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お使いを頼まれる


 俺は山から降りて、家に帰った。

 すでに父さんと母さんが家にいたけど、何故か父さんが母さんにボコボコにされていた。

 母さんはいつもニコニコしていて優しいけど怒ると怖いのだ。


「な、何してんの」

「あらクオン、おかえりなさい。今ね、お父さんをボコボコにしているところよ」

「い、いや、それは見ればわかるよ……何したのさ父さん」


 ボロボロの父さんは俺に気づくと、腫れた目で俺に助けを求めていた。


「お、おぉ、クオン。聞いてくれ、俺は無実だ」

「お父さんはね、近所の未亡人のルリさんに手を出したのよ。駄目よねー、浮気は」

「ち、違う浮気じゃない。ルリちゃんが寂しいって言うからグボォア!!」

「何か言ったかしら」

「い、言ってません。すびばせん」


 隙のない一撃だ。今母さんがいつ殴ったのか見えなかった。こう見えても父さんは島ではかなり強い方だ。その父さんがこんな様子じゃ、母さんがどれだけ強いのか正直見当がつかない。


「クオンも駄目よ、浮気しちゃ。そんな事したらボロ雑巾みたいになっちゃうからね」


 いや、それに関しては母さんが特別な気がするんだけど。

 そんな感じで帰るなり公開処刑を見せられたが、落ち着いた後は食事になった。

 とはいえ父さんは包帯でぐるぐる巻きの上に、更には小さい人参しか皿に乗っていない。惨めだ。


「そういえばクオン、マサルが言っていたがお前外海に出たいんだってな」


 包帯巻きの父さんがそう尋ねてきた。


「え、うん」

「じゃあお前に頼もうかな……実は父さんは用事があって外海に行く予定だったんだが、こうなってしまっては行けない」


 まぁ父さんが悪いけどねそれ。


「代わりにクオンに行ってもらおうかな」

「え! いいの!? 行く行く!」


 外に行くチャンスなど普通無い。勝手に行こうとしたら、見つかり次第厳しい罰が与えられる伝統があるのだ。


「あ、あなた。クオンにはまだ早いんじゃ?」


 母さんが心配そうにそう言った。


「大丈夫さ。クオンも15歳だ。外の事を知るのも大事だ」

「まぁ……そうね、行きたいと言っている子を止める事も出来ないか」


 やれやれといった様子で母さんはため息をつく。


「いいかクオン。ニルバーナ島の人々は、代々この島で閉鎖的に暮らしてきた。たまに用があって外に行く事もあるが、許可を貰えるのは極少数の人間だけだ。何故かわかるか?」

「外海は危険だから?」

「そうだ。美味いもの、美人な女性、見たこともない娯楽。それは島で育った俺たちを優に堕落させ、危険な道に走らせる」


 美人な女性を見たことを思い出したのか、父さんは鼻の下を伸ばし始めたが、母さんににらまれてやめた。

 わが父ながら情けない。正直俺も美人には興味津々だけど。それよりも気になるのは強い奴らだ。


「化け物みたいに強い奴らは?」

「あ、ああ。も、もちろんそんなやつらもいる……たぶん」

「え? たぶん?」

「と、とにかくだ! 俺たちの力はむやみやたらに使ってはいけないんだ。仮にクオンが堕落して、悪いことに力を使うようになってしまったら、親である俺がお前を殺さねばならん」


 この島では正しいことに力を使うことを教えられる。だから間違ったことに力を使うなんてことをしたら怒られるどころでは済まないと思ってはいたけれど、まさか殺されるとは……。


「ま、俺なら大丈夫だよ! 今日も島に来てた何だっけ……『四低能』とかいう魔族をやっつけたからさ」

「していのう? 弱そうな名前だな。よくわからんがご苦労。話を戻すが、外海に出るには強靭な精神力が必要なんだ。わかったか?」

「でも父さんは女の人をみたらすぐおっかけるし精神力ないんじゃないかな」

「う、うむ。お前親相手になかなか言うね……だが俺には母さんがいたからな! 女の尻を追いかけていても家で待ってる母さんが怖くて……じゃなくて愛おしくて帰ってこられたんだ。クオン、お前はちゃんと帰ってこられるか?」

