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お酒の行く末


 失禁したままその場から動かないタローを放って、俺は決闘を見ていたリリアのもとへと向かった。


「勝った、んだよね?」


 リリアはいまいち飲み込めていないようだ。まあ俺もそうだから仕方ない。


「たぶんな。いやなんかあまりにも締まらない終わり方だったから、決闘した気がしないんだけど……あれって本当に異世界転生者の勇者なんだよな? 世界を救うとかいう」

「ええ、間違いないわ。けど、そうね私もなんだか拍子抜けしたというか……世界、大丈夫かしら」


 リリアもやはりしっくり来ていないようだ。


「でも確実にタローの実力はあったわ。クオンが強すぎて、逆に弱く見えてしまっただけだと思う」


 ルナフレアが淡々とそう言った。


「俺が強い? いやそれは無いと思うんだが……」

「いや絶対強い」

「いやでも」

「絶対強い」

「まあまあ、二人とも。とりあえず決闘には勝ったんだし、クオンは目的を果たしたほうが良いんじゃない?」


 リリアに言われて俺の本来の目的を思い出した。そうだ、そもそも金彩を手に入れるために来たんだった。さて、どうしようか……。

 考えていたら、リリアのお母さんが話しかけてきた。


「クオン君、でしたね? 今回は随分と騒がせてくれました」

「あ、す、すみません」


 謎の迫力に思わず謝ってしまう。笑っているのに怖い。


「まあ、それはいいのです。実は前々からあの勇者様の態度には苛ついておりましたので」

「そうだったんですか」

「ええ。リリアからも嫌だと何度も相談されていましたが、何分主人は乗り気ですし、国も絡んだ大ごとですので断るに断れなかったのです。あなたは良い働きをしてくれました」


 なるほど。リリアも母親には相談していたのか。


「じゃあリリアの婚約は?」

「決闘もありましたから、世間体も考えると勇者様は内密に婚約破棄せざるを得ないでしょう。処理は少々大変ですが何とかなると思います」

「そうですか、それは良かった」

「あなたは一体何者なのです。あの異世界転生者をあっさりと倒すなど、聞いたことがありません」

「何者って言われても……。島出身の男ですが」

「島?」

「ニルバーナ島ってとこから来ました」

「ニルバーナ……? ふふ、そうですか。面白い方ですね」


 この人も信じてないな……。まあいいけどさ。

 本題を話すとしよう。


「あの、ひとつお願いがあって、金彩というお酒が欲しいんですけど」

「金彩。ああ、あの高いお酒ですか。あんなものを何故欲しがるのです」

「島の祭りで使う予定なので、買ってくるように親から頼まれたのですが思っていたよりも高くて手に入りそうにないから欲しいのです」

「思っていたよりも高いとは……どうやら田舎の島から来たのは間違いないようですね。まあですが理由はわかりました。もう結婚式もないですし、お譲りしましょう」

「本当ですか! やった!」

「今とってきますね」


 そう言ってリリアのお母さんは家の中に戻っていった。

 よし、ついにやったぞ。いやついにって言ってもまだ島を出てから二週間くらいしか経ってないけど。なんかそう考えると意外と楽だった気もしてくるな。なんか結局化け物みたいなやつもいなかったし……。


 運が良かったってやつなのかな……? それにしたって勇者がこんな弱くて大丈夫なのか?


 悶々とそんなことを考えていると、リリアのお母さんがお酒を持って戻ってきた。壺のようなものにふたがされている。壺には『金彩』と筆のようなもので書かれた紙が貼ってあった。高そう。


