怪力無双
勇者タローのお披露目会も終わって、大広場の人々は解散した。さて、面白いものが観れたのはいいとして、酒の情報を探さないとな。
とりあえず、港町と同様に酒場にでも行ってみるか。広大な王都には角を曲がるたびに酒場があった。とても1日じゃ全部は回りきれないな。そう思ったので、適当な酒場に入る。
港町よりも賑わっているようだ。すごいな。
俺は一人席に座って、
「エールとミル鳥の串焼き一つ」
そう頼んだ。一杯300デリーなので港町よりも安い。王都だから高いと思ってたけど意外だ。
「なんだ坊主、その歳で飲めんのか?」
隣の席の腹がベルトに乗ってるおっさんが話しかけてきた。
「まあね」
ちなみに俺はそこそこ飲める。というか島ではほとんどの人がお酒に強い。女の人は弱いことがあったりするが、母さんが家では酒豪なのを見るとそれもわざとなんじゃないかなと疑っている。
「もしかしてお前冒険者か?」
「いや、違うよ。旅人さ」
「へぇ、今時珍しいな」
「そうだ。ちょうどよかった。おっちゃん金彩ってお酒知らない?」
「金彩っていやぁ、あれか。大和酒の中でも最高ランクの超高級酒だな」
「ヤマトシュ?」
なんだそれは初めて聞くな。
おっちゃんは子供の俺が珍しいのか、ペラペラと話し始める。
「お前さんお上りか? 東にある小さな島国を大和国っつうんだけど、そこで作った酒は品質が良いって評判で大和酒って言われてんだよ。その代わりべらぼうに高いって話だがな。その大和酒の中でも最上級にあるのが金彩だ。年に数十本しか出ないらしい」
「そりゃまた……手に入れるのが難しそうだな」
俺がそう言うと、おっちゃんはゲラゲラ笑い始めた。
「手に入れる? そりゃ無理な話だぜ。あんなもん貴族でも手に入るかわかんねぇ。諦めな。ここの安酒も悪かねえぞ?」
「安酒で悪かったな!」
店主が怒鳴り込んできた。おっちゃんはゲラゲラ笑っている。
それにしても、そんなレアなものだったとは……父さんはどうやって手に入れるつもりだったんだ?
あの人のことだから何も考えてないか……。
「よぅ、ガキ。超レアな酒を探してるんだって?」
不意に、後ろのテーブル席で飲んでいる男が話しかけてきた。
「ああ、そうだけど」
「今日午後から開始する【腕相撲大会】を知ってるか?」
「いや、知らない」
「たまにどっかの金持ちが道楽で開く遊びなんだが、毎回賞品は豪華なんだよ。そんで今回の腕相撲大会の豪華景品の中には、高級酒も入ってた筈だぜ」
「それ本当か? 今日のいつだ?」
「一時くらいって言ってたからもうすぐじゃねえかな」
店内に飾ってある魔道具の時計を見ると、今は12時50分ほどだった。あんまり時間がないな。
俺は串焼きをすぐに食べて、ジョッキを一気に飲み干した。
「うひょっ、いい飲みっぷり」
「マスター、エールをあそこの男に奢ってやってくれ」
俺は店主にそう言った。
情報をくれた男は「毎度」と言って楽しそうに飲んでいる。俺はお金を払って店から出て行った。この出費は少し痛手だが仕方ない。
店を出る時に、彼らは
「お前も悪い奴だな。あんなガキが筋肉バカどものいる腕相撲大会で勝てるわけねえのによ」
「ひっひっひ、俺は嘘は言ってねえよ。あー、タダ酒はうめえな」
そんな事を言っていたが、気にせず出て行った。
筋肉バカ……か。どんな怪力無双が出てくるのだろうか。おそらくそいつらには勝てないだろうから、高級酒が3位くらいの景品だと嬉しいんだけどな。
そう思いながら開催されてる場所へ向かうと、そこそこの人たちが集まっていた。受付に向かう。
「おっ、坊主誰に賭けるんだい? ちなみに今一番人気はS級冒険者【怪力乙女】のルナフレア! 対抗は前回の腕相撲覇者、ゴルゴンだ!」
「賭け? いや違う。俺は選手として参加したいんだ」
「ちょ、本気か? 君は冒険者リストでも見た事ないが……」
「俺は冒険者じゃない」
「まぁ誰でも参加は出来るけど……冷やかしは困るんだよね。参加料は500デリーだよ」
また金か……痛いな。
「あ、その前に賞品って何があるんだ?」
「三位まではあるよ。三位が高級菓子詰め合わせセット。二位が高級酒。一位がなんと騎士団への推薦状だ!」
「二位の高級酒はなんて名前?」
「へっ? 二位? 一位じゃなくて? 悪いけど具体的な名前までは主催者しか知らないよ。三位の菓子詰め合わせだってなんの菓子かは知らないんだから」
うーん、二位か。ちょっと厳しいかもな……。
三位ならなんとか頑張ればいけるかもしれないけど、二位か……。まぁやるだけやってみよう。
「わかった、参加する。名前はクオンだ」
そう言って俺は参加料を払った。
さて、あとはやるだけやってみるか……。
参加人数はかなり沢山いる。まずは、8つあるテーブルでどんどん勝ち残りを行なっていくらしい。
司会者らしき男が、ノリノリで大会の挨拶を始めだした。
「今回の大会の目玉は何と言ってもこれ! 騎士団への推薦状!!」
「「うおおおおお!!」」
選手たちが盛り上がっている。
騎士団に入るってそんなにすごい事なのか。全然ピンとこないが、まぁ俺には縁のない話だ。
その後適当にルール説明なんかをして、早速大会は開始した。ルールなんて言っても、普通に自分の腕がテーブルについたら負けなだけだ。
最初の相手は、タンクトップで筋肉がでかいおっちゃんだった。名前は、ゴルゴンというらしい。確か前回の覇者。いきなり優勝候補と当たってしまうとは……俺も運がない。
「ラッキーだぜ、初戦がこんなちっこいガキとはな。小指だけでやってやろうか? ぼーや」
ニヤニヤと笑っているゴルゴン。確かに彼は強そうだ。やってくれるなら小指だけでやってほしい。こりゃ最初っから全力でいったほうがよさそうだな。
【身体強化・最大】
俺は魔法を唱えて万全を期す。これでも勝てるとは思えないが、俺は俺なりに全力を尽くす。
「では、はじめぇ!!」
審判の掛け声とともに、勝負が始まった。俺は思い切り右腕に力を込めて振り下ろした。俺はその瞬間、まるで羽毛を相手にでもしてるんじゃないかと錯覚するくらい、相手からの抵抗が弱いことに気づいた。だがその時には力を込めてしまっている。
すると、
「うぎゃああああああああ!!!???」
――バキィドギャゴカッ!!!
相手の腕ごと机がぶっ壊れ、俺は咄嗟に魔法を解除して手を離したが、勢いが収まることはなく、そのままゴルゴンは地面に頭からめり込んだ。
腰のあたりまで彼が埋まったところで、ようやく勢いが止まった。地面に頭から突き刺さるゴルゴンは、なんだか前衛的なオブジェのようになっていた。
「お、お腹でも痛かったのかな……」
俺はそう呟いて、埋まっているゴルゴンを引っこ抜いてあげた。気絶しているし右腕はあらぬ方向に曲がっていたが、命に別状はなさそうだ。
審判も唖然としていたが、とりあえず俺は一勝をもぎ取ることができた。
ゴルゴン:これ以降力自慢をすることをやめる
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