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vs異世界転生者

 


 俺とタローは対峙する。

 さて、油断なんか1秒たりともできない。

 俺の全力で迎え撃つのみだ。『グラビティホール』はここぞという隙を見つけ次第うつしかない。発動するかどうかはわからないけど。


【身体強化・最大】【武器強化・最大】

 俺は手に持った木の棒を武器に見立てて、やつとの間合いを測る。ちなみにこの棒は外海を渡るときに使っていたあのオール代わりの棒である。


「おい、てめえ、そんな木の棒で俺と戦うつもりなのか? 死にたがりにもほどがあるんじゃねえの。それとも俺をおちょくってるのか。だとしたら大成功だぜおい」


 タローは眉をひくつかせながらそう言った。

 別に俺だって好んでこんな棒をつかっているわけじゃない。山で修行していた時に、なけなしの金で買った剣なんかも使ってみたのだが、すぐに壊れてしまったのだ。


 壊れるというより、粉砕って感じだったけど……俺の剣技術が足りないんだろうな。結局いろいろと試した結果、唯一壊れなかったのが、この島から持ってきた木の棒だったというわけだ。

 もはやこれなら素手でもいいような気もするけど、じっちゃん剣術使いたいしな。ないよりはましだ。


「まあいい。俺の剣ダインスレイスの餌になってもらう」


 そう言ってタローは背中にかけている鞘から剣を引き抜いた。

 一見普通の剣に見えるが、あいつ剣の名前みたいなの言ってたよな。ダインなんちゃらとか……そういうのってだいたい良い剣だから困るな……これ以上強くなられても。


「ダインスレイス。聞いた事がある。勇者しか持つことの出来ない幻の剣」


 ルナフレアも珍しく驚いていた。幻の剣ときたか。そりゃ強そうだな……。


 さて、俺と勇者の力の差はどこまで開いているのか。


「決闘の見届け人は私リリアの母、リルラリルハが承ります」


 そう言ってリリアのお母さんがお辞儀をした。

 父親と違って堂々としてるなぁ。

 そんなことを考えていたら、いつのまにか決闘が始まってしまった。


「死ね!」


 タローは一気に踏み込んで、俺に剣を叩きつけてきた。俺はそれを木の棒で受け止める。

 思ったより力が強くないな……まずは様子見ってところか。


「どうだ! 俺の持つ聖剣ダインスレイスの力は! くくく、受け止めているだけで必死だろう。今、その木の棒をたたき切ってやるぞ。ふん!!! ――あ、あれ?」


 タローはほほを膨らませ力を入れた顔をしていると同時に困惑した顔をしていた。

 なんだ? 今こいつが「ふん!!!」とか言ったときに、少し棒にかかる力が変わったような気がしなくもないが、全く大したことはない。俺はその場から一歩も後退していない。


