1.出会い
「…ーい、……ってば、お…い、おい!」
暗がりの中に響く声。
はっとして目を開けると、そこにはせいぜい12.3才の少年がいた。
「ずーっと呼んでのに。レイったら目全く覚まさないんだもん」
少年は、ちょっとくすんだ赤髪に光を受けたハチミツみたいに輝く黄色い目で、こちらをじっと見つめてくる。
「…誰」
ぷくっと頬を膨らませると、怒ったように言う。
確信したわ。こいつ絶対腹黒い。
「ひどいなあ。
俺はキミのナビゲーター。タニオカさんに頼まれたんだ。レイを頼むってさ」
…ん?
回りを見渡すと、レンガ造りの町並みが広がっていた。
俺はご丁寧に、噴水に腰掛けている。…中に入っているのは小銭か?こんなとこでも金を噴水に投げ入れる文化があるのか?っていうかここまで来たらここただのヨーロッパじゃないか?
「ってここどこおおお!?」
「しーっ、うるさいなあ。黒髪黒目なんて目立つカッコしてんだから余計に注目浴びるようなことしないでよ」
確かに、誰も彼もが鮮やかだ。赤、青、緑、紫。ビビッドカラーからパステルカラーまで、色んな色があって…なんだかきれいだ。
…あのショッキングピンクほんとに地毛か?
「てかさ、お前俺の質問に答えろよ。どれ一つとしてちゃんと答えてねーじゃん」
すると、待ってましたとばかりに胸を張る。その拍子にちょっとだけ大きいサロペットの紐が肩から落ちる。
「聞くまでもなく、ここはキミの世界だよ。通常ならこんな下界に降りて生活なんてないけど、レイがすっかりここのこと忘れちゃったみたいだからさ。タニオカさんの計らいで、まずはここのこと思い出してもらおうって訳さ。
ちなみに俺のことはワンって呼んでくれ。タニオカさんのお使いだよ」
「へー谷岡が…」
と言ったところで思い出した。
そうだ、俺あいつに殺されたんじゃん。
「あの、さ。ちなみにあっちの世界の俺って…どうなったの?」
「知らない」
あっけらかんとした答え。
まじか。あいつのお使いなら知ってるもんじゃないのか?
「タニオカさんの考えは分からないし、基本別の世界のことなんて知ってるもんじゃないし。俺やレイが特殊なんだよ。」
…まあ、普通異世界がどーのこーの言われても分かんないよな。
そういうもんか。
「ま、キミはこれから俺とこの世界を渡り歩いて行くことになるんだけど」
ワンは気取ったようにそう言い、手を差し出した。
「よろしくね」
「…おう」
俺とワンの出会いは、ここからだった。