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ニルバーナの伝説


 水龍は俺の方を何やじっと見つめている。


「何? 理から外れし? どういうことだ」


 俺は思わず尋ねてしまった。


「お主の魔力を視ればわかる。お主はこの世界の常識には当てはまらぬ。そうであろう?」

「まあ……変だなと思うことは沢山あったけど」

「小僧お主は何処から来た? 異世界か。はたまた過去か」

「いや俺はニルバーナ島っていう島から来たんだけど……」


 俺がそういうと、水龍は目を見開いて黙ってしまった。

 なんだ?


「ちょ、ちょっと。クオンがまた変なこと言うから水龍様が怒っちゃったんじゃないの!?」

「クオンは水龍様を目の前にした場でもジョークを欠かさない心臓が鋼鉄で出来た男、と……メモメモ」


 リリアとルナフレアがそれぞれそんな反応をしていた。

 いや……冗談じゃないんだけどな。これで怒られても困るぞ。

 そう思っていると、水龍はその大きな口で笑った。


「ふ……『伝説の戦闘民族』が遂に表舞台に出だしたというわけじゃな。変革の時は近いのか、此度の目的はなんじゃ。まさか魔王を倒すなどという陳腐なものではあるまい? 超越者か、冥龍王か。堕天使か?」

「魔王? いや、俺の目的はこのお酒を手に入れることなんだけど……」


 俺はそう言って抱えているお酒を見せる。


「は? 今なんと」

「いやだからこの金彩っていうお酒を貰いにあんたのところまで来たんだ」

「金彩……酒……」


 水龍はどうやら困惑しているようだ。

 さっきまであんなに迫力があったのに今はそのオーラが消えている。

 仕方ない。ちゃんと説明するか。


「俺の島で行われる祭りが50周年を迎えるから、その記念に超高級な酒としてこの金彩を手に入れるように言われたんだよ。んでなんだかんだでここまでたどり着いた」

「いや……ちょっと待ってくれ。祭り? そのためだけにこの我に会いに?」

「ああ、じゃないとお使いが終わらねえよ」

「お、お使い……。やはりお主らの種族は何を考えているのかわからぬ……。そもそもそれだけのためならその酒の産地である大和国に行った方が早かろう」


 さ、産地に直接行く。その手があったか。

 まあでもそもそも最初は大和酒ってことすら知らなかったんだけど。


「でも大和国に直接行って手に入るものなのか?」

「勿論手に入れるためにはかなり手ごわい魔物がいる場所に行かねばならぬが、ニルバーナの民なら平気であろう」

「いやいや、俺は魔物なんかと戦ったことは一度もないぞ。そんなところいっても魔物を倒せるわけがない」

「何を言っておる。まさか……お主は自分の種族の事も知らんのか」

「自分の種族? ただの人間だろ? ただ王都では何故かニルバーナ島がおとぎ話扱いされてたけど」

「なるほど。あくまで不干渉を貫くための策というわけか……。だがここにお主が来たのも何かの縁。望むなら、何故ニルバーナ島がおとぎ話になっているのかを教えようぞ」

「え、それは知りたい。教えてくれ!」


 それが分かればみんなと俺の意識の差の理由も分かるかもしれない。


「ならば話そう。まずお主が住むニルバーナ島、そこには昔ある一人の男がやってくるまでは無人島だった」

「無人島? ああでもそんな話は聞いたことある」

「その人間の男はニルバーナと言って、人外の力を持っており人間を何度も救っていた。彼は疲れたのか島で余生を過ごすことを決めて、付き従って付いてきた多種族の女どもと子をなした。その子孫がお主たちじゃ」


 え……つまりそのニルバーナさんはめちゃくちゃハーレムだったってこと?

 しかも多種族。な、なんて羨ましい野郎だ。


「人外の子孫は人外。子孫たちは圧倒的な力を有していた。それこそ世界を征服できるほどのな。だが彼らはそんなことはしなかった。何故か? それはニルバーナの遺言に従っていたからだ。外海の世界に下手に手を出すと、厄介ごとに巻き込まれた挙句利用されてろくなことにならないとな」

「そんな遺言無視するやついるだろ」


 俺だってそういうタイプだしな。

 まあなんだかんだ行かなかったんだけど……だってじっちゃんとか怒るとめちゃくちゃ怖いし。


「勿論掟を破って大陸を渡った者もいるが、彼らは欲に溺れ世界を脅かしたためにニルバーナ島の民によって粛清された。世界は突如巨悪を打ち滅ぼし幻のように消える彼らを『伝説の戦闘民族』と呼び、いつしかそれは童話となって読み継がれたのじゃ」


 なんだか話がでかくなってきたんだけど、これ本当の話か?

 あんまり現実味がないんだけど。


「ていうかそれ、悪も正義もニルバーナ島のやつなら、ただの内輪もめじゃん」

「そうじゃな。だがただの内輪もめが語り継がれてしまうのが伝説の戦闘民族の恐ろしいところじゃ。そこの小娘」


「ひゃ、ひゃいっ!?」


 唐突に話しかけられたリリアは、素っ頓狂な声をあげた。


「お主も聞いたことがあろう。『グリンダイラー』という童話」

「え、あ、はい。ある青年が呪われた剣グリンダイラーを手にしてしまって、次々と殺人を行うけれど、突如現れた男が倒すお話、ですよね……?」

「そうじゃ。これは一般にはニルバーナの話としては伝わっていないが実はニルバーナの民の話だ。青年は呪いの剣を手にしたのではなく、人を斬り過ぎて剣が呪われてしまったのだ。それを見かねたニルバーナの住人が彼を討ち取った。そういう話じゃ」


 ってことは、本当に俺の島って……まさか。

 全然信じられない。


「俺は戦闘民族ってやつなのか? でも俺は島のやつに弱い弱いって言われ続けてきたぞ?」

「戦闘民族同士の中では弱いのかもしれぬ。じゃがここでは違う」

「う、嘘だ。外海は化け物だらけってじっちゃん言ってたぞ!」

「それは島から出さぬための方便じゃろう。お主は強い」


 な、なんてこった……。今まで俺が勘違いだと思っていたことは、全部事実だったのか?

 俺はあまりの衝撃に何も言えなかった。

 




フリード・ニルバーナ君

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