 まさか今タローは力を込めたのか? いやいやそれなら俺の木の棒なんて真っ二つに割れてるはずだ。あっちのは聖剣とか言ってたし。聖剣対木の棒なんて賭けにもなんねえよ。


 どういうことだ。そうか、これは罠だな。俺を困惑させる気か。勘弁してくれ、そういう心理戦は苦手なんだよ。とりあえず、距離をとろう。

 俺は押し付けられている剣を振り払うように木の棒を振るった。


「うぐあっ!?」


 タローはそのまま上に飛んだ。

 あれは飛んだんだよな? 俺の攻撃で上に吹き飛ばされたようにもみえたけど、衝撃を和らげるためにわざと上に飛んだに違いない。

 そのままタローは落下して、受け身もとらずにゴロゴロと地面を転がった。そのまま彼は立ち上がって、俺の方を驚愕の表情で見つめていた。


「な、なんだ? なんでそんな棒きれが斬れない? それに今のはなんだ。この俺が、吹き飛ばされた? いやあり得ない。何かの間違いだ……」


 タローは何やらぶつぶつと呟いているが、俺は騙されないぞ。

 さて、次は何をしてくるか。


「どうやら腕力には自信があるようだが、残念だったな。俺の真骨頂は魔法だ!」


 奴は手のひらを俺に向けた。

 するとそこから巨大な火が現れて俺に向かってくる。


「はっはっは! 防御する暇もあるまい。俺は魔法を無詠唱で発動できるんだ! 燃えて無くなれ!」


 この大きさなら、魔法はいらないな。


「一陣の舞!」


 俺は勢いをつけて、迫りくる炎を木の棒で斬った。

 炎は霧散し、消え去った。


「は? な、何をした? 俺の魔法が消えた?」


 タローは慌てているように見える。


「何って……斬っただけだ。じっちゃん剣術で」

「じ、じっちゃ……? 何をわけわからないことを言っている! そもそも何故俺の無詠唱魔法に驚かない!? お前らは魔方陣も描いてるだろ!?」

「らしいな。けど、それなら俺も使える」

「馬鹿な! これは俺だけのスキルのはずだ!」


 すきる? よくわからないが信じてないなら見せた方が早いか。

 俺はそう思って、魔法を発動させた。タローの足元から突如木が現れて、彼の手足を縛り上げる。

 あれ? すんなり縛れちゃったぞ。


「な、なんだ!? 魔法を発動したのか!? 無詠唱で。そんな……!」

「無詠唱なんて教えれば誰でもできるが」

「そんなわけあるか! まさかてめえも異世界転生者なのか!?」

「そんなわけないだろ。俺は島出身だ」

「ふざけるな!」


 そう言って、タローは縛られた木を破壊して脱出した。

 流石にあれくらいじゃ拘束できないか。


「もういい……消しちまえばどうでもいい。戯言はおしまいだ。俺の究極召喚魔法で終わらせてやる」


 どうやら本気を出すらしい。

 究極ときたか……そうなると俺もあれを出さざるを得ないな。

 さて、成功してくれるか……?

 俺は全身の魔力の密度を上げた。


「終わりだ! 現れろ、『ゴーレム』!」


 奴はそう言って地面に手をかざした。すると、10メートルはあるだろう巨大な石の化け物が現れた。

 で、でけえ……! 俺が今まで見た島の動物たちじゃ比べ物にならない大きさだ。


「オオオオオォオ……」


 ゴーレムは低く唸り声を上げている。

 あいつから繰り出されるパンチは凄まじい破壊力に違いない。


「下手するとこの王都を破壊しかねないが……もうどうでもいい! てめえを殺せればな! 死ねえ!」


 ゴーレムは勢いをつけてその拳を俺めがけて放ってくる。

 やるしか無い!

 俺は両方の手のひらをゴーレムに向けた。

 成功してくれ!!

 グラビティホール!!


 ――ぽんっ


 俺の手のひらから現れたのは、想像していた巨大な黒い球体ではなく、鼻の穴程度の大きさしかない黒い球だった。


 あ、死んだこれ。


 俺はそう思った。

 ゆらゆらと動く黒い球は、ゴーレムの拳にチョコンと触れた。瞬間、ゴーレムの拳は球に途轍もない勢いで吸い込まれていった。


「は?」

「え?」


 俺とタローの疑問がシンクロする。

 黒い球の体積は全く変わっていないのに、ゴーレムの身体は10秒もしないうちに半分以上吸い込まれてしまった。

 そして、呆然と見ているとゴーレムは断末魔のようなものをあげながら石の一片も残さずにその場から消えた。

 その後に対象物を圧縮したグラビティホールも自然に消滅した。


 や、やったのか?

 よくわからないが、俺の魔法が奴の究極魔法とやらを砕いたらしい。

 タローの方を見ると、身体をガクガクと震わせながら、足元を濡らしている。どうやら失禁してしまったらしい。


「どうやらタロー殿は戦意喪失されているご様子。この決闘、クオン殿の勝利となります」


 リリアのお母さんがそう宣言した。

 俺は勝ったという喜びよりも、タローの想定していた実力との差に驚いていた。

 え……? 異世界転生者って化け物じゃなかったの……?




異世界転生はチート

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