魔法学校
俺たちは適当な酒場に入ることになった。
「なんでも頼むといい」
「言ったな!? めちゃくちゃ食うからな俺は! 後悔すんなよ! すみませーん!」
俺は店員に食べたい料理を全て頼んだ。こう見えて我が一家は大食らいだ。食わなくても大丈夫だが、食おうとすればいくらでも食える。
そこから食べ物が届くたびに、バクバクと俺は食べる。
「さて、まずは聞かせてもらおうか。いったい君は何者だ?」
「あんた親に教わらなかったのか。人にものを尋ねる時はまず自分からだ、もぐもぐ」
「おっと。それもそうだ。僕はアーノルドと言います。騎士をやらせてもらってる」
彼、アーノルドはそう言って礼儀正しく頭を下げた。
彼は金髪で整った顔をしている。ちなみに髪は長く、後ろで三つ編みにしてぶら下げている。身長も高く、180センチ後半はあるだろうか。筋肉もついていて男らしい肉体だ。
「そうか。アーノルド。俺はクオンだ、よろしくな」
「冒険者じゃないよな。出身はどこ?」
「悪いけど自分の話をする気は無い。用件だけを手短に言ってくれ」
知らない人にペラペラと話すな、と父さんからよく言われたからな。
「手厳しいね。いいだろう。推薦状を持っていようと騎士団に入るには条件がある。B級以上の冒険者としての経験か、魔法学校の学位だ」
「それなら問題ないぜ。俺は騎士団とやらに入る気は無い」
「へっ? 本気で言ってるのか?」
アーノルドは素っ頓狂な声を出してそう言った。
まぁ冗談じゃないから本気だな。
「ああ。俺はそんなものに興味ないんだ」
「おいおい、騎士団といえば男の憧れ。冒険者になってる奴も殆どが騎士団になりたがってるだろ?」
「どーでもいい」
「……じゃあ何に興味があるんだ」
「探し物しててな。金彩っていうお酒さ。最高級の大和酒らしい」
「酒? ふむ……最高級の大和酒か。僕も大和酒は好きで嗜むが……それなら探すのに良い方法がある」
「何? どんな方法だ!?」
俺は食べ物を食べながら身を乗り出して尋ねる。
「高級な酒となると貴族クラスの人じゃないと手に入らないだろう。とはいえ日常でそのレベルの人と話す機会はあまり無い。ならどうするか?」
「どうすんだよ」
「魔法学校さ。あそこは基本的に金が必要だから、貴族の息子なんかが集まるんだよ。恐らく君とは同年代の子が多いだろう。仲良くすれば親がその高級酒を持っている可能性がある」
なるほど。子供から狙っていく戦法か。確かにそれならゼロから探すよりもよっぽど効率は良いな。学校か。島ではそんなものなかったし、知識はじっちゃんから教わってたし、そもそも本でしか存在を知らないからな。実は結構興味ある。
「ちょっと興味はあるけど俺金ねーぞ」
「その点なら平気だ。君が冒険者ですらないと分かった時点で学校には特待生として入れようと考えていた」
「得体の知れないやつに、太っ腹だな」
「これでも僕は人を見る目は確かだと自負していてね。君はここで逃すには惜しい人材だと思ったのさ」
そんな褒められるほどすごい人物じゃないと思うけどな……まあ否定して取り消されても困るから黙っておこうか。
俺は沢山あった料理を全て平らげて、フォークを皿に置いた。
「わかった。その魔法学校とやら通わせてもらう」
「よかった。君なら卒業を待たずにすぐに学位をもらえるはずさ。そしたら騎士団に入団してもらうけど、かまわないよね?」
「ああ、もちろん」
もちろん騎士団なんかに入るつもりはさらさらない。いざとなったらバックレれば問題ないだろう。
利用するだけ利用させてもらおう。
「まったく偉い人の道楽で困るのは僕たちだよ。腕相撲大会の優勝が騎士団の推薦状とはね……騎士団の栄誉を何だと思ってるのやら」
「大変なんだな、あんたらも」
「まあこうやって掘り出し物に会えたから結果オーライかな。それじゃあ早速学校に――」そうアーノルドが切り出したとき、
「あの」突然女の子の声がそれを遮った。
声の主は、青い髪をした美少女。S級冒険者のルナフレアだった。
なんでここに?
