清流の森
ルナフレアが過去に清流の森に行ったことがあるというので、話を聞いてみるとどうやら昔水龍に会った場所を覚えているらしい。まあそこに龍がいるとは限らないんだが、手掛かりがないよりは随分ましだ。
というわけで俺たちは日を改めて清流の森に向かうことにした。
「それじゃあクオンさん。張りきるのはいいですがリリアにはまだ子供は早いと思うので、くれぐれも気を付けけて下さい」
一瞬リリアのお母さんが何を言っているのか分からなかったが、リリアが真っ赤な顔で反抗しだしたのを見て察した。
そうか、そういえば俺とリリアはあんなことからこんなことまでやってる設定になってるのか。なんか今更俺から説明するのも面倒だし、それはリリアに任せるとしよう。
というわけで、俺たちはリリアの家から去って、学校の寮に戻ったのだが、街中は大騒ぎになっていた。
「さっきの巨人はなんだったんだ!?」
「あっちは貴族たちが住んでいる地区だったはずだが……」
「まさか敵襲か?」
そんな感じでざわついている。そして騎士団が現場に馬を使って急行しているのともすれ違った。
さて、俺がやったってばれるかな。まあでも真実をそのまま話しても信じられない気がするけど。
俺は知らんぷりをして寝ることにした。なんとかなるだろ、たぶん。
そんなこんなで次の日もゆっくりと休んだ俺は、事件から二日後に学校に登校した。生徒たちはやはりゴーレムのことについて噂をしているようだった。
「あーこらうるせえぞ。まず先日の巨大生物について話すが……」
煙草を咥えた担任の先生が喋り始めると、クラスメイト達は一斉に黙った。
「王都の魔法学博士によると、あれは召喚魔法によって出現した『ゴーレム』であった可能性が高いらしい」
やるなその博士、あってる。
担任の発表によってクラスは再びざわつき始めた。
「知っての通り、召喚魔法は超上級魔法。最高階位に属する魔法だ。この国でそれを扱えるとなると、数は限られてくる。騎士団、S級冒険者、宮廷魔導士、それと……勇者殿とかな」
担任がそんな思わせぶりな発言をしたせいでクラスはさらに盛り上がった。
「だが彼らが無意味にそんなことをするはずがない。かと言って敵国の襲撃にしては破壊行為もないし、いたずらに召喚魔法を見せたことになり目的がわからない。そもそもゴーレムの痕跡が一片たりとも残ってないから集団で幻覚魔法でも食らってたんじゃないかという説すら出ている。とにかく現在騎士団が鋭意調査中だ、お前らは調査の邪魔をするなよ。以上だ」
そんな感じで先生の話が終わって授業が始まった。休み時間はゴーレムの話でもちきりで、陰謀論だの国の実験だの様々な噂がされていた。
俺はなるべく発言しないようにして、リリアとルナフレアが行動できる週末を待つことにした。
そんなこんなで時間は過ぎ、週末になった。結局ゴーレムの件は、解決してないようだ。まあ痕跡は無いしリリア家とタローが口を開かなければ解決しようがないだろう。
そういえばこの騒動に乗じて新聞の隅の方にこっそりと辺境伯娘、つまりリリアとタローの婚約破棄の記事が載っていた。皆ゴーレムに夢中であまり気にしてなさそうだったが。
俺たちは再び土曜日に集まり清流の森に行くことになった。清流の森は別名屍の森とも呼ばれており、自殺や遭難、果ては殺人による屍が多く存在しているらしい。
森まで案内してくれた馬車のおじさんは最後まで入るのはやめておけと忠告してくれたが、俺は行かなければならない。
「でも俺はいかなきゃいけないけど、ルナフレアとリリアは本当にいいのか?」
森に入る前に俺は今一度彼女たちに確認する。
まあルナフレアに関してはいてもらわないと本当に龍が見つからずに遭難しちゃいそうなんだけど。
「問題ない。私はクオンについていく。そして精神を鍛える」
いや俺と一緒にいても特に精神が強くなったりはしないと思うんだけどな。というか精神力という観点では一番ルナフレアが強いんじゃないかと思うんだけど。
「私ももちろんクオンについていくわ! 恩返ししないと! 恩返し!」
張り切るリリア。
まぁいいか、本人たちがいいって言ってるなら。
「よし、じゃあパパッと見つけちまおう」
「「おー」」
俺たちはあんまり気合の入ってない声を出しながら、森の中へと探索に入ったのだった。
えらいハリキリボーイがやってきたものだぜ




