんでこんな大切なことを忘れていたんだろう。スマホは絶対必要。ないとか無理。ゾンビでもスマホはいる。だってたぶん文字くらいなら打てるもん。あれは私にとっては唯一のコミュニケーションツールかもしれないのだ。


どこだっけ……。あ、カバンの中だ。きっとそう!

さっき目を覚ました場所にはカバンはなかった。ええと、そうだ、逃げたときに置いてきたんだ。となると、場所は……、保健室か。


うわー、最悪。

そう思って、私は歩くのをやめた。食堂と保健室は真逆の方向にある。

あー、もう。だいぶ歩いたのに、引き返さないと。来た道を戻るだけだから、さっきより気は楽かもしれないけど。でも万が一、こっそりこちらの様子を窺ってる人がいたら、絶対無意味に徘徊してるように見えるやつじゃん。違うのにー。目的を持って動いてるのにー。


はぁ。思わず長いため息が出る。でも仕方ない、スマホはなんとしても確保しないと。ゆっくりと方向転換して、もと来た道を見つめた。遠いなぁ。でも、行くしかない。私は「リハビリリハビリ」と自分に言い聞かせた。


ただ、もしかしたら保健室には誰かいるかもしれない。そう思うと気が重い。みんながいたら、どうしよう。声が出ないから説明もできないし。

念のためもう一度、小さく声を出してみたけど、やはり(うめ)き声しか出てこなかった。


みんな逃げていますように。

そう念じながら、一歩ずつ歩き始めた。


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