0.プロローグ
俺は、普通の高校生だったはずだ。
そう、今日だって普通に電車乗って、学校行って、授業受けて、寝てたところ先生に頭叩かれて、提出した宿題は最低評価のDで返されて、昼の時間になって学食に行った友達を見送って、ピンで屋上の鍵開けて、生徒が行く想定で作られていないためフェンスの無い屋上のへりに座ってたはずだ。
なんなら今ちょうどその状況だ。
なのになんだ、こいつは何を言い出すんだ。
「ほら、お前覚えてないじゃん。」
目の前にいるのは高校における俺の唯一の仲間、谷岡。
幼馴染み…腐れ縁で、何故か幼稚園からクラスが全て同じ。
それで、俺がこいつと話さない線はあり得ないのだが。
何を隠そう、谷岡はモテるのである。
とんでもなくチャラいが。
もう一度言う。
とんでもなくチャラい。
ビモクシュウレイ、ブンブリョウドウ…だったか。
保護者会で親どもがそんなことを囁いていた気がする。
スポーツ推薦でこの高校に入っている俺にはよく分からないが。
まあすなわち、イケメンだってことだ。
告白された数も指で数えきれないだろう。
全てフっているらしいが。
だが今。
そんな完璧…イケメンチャラ男が、俺にとんでもないことを言うのだ。
「お前は神だっての。」
現実的にそんなことあるわけない。
第一、俺が神だったら…もっと裕福な暮らしがしたかった。
「…やっぱお前ん家借金あったんかよ」
「んな訳ねーだろ」
とは言いつつも。
なんでお前が知ってんだ…?
「俺も神なの。俺はこの世界の神なの。お前は別の世界の神なの。」
「…は?」
確かにこいつはラノベが好きだった。
まさかここまで影響を受けてしまっているとは…
「…分かってくれないなら話続けるけど。いい?」
「ん」
ひとまず話を聞こう。
考えるのはそれからだ。
「すっかり忘れちまってるけど、お前は神なの。で、今は休養期間ってことで俺の世界に転生させてやってんの。
でも、そろそろ潮時ってこった」
「…は?」
転生…?
ここが異世界、ってことか…?
だが、考える時間もなかった。
「じゃ、そういうことで。お前は元の世界に帰れってことだ。
じゃあな。また会えたら、そんときはよろしく」
真っ青な空に、遠ざかっていく谷岡の姿。
これでもか、と体を強く地面に打ち付け、生暖かい液体が背中に広がっていくのを最後に、目の前が真っ暗になった。