人助け
すみません、訳あって一旦削除しました。
内容に変更はありません。
さて、と。あんまりキョロキョロしてても仕方ない。
持ってきたいかだはめんどくさいしここに捨てていこう。まぁ木だからそんなに害じゃないだろう。オールに使っていた木は、なんか収まりがいいし杖代わりに持っていくか。
とにかくなんだっけ。そうだ、金彩とかいうお酒を探すんだった。
栄えてる街ならあるかもって父さん言ってたよな。この街はめちゃくちゃ人がいるし、栄えていると見た! もしかして早速当たりを引いたんじゃないのか!
酒屋があるだろうから、探して聞いてみるか。
俺は適当に歩いている人に声をかけた。
「あの、すみません。酒屋ってどこですか」
「飲み屋ならここを真っ直ぐ行って右に曲がればあるよ」
「ありがとうございます」
俺はお礼を言って言われた通りの場所に到着した。
店の中に入ると、筋骨隆々の漁師や物騒な剣なんかを持った男たちが昼間から酒を飲んでいた。
俺は真っ直ぐと店主らしき男の元へと向かい、話しかける。
「あのー、すみません」
「おー? なんだ坊主。見たとこ冒険者でもなさそうだがミルクでも飲みにきたのか?」
「金彩って酒を探してんだけど、ない?」
「金彩ぃ? そりゃお前超レアモンの酒じゃねえか。こんな港町なんかにあるわきゃねーだろ」
なんだ、ないのか。
「じゃあどこにあんのさ」
「あー、そうだな。王都ならあるかもしんねぇ」
王都! 王都は確か前にじっちゃんに見せてもらった外海の地図に大陸の東の方だと書いてあったな。島との関係を考えるとここは恐らく大陸の南端だろう。
「そうか、ありがとうおっちゃん。行ってみるよ」
「えっ、おいまさか一人で行く気か!? 最近ここら辺は盗賊がうろついてて危ねえぞ」
「盗賊?」
「ああ。最近護衛を付けない奴らを狙って金品を奪い去っていく盗賊がいるんだよ。危ねえから行くんなら、そこら辺にいる冒険者の野郎どもを雇っていきな」
そう言っておっちゃんは席で騒いでいる男どもの方を指差した。冒険者、か。確か依頼を受けて日銭を稼ぐ人たちだっけ。
「いくらくらいで雇えるの?」
「ま、ざっと10000デリーってとこだな」
「い、いちまん……!」
今僕が持っている所持金が5000デリー。島で一食を食べるのに必要なのが300デリーくらいだからとんでもない値段だ。
というか今この酒場のメニューを見て気づいたけど、酒が平気で500デリーとかする……!
うちなら100デリーでジョッキで飲めるのに!
10000デリーなんてとても払える額じゃない。
「悪いけどそんなお金持ってないから自分で行くよ」
「おっ、おい死ぬ気か? 俺は止めたぞ!」
「ちょっと不安だけど、逃げ足には自信があるから、盗賊に見つかったら逃げるよ。じゃ、ありがとおっちゃん」
俺はそう言って酒場から出た。出るときに周りにいた男たちが「ありゃ死んだな」とか「かわいそーに」とか言っていたが、そんなに盗賊とやらは強いのだろうか。
じっちゃんに言われてたように、外海は強い奴が多いらしい。正直島でも別に強くない俺には盗賊なんて倒せないだろう。こうなったら盗賊と会わないように祈りながら王都までの道を歩くしかない。
俺は港町を出て、舗装された道を歩き始めた。基本的に周りには歩いている人なんていない。
みんな馬車に乗って護衛を付けているようだ。
別に【身体強化】の魔法でも使って走っていけばいいと思うんだが、なんでやらないんだろう?
俺は、【身体強化・中】を発動させて、走って王都まで向かうことにした。
のろのろと歩いている馬車たちを追い抜いてどんどん進んでいく。
なんだか追い抜くたびに視線を感じる気がするんだけど、気のせいか? もしかして走ってる田舎者が珍しいのかな……恥ずかしくなってきた。
途中走っていると、
「グルルルァッ!!」
こんな感じで2メートルくらいの犬みたいな動物が襲いかかってくることがあった。
「ごめんな」
ぽかっ。
「キャウン!」
襲いかかってくるから一応ははたき落としていくけど、無駄な殺生はしたくないので気絶程度だ。
こっちの動物もなかなか気性が荒いなぁ。大陸の動物は可愛いとか聞いてたんだけど嘘じゃん。まぁ黒い毛なのはちょっと格好良かったな。にしてもこんなのペットにしてる奴がいるなんて本当か?