「はい、これが金彩です。主人が気絶から目覚める前に持って行った方がいいですよ。さっきのゴーレムとやらの出現で街中でも騒ぎになってそうですし」

「おお、これが! ありがとうございます!」


 俺は酒を受け取った。ううむ、達成感も相まってお酒が重く感じるぜ。

 そうか、あんな巨大なゴーレムが出たらみんな気づくよな。騎士団がここにきても厄介だ。よし目的のものは手に入れたし、さっさとずらかるとしよう。


「よし、リリアは家にいたほうが良いだろうし、ルナフレア、ずらかるぞ」

「合点承知」

「あ、ちょっと待ってクオン」


 ずらかろうとしたがリリアに引き留められた。


「どした」

「お礼を言わなきゃと思って。ありがとうクオン、この恩は必ず返すわ。というか盗賊の時からの恩全部まとめて返す! 返せるかわからないけど……」

「ああ、いいよそんなの。俺が好きでやったことだし」

「いいえ、この恩は返さなきゃ駄目なの! 絶対!」

「お、おう」


 息を荒くしてそう告げるリリア。思わず俺もたじろいでしまった。

 そして何やら頬を赤らめたかと思うと、こっちをちらちらと見てくる。


「そ、そう例えばクオンが前に結婚がどうとか言ってたし、私はちょうど婚約がなくなったから、そういう意味で関係を発展させていくというのもやぶさかでないというか――」


 ――ぱりんっ


 リリアが喋っている時に不吉な嫌な音がした。

 俺は音のした方を見る。すると俺が持っていた酒の壺がわれていた。俺の足元は壺の中にあった酒によって水たまりが出来ている。つまり、酒の中身が全部無くなってしまったのだ。


 え? なんで? 俺は困惑した。

 だが俺は何故そうなったのかがわかっていた。攻撃されたのだ。地面から現れた先のとがった土の塊が、壺の底を破壊した。そしてその攻撃主は、あそこにいるタローだ。

 俺は奴の方をみる。奴は俺の方を見てわらっていた。


「やってやったぜ! ざまーみろ! その酒がお前の大事な目的なんだろ?」


 殺気を全く感じなかった。だからこそ俺は気づけなかったのだ。そうか、そもそも俺に攻撃する気なんてなかったんだな。だから殺気がなかった。

 してやられた。俺が甘かった。放置なんてせずにボコボコにしておくべきだった。


 俺は何が起きたか段々と理解し、怒りが沸々と沸き上がってきた。俺はただの割れた壺と化したものを地面において、タローのいる場所へとゆっくりと歩いていく。

【身体強化・最大】【風属性・付与】

 俺は右の拳をぎゅっと握りしめた。


「ざまあねえな。これぞ試合に負けて勝負に勝つってやつだ。ははは!」

「そうだな、自分が情けねえよ。だからせめて試合では完膚なきまでに叩きのめさせてもらう――ぶっとべ」

「ぐぼぁっ!??」


 俺は奴の腹を握りしめた拳で打ち抜いた。ばきばきと骨を砕く感触が手に伝わる。タローは吐血し、赤黒い血を派手にぶちまけ始めた。そのまま風属性を付与した俺の拳は勢いをつけてタローをはるか遠くへと吹っ飛ばした。


 腹を貫通させるくらいの気持ちで殴ったけれど、流石異世界転生者、頑丈だな。

 そんなことよりなによりも、俺の、酒が!! 酒がああ!


「ど、どうしよう……」

「元気出してクオン。もう仕方ない、その壺をなんとか修復して、中身には適当なお酒を入れよう」


 ルナフレアが無表情でそう言ってきた。

 流石にそれはばれるような……じっちゃんとか酒マニアだし……。


「あの、金彩ってもう手に入りませんかね?」


 俺はすがるようにしてリリアの母親にそう尋ねたが、彼女は遠慮がちに首を横に振る。


「今年は本数が少なかったし、今から手に入れるのは不可能に近いでしょうね。そもそもあのレベルのお酒は人に譲るなんてありえないわ」


 そんなものをお使い感覚で取りに行かせるって何考えてんだよ父さんたちは。


「ただ……一つだけ望みがあります」

「の、望み!? な、なんです?」

「実は金彩は毎年、水龍様への貢ぎ物として納められるのです。だからそれを手に入れれば……」

「水龍様……?」

「ええ。知りませんか? この【アルガランド国】を守ってくださると言われている水龍アクエリオン様を」


 地域に根付く土地神のような存在ってことか。


「その水龍様に献上した酒をこっそりといただけばいいのか。バレたら祟られそうだな……」

「祟られるというか、殺されると思います。水龍様は実在していますので」

「ええ!? そうなんですか」

「はい。なので唯一の望みとしては、水龍様を見つけ、お願いをしてお酒を譲ってもらうことです」

「見つけるったって……龍なのに見つかるんですか?」

「いえ、献上してもお姿を現した事はありません。けれどごくたまに水龍様のお姿を偶然見た方もおりますので不可能ではないかと。龍はここから東にある【清流の森】にいるとされています」

「そうですか……」


 これは地道に探すしかなさそうだな。

 俺がそう思っていると、


「私、もしかして水龍に会えるかもしれない」


 ルナフレアがそう言った。


「どういうことだ?」

「私が小さい頃龍に会ったのは話したでしょ? その時行った森が清流の森。もしかしたらその時の龍が水龍かも……」


 どうやら、まだ俺の運はつながっているようだ。





じっちゃん「今ごろ大和国にでも着いたのかのぅ」

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