「もちろん! 俺はこの島が好きだからね。可愛い子がいたら連れて帰ってくるよ!!」

「お前は俺に考えが似てるから少し不安なんだが……まあいい、お前なら帰ってこられるだろう。クオンが島の外に出たがっているのは島の皆も知っている。許しも貰えるだろう」

「やった! んでその父さんがやるはずだった用事ってなんなのさ!」


 興奮してきたぞ!!

 俺は身を乗り出して聞いた。


 父さんは、やけに間をおいて重々しい空気を無駄に醸し出した後、

「お使いだ」

 そう言った。


「へ?」

「冬には島の祭りがあるだろ。実は今年で祭りは50周年記念なんだ。だから超高級の黄金酒、【金彩こんさい】を手に入れようってなってな。それを見つけに外海に行く予定だったんだ」

「さ、酒かよ」

「たかが酒と侮るなかれ。お前に見つけられるかな?」

「で、出来らぁっ!」


 思わず俺は机を叩いてそう言った。

 母さんといえばクスクスと笑っている。


「んでそのお酒はどこにあるのさ」

「大陸の栄えた場所にはあるかもしれんがよくわからん。超高級なお酒だぞ。そんなほいほい見つからんよ」

「そうかー、まぁ地道に探すか」

「まぁ行ってみるといい。外海の世界はお前が思ってるよりも遥かに広く大きい」

「そうだよな、この島の人達が目じゃないくらい強い人や魔物がいるんだろ? すげえよなー」

「んん、ごほんっ……そ、そうだな」


 父さんが何やら気まずそうに俺から目をそらした。母さんも目をそらしている。

 なんだ? うーん?


「あ、まさか父さん外海でやられた事があって恥ずかしいのか?」

「あ、はは……そうそう、そうなんだよ。クオンも気をつけろよ? ははは」


 なんだか歯切れが悪かったけど、そんな会話をしてその日は終わった。

 そして次の日。

 俺はそこら辺の木を適当に組んでお手製のいかだを作って、浜辺に置いた。


「よーし、行くか!」

「気をつけてねクオン。あ、そうそう、力の出し過ぎには気をつけるのよ。周りの人に迷惑になるから」


 母さんはそう言って俺の頭を撫でた。


「そうだぞクオン。外の人は無闇に力を出したりしない。目立つ事は避けろよ。田舎出身だとバレるぞ」


 父さんは過去にそんな事があったらしい。

 そうか、外の人はそこら辺の動物を狩って暮らしたりしないと聞いたことがあるな。

 田舎出身ってバレるの恥ずかしいし、なんかの罪で捕まるのも嫌だから目立たないようにしよう。


「じゃ、行ってきまーす」


 俺は、木の枝をオールがわりにしていかだを漕ぎ始めた。素手でやってもそんなに進まないけど。

【身体強化最大】

 こうしてやれば、一漕ぎでぶっ飛ぶ!


「ヒャッホーウ!」


 俺は水切りをする石のように風を感じながら海を渡っていった。

 そして、一時間もしないうちに俺は本土に到着した。

 港町だ。木でできた巨大な船や漁船が止まっている。初めて見るが、本でみたように本当に大きいんだな。


「人がたくさんいる」


 俺はキョロキョロと周りを見渡した。

 街には石で出来た家が並び露店が並ぶ道には多くの人が行きかっている。すごい! これだけでも島の人よりも多くみえるぞ!

 さて、ここから俺の『はじめてのお使い』が始まるってわけか。わくわくするな。

 俺はそんなことを思いながら、大陸の土を初めて踏んで一歩を踏み出した。

いかだに使われてる木の正式名称:神樹ユグドラシル


作者のやる気はポイントと感想で上がります!

続きが読みたいと思った方は是非お願いします!

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