そんな感じでノンストップで走っていると、道端で止まっている馬車を発見した。何やら数人の男たちが馬車の中にいる人に絡んでいるようだ。
「だからさっさと金目のもん寄越せよ!」
「わ、わかりましたからそのナイフを下ろしてください」
喧嘩か? 喧嘩はよくないぞ。
そう思って俺は近くで足を止めた。結構いきなりブレーキをかけたので、大量の砂埃が舞った。
「ぶわっ!? ごほっ、ごほっ。なんだ!?」
やべ、煙がそっちにいってしまった。
ガラの悪い男は3人か。
「あー、ごめんなさい。なんか喧嘩してるみたいだったから、つい気になって」
俺は謝りながらそいつらに近づく。
すると、男の一人がこっちに向かってナイフを向けてきた。
「ガキじゃねーか。へへ、いいカモだぜ。おい、死にたくなかったら金目のもの置いていきな」
これは……脅されてるのか?
いや、それにしては……なんというかあまりに『お粗末だ』。構えがなっていないし、何より隙だらけ。
演技でもしてるのだろうか。
「そこの少年! 逃げなさい! 早く!」
馬車の中から、同年代くらいの女の子が顔だけ出してそう叫んだ。
「てめえ! 動くんじゃねーよ!」
「きゃあっ!」
ガラの悪い男が女の子を蹴飛ばした。
おっと……演技じゃないなこれは。つまりこいつらは、『悪い奴ら』ってことだ。
俺は一歩踏み出す。
「おい! 動くなって言って――あがっ」
ナイフを持った男が何かを言う前に、俺は奴のみぞおちに蹴りを入れた。奴は呼吸することすらできずに、その場に倒れる。しばらく動けないだろう。
「てめぇ! 何しやがっ――あっ!?」
「ぐぁっ!?」
残りの二人も、何か行動を起こそうとする前に攻撃を加えて無力化した。
これで終わりだ。なんて弱さなんだこいつら。島にいる五歳児より弱いぞ。
「おい、あんたら無事か?」
俺は馬車の布をめくって、中にいる人にそう話しかけた。中にいたのは、先ほどの女の子と、初老の男性だけだ。
二人とも俺を見て驚愕の表情を浮かべているが、何かまずいことでもしたかな……。
「あ、あの……男たちは?」
女の子が恐る恐るそう聞いてきた。
「やっつけたよ。一応殺してない。あの弱さだと殺さない方が気を遣ったよ」
「や、やっつけた……本当だわ」
女の子と老人は馬車の外に出てきて周りを見た。
どうやら俺が言ったことが嘘ではないとわかったらしい。
「す、凄い。こいつらはここら辺を騒がせていた賞金首の盗賊だったはず。それを一瞬で……」
「盗賊ぅ? あはは、それはなんかの間違いだよ! こいつらめちゃくちゃ弱かったぜ。そいつらがそう言ってたんだとしたら、きっとその盗賊たちの名前を騙っていただけの偽物なんじゃねーかな」
流石にあんな弱いのに賞金首はねーだろ。
「そ、そうなの? どう思う? 爺や」
女の子は初老の男性にそう尋ねる。
「ふむ……まぁ確かにこのような少年に、モルグ盗賊団がやられるとも思えませぬ……きっと偽物でしょうな」
爺やと呼ばれている男は顎に手を当てながらそう言ったが、「いやでもそれにしても大の大人3人を一瞬で倒せるか普通?」
そんな感じのことをボソリと呟いていた。
いやこれくらい弱いと大人とは言えないと思うぜ。
「そ、そう……でも恩人は恩人だわ! あなた見たところ馬車を使ってないみたいだけど……どうやってここまで?」
「ああ、それなら歩いてきた」
「あ、歩いて!? 魔物も出るのに一人で危険だわ!」
「えっ、ここ魔物でんの!?」
マジかよ。めっちゃ無防備で歩いてたんだけど俺。
「ええ、レッドボアとかタイランドバチとか……でも一番恐ろしいのはハウンドドッグね」
「へぇ、強いのか?」
「ええ。黒い体毛、巨大な身体に恐ろしい牙。A級以上の冒険者じゃないと歯が立たないでしょうね」
「そりゃやばそうだな……」
そういえば来る最中に黒い毛をした犬にはあったな。でもあれはどう考えても犬だしな……。
「そうよ……でも困ったわ。私たちの護衛もいなくなってしまったし」
「え? なんで?」
「さっきの盗賊が現れるや否や一目散に逃げ出したのよ」
ええ? あんなに弱い奴らに?
どんだけ臆病なんだよ。
「そっかー、それじゃ俺が護衛しようか? 魔物出てきたらたぶん無理だけど、いないよりはマシだろ?」
「いいの?」
「ああ! 俺王都まで行きたいんだ」
「それなら目的地は一緒ね」
「おっ、じゃあ一石二鳥だ」
「それじゃお願いするわ。私はレ……レミよ」
「そうかよろしくなレミ。俺はクオンだ!」
こうして俺はレミとともに俺は王都を目指すことになった。
ちなみに馬車に乗る1番の理由は、走って田舎者扱いされることにいい加減恥ずかしくなったからだ。
モルグ盗賊団首領:その日から十五歳くらいの男子を見るとビビる身体になってしまう。
作者のやる気は感想とポイントで上がります!
続きが読みたいと思いましたら是非よろしくお願いします!