「君は、ルナフレアちゃんか。どうしたんだい」
アーノルドはそう尋ねる。
「話は聞いていた。私も、学校に入りたい」
思いもよらぬ発言だった。
「騎士団に入りたい、じゃなくて学校に? どういう風の吹き回しだい。君はさんざん騎士団の試験を受けに来てただろ?」
「散々受けた。そして面接で全部落ちた」
ルナフレアは面接での悔しい思いを思い出したのかちょっと涙目になっている。
騎士団の試験って強さだけじゃないのか……だから推薦状で試験をすっ飛ばそうと考えてたんだな。
「私にはまだ足りないものがある……たぶん。だから、そこにいる男について行って、いろいろと学ぼうと思う」
「え、俺?」
思わぬ指名に驚いた。
アーノルドは意外だったのか、ルナフレアを興味深そうに見ている。
「よし、わかった。僕の紹介でルナフレアちゃんも魔法学園の入学を認めよう。とはいえ入学費用は払ってもらうよ?」
「大丈夫。お金ならクエストで稼いだものが余ってる」
「なら善は急げだ。早速、魔法学校に向かおう」
アーノルドはそう言って席から立ち上がった。
俺はルナフレアの方へと向いて、握手のために手を差し出した。
「よろしくな。俺はクオンだ」
「よろしく。私はルナフレア」
ひんやりとしたルナフレアの手を掴み、俺たちは握手を交わした。
「ルナフレアって可愛いな。俺と結婚しないか?」
「クオンって……変な人?」
その後アーノルドについて行って魔法学校とやらに到着した。そこは王都の中心近くに位置しており、巨大な施設だった。敷地には魔法を訓練するための広大な演習場があり、学び舎は三階建てだ。城のようだった。
「す、すげー! これが学校か」
来てよかった! そういえば酒を探しすぎて忘れてたけど、こういう景色が見たくて都会に行きたかったんだよな、俺。
俺はただただ目の前の建物に圧倒されていた。ルナフレアも口をあんぐりと開けている。
そのまま俺たちは、学校の中に入って校長室と呼ばれる場所に連れていかれた。
中にいたのは、ハゲてて髭を生やした中年のおじさんだ。とはいえ太っているわけでもないし、意外に筋肉はありそうだし、何より貫禄がある。俺は校長にじっちゃんに似た貫禄を感じていた。
アーノルドは校長にかいつまんで経緯を説明した。時々校長は相槌を打っていたが、話が終わるとにんまりとした笑顔で俺の方を見た。
「話は聞いた。面白い、とりあえずは『評価試験』を受けてみなさい」
校長はそう言ってきた。
「評価試験?」俺はそう尋ねる。
「ああ、入学した生徒がまず行うものだ。簡単な実技試験だと思えばいい。そこの成績をもとにして、クラス分けなどを行うのさ」
「ふーん。別にクラスなんてどこでもいいけどな。それより校長、金彩っていうお酒知らないですか?」
「金彩。ふむ、知ってはいるがあれは中々手に入るものではない。以前エーデル侯爵の祝いの式で少し飲んだことはあるが、その一度だけだな。あれは美味かった」
侯爵、か。随分と身分の高い人だな……。これは思っていたよりもはるかに難しい気がしてきた。
その後、少し話をして、俺たちは評価試験を受けるために演習場へと連れていかれた。
そこで少し待つように言われると、80人余りの生徒たちが集まってきた。どうやら俺たちの試験を見学するらしい。全員魔法使いとしての学校指定の制服を着ている。動きづらそうだ。
「なんだあの男。あれが特待枠? みすぼらしいな」
「女の方はS級冒険者のルナフレアらしいよ。可愛いぜ」
「男はいらねーからルナフレアちゃんだけ入ってくれないかな」
野次馬どもがなんか言ってやがる。おおよそ俺の批判だ。
どいつもこいつも、良いもん食って苦労してなさそうな顔しやがって、腹立つぜ。まぁ俺も島で特に不自由してなかったけど……。
あれで本当に俺より強いのか? まあ魔法学校なんて通ってる時点で俺よりは強いんだろうな……。
そんなこんなで、俺たちは試験を受けるのだった。
次回クオンの「普通」が普通じゃない事件が起こります
作者はポイントとブクマでやる気が上がります!
続きが読みたいと思われたら是非よろしくお願いします。